いよいよ、29日(日本時間)からFIFAワールドカップブラジル大会の決勝トーナメントが始まる。グループリーグ(GL)では順当勝ちあり、波乱ありと様々なドラマが巻き起こった。ここからは負ければ終わりのトーナメント。GLの時のように勝ち点を計算した戦い方ではなく、勝つことのみを目指したサッカーがベスト16から見られるだろう。また、決勝Tから90分間で決着がつかなければ延長戦、さらにPK戦にもつれ込む可能性もあり、まさに総力戦で勝ち抜く力が求められる。果たして、ベスト8に名乗りを上げるのはどのチームか。

【ブラジル×チリ】
 攻撃的チーム同士の対決となった。ブラジルの中心は3試合4ゴールを上げているFWネイマール。グループリーグ初戦、3戦目でともに2ゴールを決めてセレソンをベスト16に導いた。彼を中心にサイド、中央、個人での仕掛けなど、自由自在の攻撃で相手ゴールに襲い掛かる。対するチリはGLでスペインを撃破する金星を挙げ、勢いに乗っている。10年南アフリカW杯ベスト16を経験したFWアレクシス・サンチェス、MFアルトゥル・ビダルなどが中心として成長。ボールを奪ってから、怒涛のように選手がゴールに走り出すスピーディーかつダイナミックなカウンターは、ブラジル相手にも通じるはずだ。実はW杯で両国は南アW杯ベスト16で実現済みだ。その時はブラジルが勝利した。開催国として優勝が絶対条件のブラジル、南米での大会で躍進目指すチリ。いずれにしても、互いにゴールを強く意識した激しい展開になると見る。

【コロンビア×ウルグアイ】
 南米の実力国である2カ国の激突は、名勝負となる予感だ。コスタリカは90年イタリアW杯以来、2度目の決勝トーナメント進出を果たした。当時の中心選手だった英雄カルロス・バルデラマが、自身の後継者に挙げたのがMFハメス・ロドリゲスだ。GL3試合3ゴール2アシストを記録した攻撃的MFが、同国の好不調の出来を決めると言っても過言ではない。ウルグアイはFWルイス・スアレスがGL最終戦のイタリア戦で相手DFに噛み付いたとして、4カ月間の活動停止。今大会の残り試合の欠場を余儀なくされた。そんなエース離脱は痛いものの、彼の穴を補える選手層がウルグアイにはある。FWエディソン・カバーニ、FWディエゴ・フォルラン。前回大会で同国のベスト4進出に貢献した2人が、前線でコロンビア守備陣の脅威であり続けられれば試合を優位に進められるだろう。

【オランダ×メキシコ】
 両国ともに組織力の高いチームだ。オランダはハイプレスで相手のボールホルダーに重圧をかけ、奪ってからのカウンターでゴールを仕留める。GL3試合で10ゴールを記録した得点力は驚異的だ。チームを牽引するFWアリエン・ロッベンは圧倒的なスピードのドリブルでGL3戦3ゴール。FWロビン・ファンペルシーも3ゴールを挙げており、オランダとしてはメキシコ戦もいかに前線に早くボールを供給できるかがポイントだ。対するメキシコは、ボールポゼッションを高めて試合をコントロールして、巡ってきた決定機を確実にモノにできるか。今大会はGKギジェルモ・オチョアが神がかり的なセーブを連発し、総失点はわずか1。堅守でオランダの速攻をしのげれば、空いたスペースを使って得意のサイド攻撃も機能する。

【コスタリカ×ギリシャ】
 話題のチーム同士が相対する。コスタリカはウルグアイ、イングランド、イタリアが揃った「死の組」を首位で突破して世界を驚かせた。粘り強い守備から鋭いカウンターでゴールを狙うのが十八番。身体能力が高いFWホエル・キャンベルに精度の高いボールが供給されればチャンスにつながる。初めてベスト16入りしたギリシャはグループリーグ最終戦で、4位から大逆転突破を果たした。特徴は鉄壁の守備。日本戦では数的不利の状況になりながら、無失点に抑えた。ギリシャは延長戦、その先のPK戦も厭わないタフな戦い方ができる。ジャイアントキリング連発のコスタリカと大逆転を呼び込んだギリシャ。より勢いに乗っているのはどちらか。

【フランス×ナイジェリア】
 好調のフランスと苦しみながらGLを突破したナイジェリアの一戦は、レ・ブルーが優勢と見る。FWカリム・ベンゼマが3ゴール2アシストの活躍でチームを牽引。点をとってアシストもするという背番号10にふさわしい働きを見せている。守備陣も安定しており、98年以来の優勝も夢ではない。一方、ナイジェリアは危険なエリアで凡ミスが見受けられるなど、試合中に集中力を維持できるかがカギを握る。前線にはMFジョン・オビ・ミケルやFWビクター・モーゼスら能力の高い選手はいるだけに、フランスの攻勢をしのいで前線へつなぎたいところだ。

【ドイツ×アルジェリア】
 常勝国対新興勢力の興味深い一戦だ。アルジェリアはGLの韓国戦で32年ぶりにW杯白星を挙げた勢いに乗って同国初の16強入りを達成した。高い身体能力に加えて、ポゼッションを高めてゴールに向かうのがスタンダードだが、ロングボールに抜け出すという一発も備える。GL最終戦でロシアに先制されながら同点に持ち込んだ粘り強さは、金星をあげるために最も大事な要素といえる。迎え撃つドイツは、激戦区を無敗で通過。MFメスト・エジル、MFトニ・クロース、MFマリオ・ゲッツェ、FWトーマス・ミュラーが絡む前線は、力強さと柔軟さを兼備している。引いて守られることが予想されるアルジェリア戦では、早い時間帯に先制して主導権を握りたい。


【アルゼンチン×スイス】
 まさに個と組織の激突だ。アルゼンチンはGL3連勝を飾ったものの、すべて1点差勝利という接戦だった。FWリオネル・メッシ、FWゴンサロ・イグアイン、FWセルヒオ・アグエロ、MFアンヘル・ディ・マリアという大会屈指の攻撃陣を警戒され、引いて人数をかけた相手の守備とカウンターに苦しんだ。しかし、メッシが個人技からゴールを奪い、勝利に導くなど、個が組織を凌駕。苦境に直面した時こそ、アルゼンチンの圧倒的な個が威力を発揮する。対するスイスは名将オットマール・ヒッツフェルト監督の下、堅守からの速攻で崩すサッカーに磨きをかけてきた。MFジェルダン・シャキリやMFギョクハン・インレルなど、タレントは揃っている。彼らが一枚岩となる組織的な戦い方は、アルゼンチンの個を抑え込むことができるのか。

【ベルギー×米国】
 ベルギーはマルク・ヴィルモッツ監督が途中起用した選手がことごとく結果を出して、12年ぶりの16強入りを果たした。総得点は4と物足りなさを感じさせるものの、失点1という堅守で粘り強く勝機を見いだしてきた。実力にそこまで差がない米国とは拮抗した展開が予想される。その中でヴィルモッツ監督がどのようなカードを切って戦況を動かすのか。米国のユルゲン・クリンスマン監督もドイツ時代からその手腕に定評がある。ビッグネームがいない同国が、ドイツ、ポルトガル、ガーナが揃った激戦区を突破できたのも指揮官の堅実な采配に依るところが大きい。GL最終戦のドイツ戦も0−1で敗れはしたが、優勝候補相手に好ゲームを演じた。両指揮官の采配に注目だ。

(鈴木友多)