(写真:パワーとスタミナが持ち味のウルフ)

 2017年世界選手権大会(ハンガリー・ブタペスト)金メダリストのウルフ・アロンはこの春、東海大学を卒業し、実業団の了徳寺学園へ進んだ。新たな一歩を踏み出したものの、1月に負った左ヒザのケガの影響で上半期はほぼ棒に振った。復帰後の8月、グランプリ・ブダペスト大会で優勝を飾るが、連覇を目指した世界選手権大会では5位に終わった。だが11月のグランドスラム大阪大会を制し、来年へ弾みをつけた。2020年東京オリンピックで金メダル獲得を期待されるウルフが、激動の2018年を振り返った。

 

――11月のグランドスラム大阪での優勝おめでとうございます。収穫の多かった大会でしたか?

ウルフ・アロン: 調子自体は良くなかったんです。それでもしっかり対戦相手のことを対策しながら危なげなく試合はできたと思います。

 

――今回はボクシングなどで一般的な急激に体重を落とす「水抜き」という減量法を試されたそうですね。

ウルフ: はい。リカバリーで炭酸水を飲んでしまったので、試合中に身体がつったりするアクシデントがありました。大会当日の対処にはまだまだ改善の余地があります。ただ1回戦から決勝までの流れを見ると、1試合ごとに調子は上がっていった。その点は良かったと感じています。

 

――アクシデントを乗り越えて優勝した点も評価できると。

ウルフ: そうですね。試合の日は1年間にそんなに多くはありません。そこにピークを持っていく難しさはあります。だからどんな調子でも勝てるのが一流。そういう準備をすべきだと考えています。

 

 試行錯誤の体重調整

 

(写真:ケガで戦列は離れていたが、現在IJF世界ランキングは日本人最高の7位)

――まずはこの1年を振り返っていただきたいと思います。今年1月に左ヒザ半月板を損傷し、手術を受けました。4月の全日本体重別選手権大会を欠場するなど実践復帰までに約半年も費やしました。

ウルフ: これほどブランクが空いたのは競技人生で初めてです。手術をしたこと自体、初の経験でした。しばらくは歩くことすらダメだったので、その間は実家に帰るなどして柔道から離れるようにしていましたね。

 

――6月の全日本実業団体対抗大会で復帰。8月のグランプリ・ブダペスト大会では優勝を果たしました。しかし、2連覇のかかる9月の世界選手権(アゼルバジャン・バクー)では5位でした。

ウルフ: ブダペストの時は久しぶりに体重別の試合で減量に苦労しました。そのため世界選手権では早めに体重を落として臨みましたが、計量後に体重を戻すと身体が重く感じる課題があったんです。僕のベスト体重は106kg前後。世界選手権の時は1週間前から102kgをキープしました。それで計量が終わった後、たくさんご飯を食べると、翌日は105kgなのにとても身体が重く感じられました。持ち味だったスタミナもなく、いつもだったら試合の後半にギアが入るのに、ローギアのまま終わってしまいました。

 

――ベスト体重に近い状態なのに、身体が重く感じたのはなぜでしょう?

ウルフ: 1週間、102kgの身体に慣れてしまったんです。だからグランドスラム大阪では、その反省点を生かし、「水抜き」を選択しました。1週間前までは105kg前後だったので、計量後に体重を戻しても重さを感じずに戦うことができたんです。

 

(写真:現役選手でありながら母校の東海大でコーチも務める)

――世界選手権を終えて、減量法以外でも変えたことはありますか?

ウルフ: 世界選手権では得意技の内股や大内刈りは試合で投げることができたものの、まだ万全というわけではありませんでした。タイミングや形にばかりこだわるのではなく多少強引にでも技を掛けるように意識しています。

 

――その世界選手権では準々決勝、3位決定戦のいずれもが一本負けでした。守りの面で修正を加えたい部分はありますか?

ウルフ: そうですね。いつもならもうひと粘りできたはずなのに、耐えきれず投げられてしまった。ヒザの不安があり、力がまだ戻っていなかったのだと思います。世界選手権後は稽古であえて相手に技を掛けさせて、それを耐えるトレーニングなどをしています。

 

 激戦区・100kg

 

――100kg級にはリオデジャネイロオリンピック銅メダリストの羽賀龍之介選手、インドネシア・ジャカルタでのアジア競技大会金メダリストの飯田健太郎選手など国内に好敵手が多いですね。

ウルフ: 競い合う日本人がいないとモチベーションを上げるのが難しい。ライバルがいることは刺激になっていますし、その存在には感謝しています。

 

――世界を見ても、熾烈な階級だと?

ウルフ: 僕自身は一番レベルが高い階級だと思っています。

 

――同じ階級で意識している選手はいますか?

