プロ野球選手はキャンプの1カ月間、まるまる家を空ける。シーズンが開幕してからは旅から旅への毎日だ。

 

 

 家庭を切り盛りするのは奥さんだ。「銃後の護り」といえば、表現が古すぎるか。

 

 監督時代、選手夫人に対し、陰に陽に気を配ったのが、1年前に他界した星野仙一さんである。

 

 奥さんの誕生日には、必ずバースデーカード付きのプレゼントを贈っていた。

 

 その理由を、星野さんはこう述べている。

<ちょっとしたものでも、プレゼントされると人はうれしいものである。日頃の感謝の気持ちが伝わればと思ってのことだ。

 

 奥さんに贈るというのは、やはり、いい家庭じゃなければいい成績は残せないからだ。(中略)

 

 食生活をはじめ選手のコンディショニングのかなりの部分を奥さんが面倒みているわけで、選手の活躍によって家庭の暮らし向きもよくなるが、それがチームの成績にもつながる。そういう意味で、家族も大事な戦力と考えている>(自著『迷ったときは、前に出ろ! タイガース再生への道、険しくとも』主婦と生活社)

 

 家族も大事な戦力――。星野さんはV9巨人の名将・川上哲治さんにこのことを学んだと語っていた。

 

 プロ野球史上最強のチームはどこか。言うまでもなく1965年から73年にかけての巨人である。

 

 前人未到の9連覇。日本シリーズで3敗したことは一度もない。

 

 口さがない者は、よくこんな陰口をたたいていた。

「ON(王貞治と長嶋茂雄)がいれば川上じゃなくても勝てるよ」

 

 その話を王貞治さんに向けると、こんな答えが返ってきた。

「確かに、あの頃の巨人は強かった。しかし、川上さんがいなければ9連覇はできなかった。まぁ5連覇まではできただろうけどね」

 

 川上さんはキャンプ前、夫人同伴の決起集会を開いた。「巨人は家族ぐるみで戦う」と、これが川上巨人のモットーだった。

 

 名二塁手の土井正三さんは語っていた。

「僕らの時代はテレビ中継の時間が短く、1試合に2打席しかテレビに映らなかった。それを女房たちが夕飯の支度をしながらビデオに収めていたんです」

 

 帰宅後、選手は奥さんの撮ったビデオでフォームや打ち取られた球種をチェックしてから床に就いたという。

 

 これぞ「内助の功」だが、最近、こうした話は滅多に聞かない。平成も、あと2カ月で終わりである。

 

<この原稿は2019年3月15日号『漫画ゴラク』に掲載されたものを一部再構成しました>

 


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