サッカーにおいてGKというポジションは特殊である。11人の中で唯一、手を使うことが許される。ミスが失点に直結するポジションであると同時にチームの窮地を救うこともできるのがGKだ。「守護神」と呼ばれ、最後尾からの指示は「神の声」と言われている。法政大学のサッカー部には徳島ヴォルティスの下部組織で育った中野小次郎(2年)というGKがいる。

 

<2019年1月の原稿を再掲載しています>

 

 彼の身長は2メートル。日本サッカー界待望の大型GKだ。サッカー日本代表監督を務めた経験のあるヴァイッド・ハリルホジッチは190センチを超えるGKの出現を望んでいた。現在、Jリーグには中野以上のGKはいない。法政大学の若者こそ磨けば光る原石なのだ。

 

 2018年夏に行われたロシアW杯。日本代表は下馬評を覆す活躍を演じ、過去最高タイのベスト16に進出した。悲願のベスト8に進出するための課題としてGKのレベルアップがあげられている。

 

 昨年12月、元日本代表GKの川口能活が現役を引退した。今後の身の振り方に注目が集まる。日本サッカー協会入りし、若手の育成に関わるというニュースも流れた。日本サッカー界にとってGKは以前にも増して関心が集まっている。

 

 徳島育ちの中野は小学2年生の時にサッカーをはじめた。3年間、フィールドプレーヤーを経験し、5年生の時にGKに転向した。

 

 長身GKに自らの武器を聞いた。

「おそらく、自分は日本で一番大きいGKだと思います。体の大きさを生かしたクロスボールへの対応、ハイボールの処理には自信があります」

 

 高身長を生かしたダイナミックなプレーが中野の持ち味だ。自身の課題については「筋力をもっとつけたいです。あとは足元の技術と俊敏性にも磨きをかけたいです」と口にする。

 

 究極の理想は“何もしない”

 

 法政大学サッカー部では週1回、ウエイトトレーニングを行う。中野はそれに加え自主的に週に3度も自分の体を追い込んでいる。

 

 中野に理想のGK像と訊くと、こう答えた。

「シュートをたくさん止めて勝った試合よりもコーチングでDFを的確に動かしてシュートを打たせないのが理想です。“自分は何もしなかったなぁ”という試合の方が僕は達成感が大きいです。自分が派手なセーブをするというより、堅実な指示を出してチームで守って勝つ方が僕は好きです」

 

 目標とする選手にベルギー代表のGKティボ・クルトワをあげる。身長199センチのクルトワは長い手足を生かしたセーブや俊敏性、足元の技術も一流だ。ベルギー、スペイン、イングランドのリーグで最優秀GK賞を獲得。ロシアW杯ではベルギー代表を3位に導き、ゴールドグローブに選出された。

 

 世界的GKのプレーを参考にしながら、日々大学の仲間と切磋琢磨している中野。法政大学サッカー部でのポジション争いは熾烈である。4年生には前橋育英出身の正GK・吉田舜(J2・ザスパクサツ群馬内定)、3年生には同じく前橋育英から法政大学に進学した山岸健太らがいる。今年の3月に吉田は卒業する。春に3年生になる中野にとって、定位置を掴む大事な年になるだろう。

 

 磨けば光る原石は、四国・徳島の地でどのように育ってきたのだろうか――。

 

第2回につづく)

 

中野小次郎(なかの・こじろう)プロフィール>

1999年3月5日、徳島県徳島市生まれ。小学2年時にサッカーをはじめ、5年生からGKに転向した。USFC-徳島ヴォルティスジュニアユース-徳島ヴォルティスユース。2017年に法政大学に進学。同年U-18日本代表、2018年にはU-19日本代表に選出された。身長200センチ、体重90キロ。

 

(文・写真/大木雄貴)

 


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