(写真:昨年末はメイウェザーvs.那須川のエキシビションマッチ実現させたRIZIN)

 遅ればせながら『ボヘミアン・ラプソディ』を劇場で観た。1980年代を熱く過ごした私にとって、心に沁みる映画だった。

 77年に発表され、永く聴き継がれている『We Will Rock You』は、格闘技ファンにとっても想い入れの深い名曲だ。

 

 映画館を出た私に格闘技関係者から連絡が入った。

「マニー・パッキャオとRIZINの間で動きがあるらしい」

 

 その直後にRIZIN実行委員長・榊原信行氏のツイートを目にする。

<現在、実はフィリピンに来ています。メイウェザーに続き、RIZIN15ではこの男と新たな仕掛けを行います>

 そこにパッキャオが契約書にサインをする画像が添えられていた。

 

 ロイター通信が、これをニュースとして配信、パッキャオが4月21日に横浜アリーナで開催される『RIZIN15』のリングに上がるのではないかとの憶測が飛んだ。

 

 4月9日、東京・六本木にあるRIZINのオフィスに向かう。そこで開かれた記者会見には大勢のメディアが集まっていて、帰国したばかりの榊原氏は次のように話した。

「反響が大きくて驚いています。パッキャオが(『RIZIN15』で)試合をするんじゃないかと思われた人もいたかもしれませんが、それはありません。パッキャオとファイト契約を結んだわけではなく、彼が推薦する選手が(『RIZIN15』の)リングに上がります」

 

 続けて、キックボクシングルール(59キロ契約)において、パッキャオの推薦選手であるフリッツ・ビアグタンと那須川天心が対戦すると発表された。

 

 フリッツはキックボクサーだが、ボクシング、総合格闘技の経験もある23歳のフィリピン人。WBCムエタイ・フィリピンフェザー級王者の肩書きを持ち、未知の部分は多いが、潜在能力は高そうだ。とはいえ、那須川にとっては、格下の存在だろう。

 

 このカードが決定したことよりも、この先にパッキャオがRIZINのリングに上がるか否かに注目が集まる。メディアからも、それに絡んだ質問が飛ぶ。対して、榊原氏はこう答えた。

「将来的には上げたい。そういう話もしていきたい。濃い関係を築いてアプローチしていきます」

 

 どうやら、具体的な交渉をしているわけではなく、パッキャオがすぐにRIZINのリングに上がることはなさそうだ。

 

 “ザ・マネー”日本の格闘技界に参戦

 

 RIZINとパッキャオの接点をつくったのは、フロイド・メイウェザー陣営(『TMT東京』)だったという。そして、この日にメイウェザーもプライベートジェットで来日。22時30分から記者会見を開いた。そこで彼は、日本の格闘技界に参入する意思を表明する。

 

「日本でカジノ法案が通過した。これによって格闘技エンターテインメントは大きな広がりを見せることになるだろう。私たちは年内に日本において格闘技のビッグイベントを開催することを決めた。

 まだ詳しくは話せないが、私もエキシビションマッチでリングに上がるつもりだ。RIZINとも協力関係を築いていきたい」

 

 元号が「平成」から「令和」となる今年、日本における格闘技イベントの在り方にも一つの変化が生じるのかもしれない。

 

 1993年11月、米国デンバーで、UFCの第1回大会が開催されたが、そこは「最強の男」を決める苛烈な舞台であった。これは、『PRIDE1』にも引き継がれている。だが令和へと向かうRIZINは違うようだ。「最強の男」を決めることよりも、いかに世間の注目を集め、華々しいものにするかに重点が置かれている。それは、メイウェザーが開催しようとしている新たな格闘技イベントも同じであろう。

 

 時代が変われば、格闘技イベントの在り方も変わる。必然なのだろうし、そこから新たなドラマが生まれるのであろう。でも、昭和から平成にかけての格闘技シーンを凝視してきた私にとっては、ちょっと寂しい。

 

 平成のリングを彩ったファイターたちを私は忘れられない。

 ズンズンチャ、ズンズンチャ、ズンズンチャ、ズンズンチャ。

 We Will Rock You.

 ゲーリー・グッドリッジのことを想うと、とても悲しくなる。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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