鈴木康友(元プロ野球選手)&師岡正雄(フリーアナウンサー) 第74回シーズンオフSPトーク後編「名コーチの選手操縦術」
二宮清純: 「白球徒然 ~HAKUJUベースボールスペース~」、シーズンオフ恒例のスペシャルトーク、今回は後編をお届けします。ゲストは引き続き白寿生科学研究所副社長・原浩之さん、巨人や西武などで選手・コーチとして活躍された鈴木康友さん、そして元ニッポン放送、現フリーアナウンサーの師岡正雄さんのお三方です。みなさんよろしくお願いします。
一同: よろしくお願いします。
ベンチでVに貢献
二宮: さて、このオフはFA移籍の丸佳浩選手、炭谷銀仁朗選手など巨人の大型補強が話題となりました。今季から再び指揮を執る原辰徳監督、5年ぶりのV奪還に向けての意気込みが感じられますね。
原浩之: 私は同姓ということで、原監督とも懇意にさせていただいています。巨人はFA戦線で丸選手はとったけど、浅村栄斗選手には手をあげなかったじゃないですか。あれで原監督にLINEで「浅村選手にはいかないあたり、さすがです」と送ったら、原監督からこう返ってきました。
師岡正雄: どんな返信でしたか?
原: 「吉川尚輝、いい選手になりますから、見ててください!」って。
二宮: 「ウチの内野には吉川尚がいるぞ」、ということですね。
原: はい。いやあ、あの返信にはしびれました。
鈴木康友: 吉川尚は去年、ケガをしましたけど、それが手だったのが幸いしました。ケガの功名というか、リハビリ中に下半身重視のトレーニングを積んだようで足腰がどっしりして見えますね。
二宮: 昨秋からコーチに就任した巨人の元木大介コーチが、FAに関してこんなこと言ってましたよ。「現役時代は毎年、FAで選手をとるのが不満だった。また競争かよ、と。それがコーチになると変わりました。長いシーズン何があるかわからない。コマは多いほうがいいですからね」と。
鈴木: 巨人の補強で注目しているのはオリックスからとった中島宏之です。彼は西武時代の教え子ですが、巨人ではポジションが一塁にしても三塁にしても外国人選手や岡本和真と競争です。控えに回る可能性の方が高い。そのときに、ベンチで真っ先に出迎え役をやってほしいんですよ。
師岡: 出迎え役ですか?
鈴木: ええ。以前、ヤクルトの池山隆寛が岩村明憲らの台頭で控えに回ることが多くなった。そのときに池山はベンチでメガホンを持って、それでチェンジになって帰ってくるナインを先頭に立って迎えていた。「よし、ようやった。いけるいける!」みたいな感じで。あれを見て「こりゃあヤクルト、優勝するぞ」と思いましたよ。
原: そういう一面があるから池山選手の引退試合では他の選手が皆が泣いたりしたんですね。
鈴木: 選手にとって一番はチームの優勝なんですよ。ナカジも原さんに誘われて巨人に入ったわけですから、「いっちょやったる」という気持ちがあるはず。レギュラー争いに負けたとしてもチームのために働く場所はいっぱいありますから。ベンチを盛り上げるのだって立派な仕事ですよ。
二宮: ここ最近、巨人のベンチはおとなしいと言われてますからね。元木コーチも「声を出せ」と徹底しているようですから、そういう意味でも巨人の巻き返しが楽しみです。
「由伸を褒めちぎった」
鈴木: 巨人のコーチ時代、私は高橋由伸をうまく乗せましたね。
原: 乗せたというと?
鈴木: 当時の巨人は松井秀喜、清原和博らの強打者が揃っていて、いわば空中戦の野球だった。ランナーが塁上で1つ進もうが2つ進もうが関係ない。じっとしていて2ラン、3ランという野球だった。でもそれだと、松井や清原が変化球でいいように攻められてしまいます。
二宮: ストレートを投げさせるために、ランナーで揺さぶりをかけた?
