第229回 2020東京オリンピック ボクシングはどうなる?!

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 山根明氏が退陣したのが昨年8月。内田貞信氏が新会長に就いたのが、その翌月の9月だから日本ボクシング連盟が新体制となり半年が経過したことになる。日本アマチュアボクシング界は、信頼回復に向けて新たな歩みを始めた。

 

 だが、日本の枠を超えて世界に目を向けるとアマチュアボクシング界は依然、大きな問題を抱えたままだ。

 ボクシングがオリンピック競技から除外されるかもしれない危機に直面しているのである。

「このままなら、ボクシングをオリンピック競技から外さざるを得ない」

 IOC会長のトーマス・バッハ氏が、そう発言したのは昨年秋のことだ。

 

 理由は多岐にわたるのだが、次の2つが特に重要視されている。

 ひとつは、八百長が存在しているとの疑いが持たれていること。

 

 リオ・デ・ジャネイロ大会において、AIBA(国際ボクシング協会)が、アゼルバイジャンと取引をしたのではないかとの疑いが表面化している。アゼルバイジャンから多額の資金がAIBAに貸し付けられ、その見返りに金メダル2個が保証されたというのだ。それだけではない。判定が公平性を欠いた試合が、リオ・デ・ジャネイロ大会以前から、いくつも指摘されている。もし、不正なジャッジがあったならば、これは、ボクシングという競技の根幹を揺るがす大問題だ。

 

 2つ目は、ガバナンス(組織統治)に関してである。

 昨年、AIBA会長にウズベキスタン人のガフール・ラヒモフ氏が就任した。

 このラヒモフ氏の表向きの肩書は実業家だが、裏社会とつながりのある人物だと見られている。

「彼はヘロインの売買にかかわっており、また、ロシアを拠点とする犯罪組織『ブラザーズ・サークル』の中心人物である」

 アメリカ合衆国の財務省はそう明言し、ラヒモフ氏をブラックリストに挙げているのだ。そして、AIBA組織内の金銭的な不透明さにも疑いを持っている。

 

 このような状況において、IOCはAIBAに対して組織内の調査を要求。しかし、明確な回答が得られなかったとして、一昨年からAIBAへの分配金の支給を停止していた。

 

 楽観視できない現状

 

 ボクシングをオリンピックの競技から排除するか否か。

 昨年12月、東京で開かれたIOC総会でこの問題が話し合われたが、結論は先送りにされている。IOCは、AIBAの改善姿勢、そして新たな報告を待ち、今年6月に最終決定を下すとしたのだ。

 

 これに対して、日本ボクシング連盟は、ボクシングをオリンピック競技として存続させるための署名活動を行っている。

「何か行動をしなければ」との思いからなのだろうが、もはやそういうレベルの問題ではなくなっている。

 

 声は二分されている。

「ボクシングは東京オリンピックで除外される」

「いや、何だかんだ言ってもIOC委員が本気でボクシングを除外しようと考えているとは思えない。伝統あるボクシングをオリンピックから消すことはないだろう。どこかで妥協案を見出して存続させるのではないか」 海外のボクシング関係者は、後者になると見込んでいる向きがあるが、果たしてどうなるのか?

 

 私は、楽観視できないと思う。

 いま、オリンピックは変わりつつある。2024年のパリ大会からは、ブレイクダンスが種目として加わり、将来的にはe-Sportsも正式種目になるのではと言われている時代なのだ。

 AIBAに組織的改善が見られないのであれば、IOCは意外なほどアッサリとボクシングを正式種目から除外するのではないか。

 

 また、次のようなことも考えられる。

 東京オリンピックにおいてボクシングは一度除外される。しかし、その後に新たなアマチュアボクシング競技統括団体がIOC主導でつくられ、パリ大会から復活する――。

 そんな日本にとって悲劇的なシナリオも否定できない。

 

 結論は6月に出される。その前に、AIBAには積極的な動きを見せてもらいたい。

 

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 今年40周年を迎えるNHK文化センターの記念講座として、昨秋から今年3月にかけてオリンピック三部作を著した近藤隆夫氏による「いだてん 金栗四三の生涯」と題した講座が開催されます。

 

・日時 2019年3月30日(土) 13時30分~15時

・場所 NHK文化センター 横浜ランドマーク教室

※同講座は先着順となっております。お早めにお申し込みください。

 

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近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)

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