(写真:現在のメインアリーナは青柳市民公園体育館。今年の国体でも会場として使用される)

 B.LEAGUEのB2で異彩を放つクラブがある。東地区のサイバーダイン茨城ロボッツだ。2月18日現在、26勝15敗で地区&ワイルドカード3位につけており、プレーオフ進出(各地区1位か各地区2位の中で勝率1位)が狙える位置にいる。

 

 茨城ロボッツは岡村憲司スーパーバイジングコーチ(監督)と岩下桂太ヘッドコーチ(HC)の“二頭体制”を敷いている。2016-17シーズン途中から指揮を執る岡村監督は役割分担についてこう語る。

「これまでスーパーバイシングコーチとしてやってきましたが、そんなに難しいことはしていません。僕は大枠の戦術を立てる。それに対して、個人へのアプローチや選手の戦術理解度を深めるのはヘッドコーチやアシスタントコーチ陣が伝えていく。違和感なくやれています」

 

(写真:“二頭体制”は3シーズン目を迎える岡村監督<左>と岩下HC)

 選手たちの目に2人はどう映っているのか。キャプテンのSF眞庭城聖の証言。

「2人は正反対のタイプですね。桂太さんは情熱的で、言葉選びも上手い。桂太さんの練習はビデオや資料を作成して、すごく細かいんです。岡村さんは他にはいない監督だと思います。オンとオフでは別の人格と言ってもいいくらい。監督の時はすごくきついことを言いますし、耳の痛くなることも言う。でも岡村さんの言うことは的を射ていますから。プライベートでは桂太さんはすごく真面目で、岡村さんは面白い人で場を盛り上げるのが好きな人です」

 

 試合中の姿勢も対照的である。タッチライン際で立ち上がり、声を張り上げているのが岩下。その傍で冷静に状況を見つめているのが岡村だ。その岡村は話す。

「僕は躍動的ではないんです。観る人によってはずっと座って采配しているよりも、HCがアクションをして戦う姿勢を観たい人もいる。そういう意味では2人いてちょうどいいのかなと思います」

 

(写真:岡村監督のポジションはPF。昨季は20試合に出場)

 45歳の岡村は、過去2シーズン選手兼任で指導に当たっている。今季は選手登録していないが、練習ではコートに入って選手と一緒にプレーする。「空いているポジションがあれば僕が入ります。一番理解しているのが自分ですし、それを体現するためにやっているというイメージです」。試合でも練習でも多くの言葉は口にしない。これは岡村の指導哲学に依る。

「あまり自分が指示をしてまって、それがうまくいくと“指示通りに動けばいい”と楽をしてしまう。その楽をさせないようにしています。もちろん選手たちが悩んでいる時には“こうした方がいい”と指し示す必要はあります。基本的にコートの中でのことは選手に解決してもらう方が多いと思います」

 

 多彩な攻撃が武器

 

 第22節終了時点でリーグ4位の1試合平均81.5得点が示す通り、茨城ロボッツは攻撃型のチームだ。スリーポイント成功率36.5%は同2位を誇り、眞庭をはじめPG/SG福澤晃平らシューターを多く揃え、多彩な攻撃パターンが売り物にする。岩下はこう胸を張る。

「いろいろなバスケットができる。メンバーによっては速い展開に持ち込めますし、外からの攻撃もできれば、ビッグラインアップで中からも攻められる。変幻自在がウチの強みです」

 

(写真:眞庭は岡村監督の指導により才能を開花させた)

 指揮官が選手に求めるのは「応用力」だ。岡村監督の説明。

「いろいろなことができるというのはメリットとデメリットがある。ひとつのことを徹底してやるのも強さですが、ただいろいろなタイプの相手と試合をします。選手たちの今後を考えればいろいろなオフェンスやディフェンスを知った方が選手の幅が広がりますから。僕としてはどのチームに行っても活躍できるような選手を育てたいので、それがウチのバスケットスタイルです」

 

 キャプテン2季目、チームをまとめる眞庭はここまで全41試合に出場している。1試合平均10.9得点。アウトサイドからのシュートを得意とし、スリーポイントシュートの成功率37.7%はリーグ8位だ。シューターとして得点を稼ぐ一方で、得点の演出役も担っている。「ビッグラインアップの時の役割は違うと思っている。アシストが増えていますし、あまり自分で無理して点を取りにいくよりは、味方を生かすための動きを意識しています」

 

(写真:ビッグラインアップ時はゲームメイクを担当するランダル)

 今季の攻撃陣を牽引するのは“スクーティー”ことSF/PFアンドリュー・ランダルだ。昨年11月に途中加入したランダルは1試合平均22.4得点、10.4リバウンド、6.9アシスト。オールラウンドな活躍を見せている。個人技に固執して輪を乱すようなタイプではない。岡村もエースに対しては「とにかく彼は頭が良い。こちらの指示も理解できるし、自分からもいろいろと案を出してくれる」と厚い信頼を寄せている。

 

 茨城ロボッツのB1昇格に向けた課題は明確だ。1試合平均76.5失点は下から数えた方が早い。岡村も守備力の向上は必須だと考えている。

「守備が弱いチームは勝てない。NBAでもゴールデンステイト・ウォリアーズはオフェンスばかりフォーカスされますが、ディフェンスも良いんですよね。フィジカルが強いわけではなく、ディナイ(相手のパスコースを消すディフェンス)を張るわけではないんですが、全員が要所を押さえて守れるんです。全員がバスケットを理解して、チームのために動く。それが理想ですね」

