(写真:依然としてボーイッシュだがもうすぐ37歳。現役生活終盤を迎えていることは間違いない Photo By Amanda Westcott / DAZN USA)

 カザフスタンの怪物もDAZNへ――。HBOのボクシング撤退以降にFAになった中では“最後の大物”といえた元統一世界ミドル級王者ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン/38勝(34KO)1敗1分)が、スポーツ動画配信サービスのDAZNと新契約を結んだことが3月8日に明らかになった。

 

 報道によると、3年6試合という大型契約。金銭面は発表されていないが、総額1億ドルに達することは確実とみなされている。また、2020、2021年には自前のGGGプロモーションズの興行をDAZNに2興行ずつ放送させるという条項も、契約内に盛り込ませることに成功した。

 

 こんな結果からも明白な通り、ゴロフキンの望みは“金銭”“ハイレベルの対戦相手”“自前のプロモーションの効果的な露出”だった。

 

 昨年9月にサウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ/51勝(35KO)1敗2分)に初黒星を喫したとはいえ、依然として強気に出れるだけの人気と知名度を保っている。その3つの希望条件に関し、ベストのオプションを提示したのがDAZNだったということなのだろう。

 

(写真:DAZNのジョン・スキッパー会長<左>とゴロフキンは直接交渉を行ったのだという Photo By Amanda Westcott / DAZN USA)

「PBCとESPNも巨額オファーを提示し、ゴロフキンは1月に一度はESPNの条件を受け入れた。ただ、結局は翻意し、サインはしなかった」

 ESPN.comのダン・レイフィール記者がそう記していた通り、ゴロフキンは一時はベーシックケーブル局のESPNと契約寸前まで至ったという。

 

 ミドル級に多くの手駒を持たないESPNのオファーは、スーパーミドル級進出プランだったとか。必ずしも層が厚いとは言えない階級でどの程度のビッグファイトができたのかは疑問だが、それでも米国内で莫大な影響力を誇るワールドワイド・リーダー(ESPNの愛称)での露出は魅力だったのかもしれない。

 

 しかし、間もなく37歳になるゴロフキンは、ESPNとの口頭合意後も周囲を見渡す我慢強さとしたたかさを持っていた。そのプロセスは、破断覚悟で最後まで自身の希望を曲げなかった昨年9月のカネロとの再戦の交渉を思い起こさせる。報酬分配で45-55という条件を受け入れさせたカネロ戦同様、今回もESPNの存在をちらつかせつつ、最終的にはDAZNから破格の条件を引き出すことに成功したのだった。

 

 GGGの最終章

 

(写真:アベル・サンチェス・トレーナーもチームに残ることが確実視されている Photo By Amanda Westcott / DAZN USA)

「DAZNこそが私にベストのプラットフォームを供給してくれると考えた。未来のすべてのボクサーにとって最高の拠点でもある。他の会社からもオファーを受けたことは秘密ですらないが、私はGGGプロモーションズの選手と私をプロモートするための最高のパートナーを手に入れたんだ」

 そんなゴロフキンの言葉は、端的に言って、“交渉勝利宣言”だと言って良かったのだろう。

 

 ともあれ、こうしてゴロフキンがDAZNを選んだことはファンにとっても喜ばしいことであるはずだ。DAZNはすでに中量級に数多くの有力選手を抱えており、ミドル級だけでもWBA&WBC王者カネロ、IBF王者ダニエル・ジェイコブス(アメリカ/35勝(29KO)2敗)、WBO王者デメトリウス・アンドレイド(アメリカ/27戦全勝(17KO))を擁している。

 

 WBC世界スーパーミドル級スーパー王者カラム・スミス(イギリス/25戦全勝(18KO))、ライトヘビー級から下げてきた場合のWBA世界ライトヘビー級王者ドミトリー・ビボル(ロシア/16戦全勝(11KO))まで含め、スーパーミドル級にも様々なオプションがある。こんな背景を考えれば、今年中にも何らかのビッグファイト実現は濃厚だ。

 

(写真:これでDAZNはアンソニー・ジョシュア、カネロ、ゴロフキンという現代のドル箱3人をすべて抱えたことになる Photo By Amanda Westcott / DAZN USA)

「みんなが知っている通り、世界王座に多くの政治的要素が絡む。すべてのベルトを集めるより、最高のボクサーを目指したい。ベルトを持っている選手が最高のボクサーだとは限らないからね」

 そう語ったゴロフキンは、カネロとの再戦後は久々に長期休養をとったのだという。だとすれば、6月8日か15日に予定される復帰戦はごく軽い相手との対戦となる可能性が高い。ESPN.comは欧州王者カミル・ゼレメタ(ポーランド/19戦全勝(4KO))との対戦が有力と伝えている。ここでさびつきを落とし、9月には5月4日に行われるカネロ対ジェイコブス戦の勝者と対戦するというのが大まかな青写真である。

 

 ともあれ、2012年に本格的な米国進出を始めて以降のゴロフキンは対戦相手探しに苦心してきたが、来月には37歳になる元王者がこの時点で避けられることはあるまい。今ではむしろすべての有力選手のターゲット。DAZNを舞台に展開する最終章はこれからスタートし、そのストーリーがどんな結末を迎えるかが実に興味深い。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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