(写真:驚異の身体能力を誇るアデトクンボのプレーには一見の価値がある Photo By Gemini Keez)

 2018-19シーズンのNBAはまもなくオールスターブレイクを迎え、これから後半戦に突入する。そこで今回は前半戦のMVP、新人王、最高守備選手、シックスマン賞、MIPを独自に選び、ここまでを振り返っていきたい。多くの印象的な瞬間が生まれているシーズンの中で、最も輝いたのは誰だったのか。

 

注・数字はすべて1月29日のゲーム終了時点

 

【MVP】

 ヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス/平均26.5得点(FG57.3%)、5.9アシスト、12.6リバウンド、1.4スティール、1.4ブロック)

 

 あくまで“前半戦のMVP”という限定付きだが、ここでは怪童アデトクンボが選ばれてしかるべきだろう。今季は攻守両面で縦横無尽の大活躍を続け、平均得点、リバウンド、FG成功率、ダブルダブルの回数はすべてリーグのトップ10入り。所属するバックスがリーグ最高勝率を争ってこれたのは、通称“グリーク・フリーク(ギリシャの怪物)”の存在ゆえである。

 

「アデトクンボは人間の域を超えてしまっている。技術だけではなく、身体能力とかも全部合わせてですね」

 メンフィス・グリズリーズの渡邊雄太がそう述べていた通り、スケールの大きなプレーがこの選手の最大の売り。オールスターのファン投票でもレブロンに次ぐ全体2位に入り、キャプテンの1人に選ばれた。様々な意味で、24歳のアデトクンボはリーグの看板として確立した感がある。

 

(写真:怪物的な快進撃を続けるハーデンは2年連続MVP 受賞なるか Photo By Gemini Keez)

 もっとも、そんなアデトクンボも最終的には今季のMVPからは漏れるかもしれない。ヒューストン・ロケッツのジェームズ・ハーデンが、12月中旬以降は24試合連続30得点以上という脅威の記録を継続中。その間の平均得点は40を超えており、快進撃は歴史的と呼ぶほかにない。開幕からの26戦中14敗を喫してウェスタン・カンファレンス14位と低迷していたロケッツだったが、エースが30得点ゲームを続けている24戦で17勝を挙げて5位まで急浮上してきた。チーム、個人ともにこの勢いを保てば、ハーデンの2年連続MVPも視界に入ってくるはずだ。

 

 

【新人王】

 ルカ・ドンチッチ(ダラス・マーベリックス/平均20.5得点、5.4アシスト、6.9リバウンド)

 

(写真:欧州出身のテクニシャン、ドンチッチは客が呼べる選手)

 多くの個人賞が混戦模様な中で、今季の新人王はシーズン半ばにしてすでに“当確”の声が挙がっている。スロベニア出身の19歳、ドンチッチの活躍はそれほどに際立っているのだ。

 

 シュート力、パスワーク、ドリブルのうまさを全て備えたオールラウンダーは、11、12月と2カ月連続でウェスタン・カンファレンスの月間最優秀ルーキーに選ばれた。欧州の名門レアル・マドリードの一員として16歳でプロデビューしたとあって、強心臓も頼もしい。ファンを喜ばせる華やかさを備えた“ファンタジスタ”は、米スポーツ界最新のセンセーションになった。

 

 今季は他にもデアンドレ・エイトン(フェニックス・サンズ)、ジャレン・ジャクソン・ジュニア(グリズリーズ)といったルーキーが好成績を残しているが、ドンチッチが産み出したインパクトは別格。ダーク・ノウィツキーからマブスのエースの座を引き継いだ俊才は、NBAで長く活躍していきそうな予感を感じさせる。

 

 

【ディフェンシブ・プレイヤー・オブ・ジ・イヤー】

 ポール・ジョージ(オクラホマシティー・サンダー/平均27.3得点、4.0アシスト、8.0リバウンド、2.3スティール)

 

(写真:サンダーといえばラッセル・ウェストブルックだが、今季はポール・ジョージこそがチームのベストプレーヤー Photo By Gemini Keez)

 2014年8月に右足骨折の大ケガを負った際には、ジョージはもう2度と全盛期の輝きを取り戻せないと思えた。しかし、あの悪夢からもう4年半。サンダーに移籍して2年目の今季、ジョージは攻守両面で自己最高のシーズンを過ごしていると評判高い。

 

 オフェンスも素晴らしいが、毎晩のようにペリメーター(スリーポイントエリアの外側)で相手エースとマッチアップする守備の貢献度はそれ以上。ジョージにガードされた選手はFG成功率が著しく下がるというデータもある。サンダーがディフェンシブ・レイティングでリーグトップ3に入っているのは、ジョージの頑張りゆえに違いない。

 

 リーグ屈指の好漢としても知られるこの選手の完全復活を、今では多くの関係者が喜んでいる。選手生命が危ぶまれるほどのケガを克服し、28歳にして最高のシーズンを経験していることは、同じく故障に悩まされている他の選手たちにも新たな希望を与えることだろう。

 

 

【MIP】

 パスカル・シアカム(トロント・ラプターズ/平均15.2得点、2.9アシスト、7.0リバウンド)

 

(写真:ラプターズ内でのシアカムの貢献度はカワイ・レナードに次ぐ2番手か Photo By Gemini Keez)

 ラプターズでは新加入のカワイ・レナードにばかり注目が集まっているが、シアカムの成長ぶりも見逃せない。3年目にしてほぼすべての主要スタッツで自己最高の数字を残し、ディフェンスもハイレベル。昨季まではドウェイン・ケイシー前HCの信頼を掴みきれなかったロールプレーヤーが、今ではニック・ナースHCの戦術に不可欠の選手として確立した。

 

 シアカムがラプターズにおけるドレイモンド・グリーン(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)のような存在として台頭したことと、トロントのタレント集団がこれまで以上に隙のないチームになったことが無関係のはずがない。健康さえ保てば、ポストシーズン中には全国区になる可能性も十分。カメルーン出身の若者が今季に紡いだサクセスストーリーは、カナディアンドリームの成就として記憶されていくに違いない。

 

 

【シックスマン・イブ・ジ・イヤー】

 スペンサー・ディンウィディー(ブルックリン・ネッツ/平均17.2得点、5.0アシスト、2.5リバウンド)

 

(写真:クラッチショットを連発するディンウィディーの勝負強さはネッツファンには心強い Photo By Gemini Keez)

 ドマンタス・サボニス(インディアナ・ペイサーズ)、デリック・ローズ(ミネソタ・ティンバーウルブズ)、モントレズ・ハレズ(ロサンゼルス・クリッパーズ)など、この賞の考慮に値するだけの働きを続けるベンチメンバーは数多い。飛び抜けた本命は存在しないが、ここではネッツに与えてきたインパクトの大きさを買ってディンウィディーを選びたい。

 

 スタメンではなくとも、25歳のディンウィディーはクローザー役を務めることも頻繁。2014年のドラフト2巡目指名から這い上がった度胸満点のスラッシャーは、昨年12月には3年3400万ドルの新契約もゲットした。確固たるスーパースターは不在にも関わらず、イースタン・カンファレンス6位と今季に大躍進を遂げたネッツの象徴的な選手となった感がある。

 

 好事魔多しというが、1月下旬に右手親指の腱を断裂したディンウィディーは数週間の離脱を余儀なくされそう。このケガゆえに、今季終了時にシックスマン賞を受賞することは難しくなった。例えそうだとしても、前半戦でネッツを押し上げたディンウィディーの活躍に大きな価値があったことには変わりはない。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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