鈴木: はい。ところが由伸もそうだし、上位を打っていた清水隆行、仁志敏久も「大砲の邪魔をしちゃいけない」とばかりにベースに張り付いている。リードが全然、ちっちゃいんですよ。由伸なんてアンツーカーから出ないから、「お前、もっと出ろよ」と言うと「松井さんのライナー、怖いですよ」って(笑)。
一同: アハハハ。
鈴木: 「バカ野郎、避けりゃいいんだから、もっとリードしろ」と。相手バッテリーも由伸たちが走る気配を見せれば、やはりストレートを投げる場面が多くなる。「松井たちはそれを狙い打てばいいんだから、打ったのは松井や清原だけど、打たせたのはお前なんだぞ」と言い聞かせた。まあ、でも自分が縁の下ですから面白くはないですよね。
原: で、それをどう乗せましたか?
鈴木: ある試合で、一塁ランナーの由伸が浅いシングルヒットで三塁まで進んだ。あのクールな由伸がスライディングで泥だらけになって三塁を陥れた。そのとき、ベンチで私は「お前ら、見たか! あれだ、あの走塁だ!」と。さらに翌日のミーティングでもさらに由伸のことを褒めましたよ。
原: 褒めるときには皆の前で、というのは野球に限らず基本ですよね。
鈴木: その通りです。ミーティングで「由伸、昨日はよくやった。あの走塁は見事だった。それにしても天は二物を与えない、というがお前はすごいな」と。キョトンとしている由伸にこう言いました。「お前は打ってよし、守ってよし、そして走ってよし。それどころか男前だし、性格もいい。天からいくつもらっているんだ」と。
原: べた褒めですね。
鈴木: そうやって選手を乗せていくのもコーチの仕事のひとつですね。元木コーチにはその辺りの手腕も発揮してほしいものです。
闘将・星野の雄叫び
二宮: では、そろそろ今季の順位予想といきましょう。まずは師岡さん、お願いします。
師岡: では、セ・リーグから。優勝は巨人。そして2位が広島。以下、阪神、東京ヤクルト、横浜DeNA、そして中日の順ですね。
二宮: 巨人はやはり大補強を評価してのですか。
師岡: そうですね。あと、このオフにも思ったのですが、FA戦線に積極参入して原監督が盛り上げてくれた。丸選手に対して直接説得に行ったり、千葉ロッテとのマネーゲームにも勝ったり、と。そういう部分で優勝するしないは別として、やはり軸として中心に巨人がいて、それを広島や阪神が追いかけるという構図が一番、しっくりとくるんですね。
原: 日本のプロ野球の王道ですね。
二宮: 丸選手や長野選手の話題がなければ、ニュースやスポーツ新聞も相撲やテニスに取られたでしょうからね。さらにセ・リーグの開幕カードが広島と巨人という因縁めいた対決なのも楽しみです。
原: 少しニュアンスは異なりますが、江川事件のときの小林繁さんみたいなものですね。
二宮: あれで甲子園の入場者数がグンッと上がったんですから、今回の丸・長野もリベンジマッチとして興行的には面白いですね。
師岡: で、最下位に中日をあげたんですが、ルーキーの根尾昂選手は明るい話題です。新しい時代のスター候補として注目したいところです。
鈴木: 根尾、そして広島に入った小園海斗、千葉ロッテの藤原恭大など、今年は高校生野手に逸材が多いですね。小園、藤原はそのまま一軍で通用しそうですし、根尾も人工芝の球場なら一軍でいけそうです。
二宮: 師岡さん、パ・リーグは?
