プロ野球の開幕前に衝撃のニュースが飛び込んできました。マリナーズのイチロー選手の引退発表です……。最後の最後まで、いくつになっても現役を続けると信じていたし、そう願っていたので非常に残念です。今回はイチロー選手のことと19年シーズンのセ・パ順位予想についてお話しましょう。

 

 「厳しいとこきますねー」

 イチロー選手はとかく年齢のことを言われるプロスポーツの世界で、その常識をことごとく打ち破ってきました。身長こそありますが、決して大きな体ではないイチロー選手があそこまで活躍したというのは、本当にすごいことだと思います。

 

「50歳まで現役を」という願いは叶いませんでしたが、でもイチロー選手のことですから「お疲れさま」なんて言うと怒るでしょうね。トレーニングも継続するでしょうし、何らかで野球には関わると思うので、また新しいイチロー選手が見られることを期待しています。

 

 現役時代、私はオリックスのイチロー選手と何度も対戦しました。彼との対戦では外寄りのストライクからボールになる変化球で揺さぶりをかけて勝負することが多かった。でも根本には「真っ向勝負がしたい」という思いがありました。まあ自分にはそこそこのストレートとスライダーしか持ち球はないんですけど(笑)、気持ちは常に「真っ向勝負」でした。

 

 いつの試合だったか、藤井寺球場でイチロー選手と対戦したときのことです。インサイドに厳しい真っすぐを投げ、ファーストゴロに打ち取ったことがありました。マウンドから降りてすれ違ったときにイチロー選手が、「佐野さんは僕のときには厳しいとこにきますねー」とポツリと言ったんですよ。別の機会には「佐野さんの投球から気持ちが伝わってましたよ」とも。マウンドから18.44メートルの距離で対峙して、真っ向勝負を願っていた私の思いが通じていたのがとても嬉しかったです。

 

 イチロー選手がああいうすごいプレーヤーになったからというわけではなく、野球選手として対戦相手を認め、そして認められるというのは何よりも嬉しいものです。そういう相手というのは長いプロ生活でもなかなか見つからない。その数少ないひとりがイチロー選手というのが、今振り返ってもいい思い出です。

 

 さて、開幕前恒例の順位予想です。セ・リーグは巨人の優勝と予想します。絶対的なエースの菅野智之がいて、若き4番打者・岡本和真、チームの顔である坂本勇人、そこにFAで丸佳浩が加入しました。丸は打撃も守備も走塁も期待できる存在で、叩き上げの努力家だからチームにも好影響を与えるでしょう。

 

 あとは岩隈久志の存在も大きい。開幕には間に合いませんが、岩隈という投手は10勝しても、決して10敗はしないタイプです。ゲームを作り、そして負けないのが彼の持ち味。そういう投手の存在はベンチとしては確実に計算できるのでありがたい。また抑えが不安視されていますが吉川光夫がようやく機能しそうです。投打にコマの揃った巨人、5年ぶりにペナント奪還のチャンスですね。

 

 4連覇を目指す広島も巨人と互角以上の戦いを見せるでしょう。ただし丸の穴を埋めるのは難しく、また黒田博樹、新井貴浩といった投打の精神的支柱、牽引役が不在のままなのがチーム力に影響しそうです。選手個々で見ればサウスポーの床田寛樹など楽しみな選手は大勢いるのですが、未知数なところも多い。昨季までのように大差をつけた独走Vは難しそうです。

 

 パの台風の目はオリックス

 セ・リーグの3位争いは激しくなりそうです。投手陣だけなら西勇輝、オネルキ・ガルシアを補強した阪神が上位ですが、いかんせん攻撃陣が心許ない。中谷将大、髙山俊、伊藤隼太など中堅選手に伸びや爆発力が感じられません。彼らは「このコース、このボールなら必ず仕留められる」という必殺ポイントがないのが共通点。それをものにできれば一皮むけるはずなのですが……。

 

 投手陣に脆さはあるものの横浜DeNA、東京ヤクルトがAクラス候補です。どちらが上か? 筒香嘉智、ホセ・ロペス、ネフタリ・ソト、宮﨑敏郎と攻撃陣が分厚いDeNAを3位にしておきましょう。ヤクルト4位、阪神が5位。中日は投打ともに外国人頼みの部分があり、今季は厳しい戦いが予想されますね。

 

 パ・リーグは去年まで福岡ソフトバンクが絶対的な存在でしたが、オープン戦の戦いぶりを見ると不安要素が目につきます。離脱者も多くV奪還は容易ではないでしょう。チームの成熟度でいえば北海道日本ハムが一番ですね。特に台湾から来た王柏融の存在が大きく、中田翔、大田泰示、西川遥輝と攻撃陣は文句なし。投手陣にやや不安要素を抱えていますが、パ・リーグの優勝候補筆頭です。

 

 2位にはソフトバンク、そして3位は期待も込めてオリックスを推します。投手陣は3年目の山本由伸が楽しみですし、攻撃陣は吉田正尚が完全に覚醒し、新外国人のジョーイ・メネセスも日本野球で通用しそうです。また新指揮官の西村徳文監督は千葉ロッテ時代に日本一になった実績もあり、持ち味の積極的な走塁もチームに浸透してきています。今季のオリックスは相当に面白い存在です。

 

 とは言うものの、オリックスが3位というのは投打ともに予想通りの活躍を見せてくれた場合に限ります。いきなり言い訳をするわけではありませんが(笑)、決して優勝争いする戦力ではなく、でもパ・リーグを面白くしてくれる存在。そうした期待も込めてオリックスを3位としました。

 

 昨季、圧倒的攻撃力でリーグを制した埼玉西武は、変わらず強力打線が持ち味です。しかし、投手陣が泣き所です。菊池雄星が抜け、榎田大樹も出遅れと伝えられています。また野手では浅村栄斗が抜けたのも痛い。総合力を考えれば4位予想となります。5位は走塁革命をチームに持ち込んだ井口資仁監督率いるロッテ。東北楽天はエース則本昂大の出遅れもあり、今季も厳しい戦いになりそうです。

 

 最後に今季、注目の選手を。以前、このコラムでも取り上げましたがロッテの藤原恭大がオープン戦でも活躍しています。開幕1軍どころか開幕スタメンも見えてきました。今季入った大阪桐蔭出身選手の中では一番ポテンシャルがあると以前からマークしていたので、彼の公式戦での活躍が楽しみです。まだ、シーズンをフルに戦う体力はないでしょうが、春先はどんどん使ってもらえると思うので、そこで結果を残してほしいですね。

 

 

image佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商高で甲子園に出場し準優勝を果たす。卒業後に近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日、エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)、ロサンジェルス・ドジャース、メキシコシティ(メキシカンリーグ)、再びエルマイラ・パイオニアーズ、そしてオリックス・ブルーウェーブで日本球界復帰と、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。


◎バックナンバーはこちらから