 

 B.LEAGUE初のまちづくり会社

 

(写真:多彩な攻撃パターンを持ち、攻撃力が売り物のチーム)

 チームを後押しすべく新たな“城”が完成した。今年4月にオープンする水戸市緑町のアダストリアみとアリーナだ。収容人数5000人の“B1級”の本拠地である。「僕も選手だったからわかりますが、お客さんが入るか入らないかではモチベーションか全然違いますから」と岡村は歓迎する。B.LEAGUE元年から茨城ロボッツでプレーする眞庭も「ホームとして5000人入るアリーナがあるというのはすごいこと。そこに泣いているチームがいくつもある中で、ロボッツが年を重ねていくごとに大きくなっていると感じさせるプロモーションのひとつだと思います」と声を弾ませた。

 

“強く、愛されるチーム”を目指す茨城ロボッツのロールモデルはサッカーJリーグの鹿島アントラーズだ。茨城県鹿嶋市に本拠を置き、リーグ最多20冠を獲得した強豪クラブ。人口約6万7500人の都市ながら18年のホーム観客動員は2万人近い数字を記録している。

「僕らもいろいろな地域から観に来てもらえるチームにしたい。地元を盛り上げるのはもちろんですが、周りの地域からも足を運びたくなるようなチームです。カシマサッカースタジアムのように多くの人が集まり、熱い応援をしていただきたい。鹿嶋市よりも水戸は都会ですし、東京からも近い。だからロボッツでももっと人を集めて、鹿島さんに近付けるようなチームをつくりたいんです」(岡村)

 

(写真:M-SPO内にあるアリーナ。茨城ロボッツの練習に使用することもある)

 Jリーグ同様に地域密着を理念に掲げるB.LEAGUE。茨城ロボッツもホームタウンの水戸市との結び付きは強い。JR水戸駅からメインストリートを進み、アダストリアみとアリーナを繋ぐ道の途中にまちなか・スポーツ・にぎわい広場(M-SPO)がある。17年9月にオープンしたM−SPOは茨城ロボッツ・スポーツエンターテインメント子会社のいばらきスポーツタウン・マネジメントが運営している。B.LEAGUEクラブ初のスポーツまちづくり会社いばらきスポーツタウン・マネジメントはM-SPOでROBOTSバスケットボールスクール、RDTチアダンススクールなどの事業を展開している。

 

 同社の川﨑篤之代表取締役社長は茨城県ひたちなか市出身で、03年から水戸市市議会議員を2期8年務めた。

「僕は水戸市の隣町で生まれ育ちました。小さい頃から水戸は憧れの地で、都会の象徴でした」

 M-SPOが建った水戸市南町3丁目は、かつてデパートが建っていた。川﨑はさらに話を続ける。

「ここは水戸のど真ん中で、東京で例えるなら銀座4丁目の交差点です。昔は今の5倍人が歩いていて、人の肩と肩が触れるぐらいでした。それが93年に閉店してからは空き地と空き家がどんどん増えていく最も象徴的な場所だったんです。その24年間ずっと空き地だった場所を私たちがスポーツというコンテンツを使って元気にしたいと動き出したんです。それまでは何もなかった場所が、約1年間で芝生の広場ができて、アリーナ、スタジオ、カフェもできました。明らかにまちの風景は変わりました。子どもたちがワクワクするような場所をつくりたいんです」

 

(写真:アリーナのほかにカフェ、スタジオなどが併設されているM-SPO)

 茨城県は47都道府県で唯一、民放の県域テレビ局がない。茨城ロボッツにとって、地元メディアがないことは他チームに比べてプロモーション面で不利になっている。だが川﨑は発想の転換で乗り切るという。

「ロボッツの存在そのものがメディアになる。彼らが何かを発信することや地元のものに触れれば宣伝にもなります。“ロボッツが勧めるなら買ってみよう”“ロボッツがいるなら行ってみよう”と。メディアがないからこそ、自分たちがどういったメディアになれるのか。そこを常に模索し続けているのが私たちの特徴だと思います」

 

 水戸と言えば水戸黄門である。黄門様の印籠を知らない者はいない。

「プロスポーツには黄門様の印籠みたいなところがあるんです。ロボッツだから、アントラーズだから、ホーリーホックだから。それだけの理由でみんながついてきたり、納得したりする。その責任を背負っていることをしっかり意識しながら、スピード感を持って結果を出し続けなければいけないと思うんです」(川﨑)

 

「人生楽ありゃ苦もあるさ」とはドラマ『水戸黄門』の主題歌だが、「涙のあとには虹もある」と続く。茨城ロボッツにも輝かしい未来が待ち受けているに違いない。

 

 BS11では「マイナビBe a booster! B.LEAGUEウィークリーハイライト」(毎週木曜22時~22時30分)を放送中です。21日(木)はB2福島ファイヤーボンズを特集。ハイライトは2月16日(土)、17日(日)に茨城・つくばカピオアリーナで行われた茨城ロボッツvs.仙台89ERSをメインにオンエアします。是非ご視聴ください。


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