(写真:昨年5月にベルトを失った田口の再起戦は日本人対決の世界戦となった)

「プロになる前に、田口(良一)選手と井上尚弥選手の試合(2013年8月25日、神奈川・スカイアリーナ座間での日本ライトフライ級タイトルマッチ。挑戦者・井上の判定勝ち)を観に行きました。その時の田口さんの強さが、深く印象に残っています。

 対戦できることを本当に嬉しく思います。みんなが思っている以上に(自分は)やれると感じているので倒しにいきます」(田中恒成)

 

「負けたら引退と思っていたけど、日が経つにつれて、もう一度チャンピオンになりたいという気持ちが強くなった。

 田中選手は、前回の試合(2018年9月24日、愛知・武田テバオーシャンアリーナでのWBO世界フライ級タイトルマッチ。王者・木村翔に田中が判定勝ち)を見ても強くなっていると感じます。自分自身もレベルアップしないと勝てない。盛り上がる試合をして勝ちたい」(田口良一)

 

 3月16日、岐阜メモリアルセンター で愛ドームにおいて、WBO世界フライ級タイトルマッチ、王者・田中恒成(畑中)vs.挑戦者・田口良一(ワタナベ)が行われる。

 このカードは、本当は2017年大晦日に行われるはずだった。当時、田中はWBO世界ライトフライ級王者。一方の田口は、WBA世界同級王者で、王座統一戦が内定していたのである。ドリームカードにファンの期待は高まった。

 

 しかし、その3カ月半前の9月13日、タイのパランポン・CPフレッシュマートと闘った田中は9ラウンドTKO勝ちを収め2度目の王座防衛を果たすも、両目に眼窩底骨折を負ってしまう。このダメージは深く、王座統一戦が流れた経緯があった。そんな“幻のカード”が遂に実現するのだ。

 

 時を経て、両者の立場は変わった。

昨年9月に田中は木村翔に勝ち、世界最速に並ぶ12戦目での3階級制覇を達成。これに対して田口は、昨年5月20日にヘッキー・ブドラー(南アフリカ)に判定で敗れ、王座から陥落している。

 

 23歳の若き王者・田中に、32歳のベテラン・田口が挑む図式となった今回の一戦。

 戦前の予想は、どうやら「田中有利」のようである。

 スピード、パワーにおいては田中が上回り、それに加えて勢いもある。田中が実績のある田口を踏み台にして、さらなるステップアップを果たす試合になると見られているようだ。

 

 心の闘いとなる東海地区決戦

 

 さて、果たしてそうだろうか。

 今回、田口は階級を一つ上げる。フライ級での初ファイトが、いきなり世界戦。これは不安材料であると同時に、期待を抱かせるものでもある。ライトフライ級で世界王座を7度防衛した田口は、この間、減量にかなり苦しんでもいた。減量苦から解き放たれることで、パワーアップが見込めるのだ。

 テクニックと粘り強さはほぼ互角ながら、僅かに田口が上回っているのではないかと私は見ている。

 

 この一戦、どちらが早い段階で試合を自らのペースに持ち込めるかがポイントとなるが、その分岐点は、技術ではなく気持ちであろう。

 田中も田口もハートが強い。

 どんな不利な状況に陥っても、諦めることなく死力を尽くして粘りを見せるタイプだ。

 

 難しいが、予想するなら、キャリアで上回る田口が判定勝ちを収めると見ている。

 一見すると「ひ弱そうな青年」に感じられる田口のメンタルは、とてつもなく強い。ディフェンスすら攻撃的で、簡単には田中に主導権を与えないはずだ。

 

 これまで東海地区において日本人同士での世界戦は、3度行われている。

 

▼1994年12月4日、名古屋市総合体育館、WBC世界バンタム級王座統一戦

○薬師寺保栄(正規王者=松田)[判定2-0]辰吉丈一郎(暫定王者=大阪帝拳)●

▼1998年4月29日、愛知県体育館、WBA世界スーパーフライ級タイトルマッチ

○飯田覚士(王者=緑)[判定2-0]井岡弘樹(挑戦者=グリーンツダ)●

▼2018年9月24日、武田テバオーシャンアリーナ、WBO世界フライ級タイトルマッチ

○田中恒成(挑戦者=畑中)[判定2-0]木村翔(王者=青木)●

 

 いずれも判定決着ではあるが、手に汗握る名勝負であった。

 田中と田口の一騎討ちは、心の闘いになるであろう。いずれが勝者になろうともクロスファイトの好勝負は必至。東海地区での大勝負、期待せずにはいられない。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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