早いもので2019年が明けて1カ月が経過しました。「平成最後の〇〇」とよく耳にしますね。読者の皆さま、今年もお付き合いのほど宜しくお願いします。さて、1月5日から開幕したアジアカップで日本代表は決勝進出を果たしました。決勝は2月1日、相手はカタール代表です。これまでの戦いを振り返ってみましょう。

 

 逃げ切るという経験

 準決勝まで日本は失点が少なく(6試合3失点)、陣形がコンパクトにまとまっています。良いチームだなと僕は思います。グループリーグのトルクメニスタン戦(3対2)、オマーン戦(1対0)、ウズベキスタン戦(2対1)、決勝トーナメントに入ってからのサウジアラビア戦(1対0)、ベトナム戦(1対0)と1点差での勝利が続きました。

 

 この結果を不安視する報道もありましたが、僕はさほど気になりませんでした。アジア各国、レベルの差が縮まってきたなとは思います。その一方で、アジアカップにおいて日本はコンディションのピークを決勝に向けて設定しています。それに僅差で逃げ切るという経験も今の若いチームには必要だと思います。逞しくなるためにはこういった戦い方を経験するのも良いのではと思います。

 

 印象的な選手はMF柴崎岳です。彼が左右にボールを散らしたり、縦にボールを入れたりとタクトを振るっています。攻撃面では彼のボールの配球が冴えてきました。大会序盤は試合勘の不足などもありパスミスが目立ちました。試合数を重ねていくうちに彼の感覚、それと周囲の選手と呼吸が合い始めて効果的なパスが多く出ています。また、柴崎によくボールも集まっている。DF陣がボールを持った時の柴崎のポジショニングも改善されてきているように映ります。数年前からすると「逞しくなってくれたなぁ」と彼の成長に目を細めています。

 

 20歳のセンターバック、冨安健洋の活躍も目立ちます。今大会、彼は素晴らしい出来です。どんどんチャレンジしてボールを奪う。そこをDF吉田麻也がサポートする。良い関係が築けています。準決勝のイラン戦、冨安は相手のエースFWサルダル・アズムンとのマッチアップが多かった。イランはアズムンにロングボールを集める戦術。アズムンに対して冨安は一度体を当てる、敢えて距離を取る、ボールを蹴られた時のランニングコースの選択などミスがなかった。これからもっと経験を積んでさらなる成長を期待したいです。

 

 冨安をもう少しボランチで!

 経験を積ませるためにもう少し、冨安をボランチで使うのも手なのかなと思います。もちろん代表のチーム事情、ベルギーでのチーム事情がありますが、幅を広げるためにも面白いかなと思います。もともとボランチもできる選手ですし、初戦のトルクメニスタン戦ではボランチの選手に相次いてアクシデントが発生したため、柴崎とダブルボランチを形成しました。中盤での守備、球の捌き方をもっと経験してから最終ラインに戻るとピッチ内の“見え方”が変わってくる。もっともっと面白い選手になると僕は思いますよ。

 

 別の角度からアジアカップを見てみましょう。準々決勝のベトナム戦からビデオアシスタントレフェリー(VAR)制度が導入されました。日本はVARに泣きVARに助けられましたね(笑)。この制度の導入には賛成ですが審判団がきちんと使いこなせるかが今後の課題です。準決勝のイラン戦でMF南野拓実が相手のPKを誘発した場面は「映像を見なくても明らかなのに……」という場面でも確認のために流れを止めてしまった。VARは公平なジャッジを手助けする素晴らしい制度ですが、もう少し主審は自分の判定に自信を持ってもらいたい。せっかく選手たちが頑張って素晴らしい戦いを披露しているのに流れが分断されてしまっては試合に水を差しかねません。

 

 決勝の相手はカタールです。立ち上がりの失点だけは避けるような入り方をして欲しいなと思います。我慢ができれば20分から30分くらいに1回はチャンスが来るはず。そこまでの立ち上がりを集中して守って欲しいと思います。あまり焦らず、相手の出方を見るような展開でいいと僕は思います。

 

 日本サッカー界に貢献した4人へ

 Jリーグに目を向けましょう。これまで日本サッカーを支えてくれていた、川口能活、中澤佑二、楢崎正剛、小笠原満男らが引退を表明しました。長い現役生活の中で日本サッカーを牽引してくれた彼らに感謝したいです。彼らを見て育った選手もたくさんいるはずで、偉大な4人の労をねぎらいたいです。

 

 小笠原の鹿島アントラーズに対する貢献は計り知れません。鹿島がこれまで獲得した20冠のうち彼は17冠に携わっています。元々は攻撃的MFでしたがイタリアに移籍してカムバックしてから本格的にボランチにコンバートされました。そこから一層彼の存在感が高まりました。

 

 今後の身の振り方はまだ発表されていませんが、彼に期待することは皆さんと同じように僕もたくさんあります(笑)。子供たちや若い選手にアントラーズ魂を植え付けて欲しい。また、彼は東北支援団体「東北人魂」の発起人でもあります。以前、私が支配人を務める鹿島ハイツに東北人魂の関係者の方々を連れてきてくれたんです。「グラウンドを作るためにはどうしたらいいの? どんな環境が必要? どんな備品を集めないといけない?」と小笠原を含めヒザを突き合わせて話したことがあります。東北の要、代表者として支援も頑張って欲しいなぁと思います。小笠原の今後の活躍を影ながら応援しています。ひとまず、本当にお疲れ様でした!

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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