日本郵政グループ陸上部には、愛媛県大洲市出身の長距離ランナー・宇都宮恵理が所属している。まだ陽の目を浴びていないが彼女は磨けば光る原石だ。大洲市の地元の中学校から陸上の強豪・八幡浜高校に進学。大東文化大学を経て2016年に日本郵政グループに入社した。

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 同陸上部は2014年に設立。2015年に全日本実業団対抗女子駅伝競走大会(クイーンズ駅伝)に初出場すると翌年には優勝に輝いた新興勢力だ。

 

 長距離と一口にいってもトラック種目では大きくわけて3つある。3000m、5000m、10000mだ。素人からすれば「距離が違うだけだろう」と思うかもしれない。だが、専門家からすれば単なる距離の違いだけではない。

 

 距離に伴い、走るペースも変わる。そうなれば、当然、仕掛けるポイントも異なる。長距離はただの体力勝負だけではないのだ。

 

 宇都宮は「(この3つは)全くの別モノです」と語り、5000mと10000mを引き合いに出し、こう説明した。

「5000mはスピードが速い中で一瞬の駆け引きもあり、あっという間にレースが進んでいきます。10000mは我慢の時間帯が長いし、仕掛けるタイミングは人それぞれだと思います」

 

 宇都宮に得意な距離を聞いてみたら、少し間を空けて答えた。

「今は5000mだと考えていますが、どの距離が自分に合っているか、まだわからないのが正直なところです。去年は10000mをあまり練習できなかったにもかかわらず、7月の大会で自己ベスト(32分57秒61)を更新できました。もしかしたら、長い距離も向いているのかなぁ、と感じました」

 

 実業団に入って4年目の25歳。今は様々ことを経験して、自分のスタイルを模索している最中なのだろう。実業団に入ってからレースに対する考えが変わったと宇都宮は言う。

 

「学生時代は自分が駆け引きを仕掛けるとか、そんなレベルにはなかった。極端に言えば、ただ誰かの後ろをついて走るだけでした。近年は“今、(ペースを上げて)前に出られれば、勝てるかもしれない”と考えて走れるようになってきました。駆け引きはまだまだですが、レースをしていてワクワクします」

 

 彼女が手応えを感じた昨年7月のホクレン・ディスタンス綱走大会女子10000メートルB。収穫と課題が出た。この時は怪我もありほとんど長い距離の練習は積めなかったが、レースは宇都宮が引っ張る展開となった。惜しくも最後に落ちて、2位でフィニッシュ。トップは逃したものの「こんなに自分が主導でレースをつくれるんだ」と希望の光が見えた。

 

 5000mに軸足を置きながら、10000mの魅力にも気づいた宇都宮。駆け引きを楽しむ余裕が少しずつできてきたが「勝つためには経験を重ね、仕掛けるタイミングを学ぶ必要がある」と課題を口にする。

 

 チームには2020年東京五輪代表選考レースとなるマラソングランドチャンピオンシップ出場権を獲得した鈴木亜由子(リオデジャネイロ五輪代表)、関根花観(同五輪代表)、同期であり成長著しい鍋島莉奈(2017年世界選手権代表)らが所属している。レベルの高い競争の中で、レーステクニックは盗めるはずだ。

 

 宇都宮の魅力は、未完成なところ、発展途上なところだと思う。彼女が本格的に陸上を始めたのは高校に入学してからだ。現在、エリートチームに身を置く宇都宮は、どのようにして育ってきたのだろうか。

 

(第2回につづく)

 

宇都宮恵理(うつのみや・えり)プロフィール>

1993年6月17日、愛媛県大洲市生まれ。八幡浜高校で本格的に陸上を始める。高校卒業後、大東文化大学を経て2016年に日本郵政グループ陸上部に入部(勤務はかんぽ生命保険)。18年、19年と都道府県対抗女子駅伝の愛媛県の第1区を担当した。自己ベストは3000m9分24秒99、5000m15分42秒82、1万m32分57秒61。身長170センチ。

 

(文・写真/大木雄貴)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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