子供のころ、よくこの言葉を聞いた記憶がある。「自転車での二人乗りは危険だからダメ!」というものだ。ちょっと悪ぶってやってみると、バランスは悪いし、漕ぐのも重いしと苦戦したのを覚えている。

 

 ところが二人乗り専用車というのがあり、これだと専用設計になっていて乗りやすい。そうか、一人乗りに二人乗るからふらつくのであって、二人で乗ることを前提に作ればおのずからそのバランスは変わってくる。ママチャリ二人乗りとは全く違う感覚だ。

 

 この二人乗り用自転車を「二人乗りタンデム車」と言い、通称「タンデム車」と言うのだが、日本国内ではほとんど普及していない。おそらくこのコラムを読んでいる方も、その周りにもタンデム車を持っているという人はほとんどいらっしゃらないだろう。それだけ国内では普及していないのだ。

 

 実はこのタンデム車、日本国内では自由に乗ることができないことをご存知だろうか?

 各都道府県で、公安委員会が決めているルールにより、一般公道での走行が禁止されているのだ。つまり私有地や、限定された公園などで乗ることしかできず、そこまでは車に積んでいくしかない。私の会社でもブラインドアスリート(視覚障がいのあるアスリート)をサポートしていた時に、練習会場までホイールべースの長い自転車を車で運ぶのに苦労した記憶がある。つまり実質上、禁止されている都道府県ではほとんど使えないものということで、利用者はほぼ皆無に近いのが現状である。

 

 タンデム車のメリット

 

 それだけ日本では嫌われてきたタンデム車のメリットはなにか。まずはブラインドの方が自転車に乗る機会を得られるということだ。視界に支障があれば、普通は自転車に乗れないのだが、前にパイロットと呼ばれる同乗者が乗ることで、コントロール部分は任せることができる。あとは2人のバランスを合わせて漕げば、自転車の持つ爽快感、そしてスポーツをする機会や移動機会を得ることができる。さらにブラインドの方だけでなく、体力の弱ってきた高齢者にも、スポーツや外出の機会を得ることができ、トランスポーターのバリアフリー化を進められるということだ。もちろん健常者同士で乗っても、そのコミュニケーションは独特のものがあり、海外でも親子や夫婦で楽しむ姿をよく見かける。

 

 昔は、そんな考え方や需要がほとんどなかったので、あまり疑問に思われなかった。しかし、このご時世、自転車を楽しむ機会をより多くの人に開いていくのが当然。ましてや東京は来年パラリンピックを開催する。大会では、ブラインドの方がタンデム車で素晴らしいパフォーマンスを見せてくれるだろう。そんな東京でタンデム車に乗れないなんて……。

 

 国内でも、このところ急速に高まってきたタンデム車の一般公道走行開放への機運により、3月末の時点で25道府県において開放されてきた。「そろそろ東京も」という声が高まり、この2月には自転車普及協会や競技連盟、盲人福祉協会など関係14団体が開放を求める要望書を警視庁に提出した。関係者の中ではかなり前から聞いていた課題ではあるが、こうやって正式に申し入れたのは初めてなのだという。

 

 そして、受け取る側の警視庁の警視も、「やはりお互い情報交換をして、研究していく必要がある」との見解を示し、予想以上に好感触。もちろんここから様々な検討やトライアルを重ねる必要があり、道のりは短くないとは思われるが、話し合いのテーブルが持たれたことは素晴らしい進歩である。

 

 ようやく扉はノックされ、議論ができるようになった「タンデム車の公道開放」。都内でタンデム車に乗れることが夢ではなく、目標になった。

 2人で漕ぐからこその、あの不思議な連帯感、スピード感、バランス感覚、ぜひ多くの方に味わって欲しい。きっと、新しい自転車の世界を感じてもらうことができるはず!

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月に東京都議会議員に初当選。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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