8年前の3月11日、東北地方の太平洋側を中心に、最大震度7の大地震が襲った。死者・行方不明者合わせて1万8431人(2018年12月現在)。被災地の惨状を伝えるニュースを編集した映像を、サッカー女子日本代表(なでしこジャパン)の選手たちはドイツ国内を移動するバスの中でくい入るように見詰めていた。

 

 当時のメンバー矢野喬子の証言。「試合に行く前、普段はバスの中でいわゆるモチベーションビデオを見ます。でも、あのときは被災地の様子や日本の皆さんの奮闘を伝えるニュースなどを見ていました。それが、私たちの勇気になっていったんです。“日本の皆さんのために頑張ろう!”“何とか元気になって欲しい”という思いを選手・スタッフ全員が共有して戦いに臨みました」

 

 2011年女子W杯ドイツ大会。準々決勝でホスト国を倒して勢いに乗ったなでしこは初の決勝へ。世界ランク1位の米国を相手に2度もリードを許しながら、そのつど追いつき、PK戦を制して悲願を達成した。

 

 窮地に立たされても決して諦めず、恐るべき粘り強さで逆境を克服する――。こうしたなでしこの戦いぶりは、復旧・復興に向け奮闘する被災地に勇気と励みを与えたとして、同年、チームとして初の国民栄誉賞に輝いた。

 

「実は米国というチームにはひとつクセがあったんです」。なでしこを世界一に導いた佐々木則夫から過日、興味深い話を聞いた。「(米国の選手たちは)1点取ると、しばらくトーンダウンする。“このチームには勝てる”と安心するのでしょうか…」

 

 まるで8年前の再現フィルムを見ているようだった。米国で開催されているシービリーブス杯。初戦で世界ランク1位のホスト国と対戦した同8位のなでしこは、2度までリードを許しながら、2対2で引き分けた。同点ゴールは敗色濃厚の後半アディショナルタイムに飛び出した。リードされても浮き足立つことなく、冷静に試合を運んでいたのは「1点取ると、しばらくトーンダウンする」米国のクセを全員が共有していたからに他ならない。

 

 6月にフランスで開幕する女子W杯。初戦の舞台はパリ・サンジェルマンの本拠地パルク・デ・プランス。“花の都”で好スタートを切り、2度目の大輪の花を咲かせて欲しい。なでしこは「永久に不滅」ならぬ「永久に不屈」である。

 

<この原稿は19年3月6日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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