ウルフ: 誰かを特別マークすることはないです。全員の対策をしていかないと勝てないのが100kg級だと思っています。

 

――事前の対策には時間を掛けますか?

ウルフ: 得意な型だったり、何をやってくるかなどを頭に入れておくぐらいですね。あまり考えすぎないようにはしています。固定概念が一番怖いですね。予想と反するパターンで攻めてきた時に対応できなくなってしまいますから。

 

(写真:組手の速い外国人を想定して自分より軽くて速い選手とも組み合う)

――対戦相手には予測不能なトリッキーな動きをする選手もいますよね。

ウルフ: そのために反射的な能力を鍛えることが大事になってきます。僕自身、しっかり組み合ってから思い切りぶん投げられる場面はあまりない。むしろ奇襲を仕掛けてきた時に投げられてしまうことがあります。

 

――実戦形式の稽古である乱取りで、異質のタイプと組み合うようにしていますか?

ウルフ: それでも世界にはいろいろなタイプの選手がいます。だから同じ環境でばかり稽古してはいけないと、違う道場でトレーニングする時もあります。乱取りにしても、あまり知らない選手とやるようにしています。知っている人だとある程度予測できてしまう部分もありますからね。

 

――柔道は突き詰めれば、突き詰めるほど奥が深い?

ウルフ: これをやったら勝てるという正解はない。それぞれが違うスタイルを持っているのが柔道の面白いところだと思いますね。日々の努力や頭を使うことで勝てる競技だと感じています。

 

 一本よりも勝ちにこだわる

 

(写真:得意の内股と大内刈りを「徐々に極めていきたい」と語る)

――以前、「『一本』よりも勝ちにこだわりたい」とおっしゃっていました。その思いに変わりはないですか?

ウルフ: はい。前に出る姿勢は大事だと思うんです。決してポイントでリードしたら制限時間まで逃げて勝とうというわけでもありません。「一本を取る必要はない」と言うと、多くの人が「ポイントを取ったら逃げればいいのか」とイメージすると思うんですけど、それとは違う。

 

――わざわざリスクを負う必要はないと?

ウルフ: そうなんです。ポイントを取った後はしっかり相手をさばいて、自分のペースで試合を進めていくことが大事です。守りに入っても相手につけこまれますし、ガンガン攻めてくるところに付き合う必要もありません。あくまでも自分のペースで試合をして、隙があれば技あり、一本を取りにいけばいいんです。

 

――そのスタイルは昔から?

ウルフ: そうですね。グランドスラム大阪でも準々決勝、準決勝と優勢勝ちしましたが、技ありを奪ってから無理に攻めることはしませんでした。逆転勝ちは多いものの、逆転負けはあまり記憶にないですね。

 

(写真:「地道に、頭を使っていくことが大事」と今後を見据える)

――柔道に育てられ、生かされていると?

ウルフ: 柔道がなかったら職もなくなってしまいますし、生きていけないです。最近は第一線にいる人たちがしっかりとした人間でなければいけないと強く思います。そのためには行動も気を付けないといけないと考えています。

 

――「徳を積む」といったような日々の心掛けも?

ウルフ: ええ。試合が近くなるといつも以上にゴミを拾うようになりますね。試合前は泊まっているホテルの部屋を綺麗にしてから出発する。それが実際、試合に繋がるかどうかはわかりませんが、自分としても清々しい気持ちで試合会場へ向かえますからね。

 

――最後に今後の目標は?

ウルフ: まず来年の世界選手権に出ないと、再来年の東京オリンピックへは近付けない。そのために一番大事な大会が国内の代表選考会となる4月の全日本体重別です。そこで結果を出すことですね。オリンピックで優勝する目標達成のためには、まずオリンピックに出ないと話になりませんから。目の前の試合をひとつひとつ勝っていきたいです。

 

ウルフ・アロン プロフィール>

1996年2月25日、東京都生まれ。階級は100kg級。6歳の時に祖父の勧めで講道館にある春日クラブで柔道を始める。東海大浦安高時代は高校選手権、全国高等学校総合体育大会(インターハイ)などでタイトルを獲得した。東海大入学後は世界ジュニアで3位に入ると、講道館杯全日本体重別選手権大会は2年時から2連覇を果たす。全日本選抜体重別選手権大会は3年時から2年連続で制した。17年世界選手権に初出場で金メダルを。18年春、東海大卒業後は了徳寺学園に所属。身長181cm。得意技は内股と大内刈り

 

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 BS11では『密着! 柔道家ウルフ・アロン ~ケガと挫折をのりこえて~』を12月16日(日)19時から放送します。ノンフィクション作家の長田渚左氏との対談で明かされる秘話、全日本男子・井上康生監督をはじめとした関係者へのインタビューと見応え十分な内容となっております。ウルフ・アロン選手の強さ、魅力に迫る渾身のドキュメンタリーを是非ご覧ください!


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