本当に残念。やはり、今回の日本代表の戦いぶりはこの一語に尽きます。アジアカップの優勝、W杯予選の突破……。ザックジャパンが4年間で積み上げたものが本番でほとんどできなかった。1分け2敗という結果よりも、そのことが改めて残念でなりません。

 大会前までは、今までにない日本代表のサッカーがW杯で見られるのではないかというワクワク感がありました。ワンタッチでボールをまわして相手を翻弄し、ゴールを決める。しかし、ブラジルのピッチで展開されたのは、それとは異なるサッカーでした。速いパスや縦への突破でゴールに迫るのではなく、単調なクロスやパワープレー。これはアルベルト・ザッケローニ監督の判断ミスと言わざるを得ないでしょう。W杯では初の指揮を執るプレッシャーが彼をどこか狂わせてしまったのかもしれません。

 気になった規律のなさ

 もちろん、実際にプレーをするのは選手ですから、自分たちの判断で今までやってきたサッカーをすれば良かったと感じます。でも、それもできなかった。彼らもまた「負けてはいけない」というヘンな呪縛にとらわれていたのかもしれませんね。

 今回のW杯を見ていると、やはり世界の“個の力”の高さを感じます。それは単なる身体能力やテクニックではなく、プレーに対する判断の速さです。当然、相手も研究してくる中、どう対処するのか。パスなのか、ドリブルなのか、といった選択を素早く的確にできるからこそ、大舞台でも活躍できるのでしょう。これは日本の選手たちとの大きな差でした。その意味では敗退後、選手たちが口にしていたように日本はまだまだ「力不足」であり、「未熟」だったのでしょう。

 そして、もうひとつ気になったのは守りにおける規律のなさです。立て続けに2点を奪われたコートジボワール戦しかり、勝利を求められながら先に失点したコロンビア戦しかり、点の獲られ方が非常に悪すぎました。

 コロンビア戦では先制点につながるPKを与えたDF今野泰幸の対応がミスと指摘されています。確かにあのスライディングは安易でした。もっと我慢してついていき、ファーサイドのコースを切っていけば、シュートは簡単に打てなかったでしょう。

 しかし、彼がなぜあんなに焦ってファウルを犯してしまったのか。それはチーム全体で守備が機能していなかったことも一因だと感じます。コロンビア戦では全体が間延びし、相手に前を向いてプレーするスペースを与えていました。コロンビアはワイドに広がって、日本の組織だった守りを分断しようとしていましたから、その術中にはまってしまったとも言えるでしょう。

 ただ、それは組織で修正し、対抗できる問題です。でも、なかなか前からプレスをかけられず、相手の個人技が生きる状態になっている。それは後ろから見ている最終ラインの選手なら気づいていたはずです。だからこそ、余計に「止めなければやられる」との心理が働いてしまったように思います。

 勝ち越し点を奪われた後半10分の場面も、ボールを奪われた後の対応がすべて後手にまわりました。サッカーにおいてはボールを取られないことも大事ですが、奪われた後のプレーがもっと大事です。たとえボールを失っても、すぐに連動し、奪い返す態勢が整えばピンチを最小限に食い止めることができます。

 守りの基礎徹底を

 このようなことは代表レベルの選手ではあれば、わざわざ言わなくても分かっているでしょう。分かっているはずなのにできなかった。そこにチームとしての意思統一が不十分だった点を感じます。

 代表チームはクラブとは異なり、チームづくりの時間は限られています。日本は得点力不足と言われて久しく、攻撃のかたちをいかに構築するかに議論が終始しがちです。僕が代表選手だったオフトジャパンでも、守備よりも攻撃に練習の重点が置かれていました。守りに関しては個々でコミュニケーションはとるものの、全体として決め事は多くありませんでした。“ドーハの悲劇”が起きたのは、結果的にはチーム内で“いかに守るか”の意識が共有されていなかったからだと考えています。

 いくら点を獲っても、それ以上に点を獲られては勝てません。思い切った攻撃をする上でも安定した守備は不可欠です。だからこそ、今後は守備においても、“日本はこうやって守る”というスタイルをもっと突き詰めてほしいと思うのです。

 近年は少年サッカーを見ていても、攻撃に関してはかなり細かい指導がされています。体の使い方、ボールへのアプローチなどのテクニックは僕たちの頃よりもはるかにレベルが上がっています。ただ、その一方で守備の基本が備わっていないと感じることが少なくありません。いかに相手のシュートコースを切るのか、いかにスペースをつぶいて追い込むのか、いかに囲んでボールを奪うのか……。

 そういった基礎をジュニアから日本代表まで一貫して身につけておくことは重要ではないでしょうか。攻撃は極端な話、ひとりでもゴールを決められますが、守備はひとりではゴールを防げません。全員が原理原則を踏まえた上で、システマティックに動き、たとえ個の力で上回る相手でも組織で対抗する。この4年間、攻撃で芽生えてきた“日本らしさ”を次の4年間では守備でも構築してほしいと願っています。

 守備を磨く上では、代表戦のマッチメイクも考え直す必要があるでしょう。ただの調整ではなく、本当の強化になる相手を選定することが求められます。国内での試合が少なくなっても、アウェーで強豪と戦う場を増やす時期に来ているのではないでしょうか。本気で世界のトップ10、そしてW杯での優勝を狙うのであれば、それに見合った相手と対戦しなくては本当の実力はつきません。

 臨機応変に戦えるチームに

 今回のW杯も見ていても、世界のサッカーは変わってきていると感じます。ボールポゼッションを高め、華麗にパスをつなぐサッカーから、守りを固め、シンプルに縦へ速い攻撃を仕掛けて点を獲る。高温多湿の環境も影響したのでしょうが、スペインやイタリアがグループリーグで敗退し、コスタリカやチリが予想を覆して決勝トーナメントに進出したのは、その典型でしょう。

 世界で勝つにはひとつのやり方では通用しない。そのことも今回は改めて痛感しました。相手によって臨機応援に戦い方を変え、選手たちが自分たちで考えて動ける。その段階まで日本代表を高めていかなくてはなりません。

 もう2018年のロシアW杯への道はスタートしています。この敗北を未来の勝利に変える。日本サッカー協会が中心となり、次期代表監督の人選はもちろん、世界で勝てるサッカーをどのようにつくるのか、強い意志を持って取り組んでほしいものです。

 本当に残念だった今回のW杯でしたが、日本を代表してプレーしてくれた選手たちには、ひとまず、ご苦労様と言いたいです。今後はブラジルでの悔しい経験を自身のさらなる成長につなげることに加え、ぜひ後輩たちにも伝えてほしいと願っています。

 まだまだ大会は続きます。負けたら終わりの決勝トーナメントを楽しみながら、日本のサッカーに足りないもの、必要なものを探していきましょう。

大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。

※このコラムは毎月末更新の「ZAGUEIROの眼」のW杯特別版です。そのため、通常のコラムは休載いたします。ご了承ください。