師岡: パ・リーグは優勝が福岡ソフトバンク、2位に北海道日本ハム、3位・埼玉西武、そしてロッテ、東北楽天、オリックスと予想します。
鈴木: オリックス、たぶん下馬評は低いでしょうが、今年は結構、いけそうだと私は見ています。
原: お、その根拠をぜひ伺いたいです。
鈴木: 投手陣では西勇輝、金子弌大が抜けて、野手も中島がいなくなった。ベテランや中堅が抜けてどうなんだ、という声がありますが、逆にチームがまとまるチャンスだと思っています。ベテラン選手に遠慮していた若手選手がのびのびと野球ができる環境になっていると私は見ています。新指揮官の西村徳文監督にもキャンプで話を聞きましたが、チームに手応えを感じていました。オリックス、結構、やりますよ。
二宮: では、康友さんのパ・リーグ優勝予想は……。
鈴木: うーん、ソフトバンクですかね。
一同: えー、そこオリックスじゃないんですか(笑)。
鈴木: 今季、パ・リーグは混戦ですよ。オリックスの躍進もあるし、日本ハムは育成がうまくいっているから戦力的にも整っている。西武は菊池雄星が抜けて投手力ががくんと落ちたからBクラスも有り得ます。四国・徳島のコーチ時代に見ていた伊藤翔が西武でセットアッパーをやっています。彼に勝ち星が3つも4つもつくチームですから、やはり中盤以降に逆転というのが勝ちパターン。投手力の整備が進まないと、それを維持できないから厳しいでしょうね。
二宮: なるほど。では、原さんの予想は?
原: 去年は僕、ソフトバンク優勝で、2位や3位は読めないけど楽天が結構いいところいくなー、と予想していたんですよ。それが蓋を開けてみたら最下位で……。なので今季はソフトバンク優勝、そして日本ハムが2位。西武が3位と予想します。セ・リーグは巨人、広島。そしてその下、ヤクルト、DeNA、阪神、この序列が読めないですね。
鈴木: セ・リーグは私も巨人、広島でV争いと予想しますが、その下はごちゃごちゃの混戦だと見ています。
原: なるほど。そろそろ時間もなくなってきましたが、最後にひとつ、いいですか? 2013年に楽天が日本一になったとき、康友さんはコーチを務めてらっしゃいました。ベンチで迎えたあの日本一の瞬間はしびれたでしょうね。
鈴木: しびれましたね。3勝3敗で迎えた第7戦、最後に田中将大が投げて日本一になった。第6戦で田中は4失点で負け投手になり、「お前、ずっと連勝してて、ここで負けるか」と(笑)。試合後に田中が監督の星野仙一さんに「明日、ベンチに入れてください」と直談判しました。星野さんは「お前、ベンチに入るということは投げるということだぞ。わかってんのか?」と何度も念押しをして、田中も「わかってます」と。それでベンチに入った。
二宮: 第7戦は先発の美馬学投手が6回、そして則本昂大投手が7回、8回を抑えて3対0で迎えた最終回。あそこは則本投手続投もあったのでは?
鈴木: 2対0だったら9回も則本でした。でも3点差なのでどうするのかと思っていたら、ベンチで隣にいた星野さんが「フンッ」て一声出して、立ち上がって杉永政信球審に声をかけた。横で聞いていましたが、第一声が「おい、うちの抑えは誰がおるんや」って。「監督、福山ですか?、小山ですか?」と球審が聞き返したら、「もうひとりおるやろ」って。球審もびっくりして「え、いくんですか!?」と聞き返した瞬間、星野さんが「田中だァーッ!」って。あれは傍で聞いてて鳥肌が立ちましたよ。
原: いやいやいや、僕も今、鳥肌が立ちましたよ。
師岡: 実はあの試合、僕、ラジオの実況で喋ってました。
原: えー、それもすごい偶然!
師岡: 星野さんがベンチを出て、審判と何か喋ってるのが見えた。もうその時点でスタンドは「マー君登場!?」の雰囲気になっていて、それで星野さんが何か怒鳴ったのが見え、田中投手のテーマソングが流れた。もう、映画の世界ですよね。
鈴木: 私も14回、日本シリーズを経験していますけど、あんな経験は初めてですね。
原: こういう話を伺うと、野球というのは筋書きのないドラマなんだと改めて思いますね。
二宮: 今季もいいゲーム、いいプレーを期待しましょう。機会があればまた是非ともみなさんとご一緒に野球談義を、と考えています。今日はありがとうございました。
原: 優勝予想の答え合わせを、秋にでもやりましょうか。
一同: いいですねー。
二宮: では、今シーズンも「白球徒然 ~HAKUJUベースボールスペース~」をよろしくお願いします。
(構成・まとめ/SC編集部・西崎)