春分の日に現役引退を発表したイチローは、これまで2回、国民栄誉賞の打診を辞退している。最初は01年だ。この年、イチローのMLBのルーキーとして新人王、MVP、首位打者などに輝いている。辞退の理由は「国民栄誉賞をいただくことは光栄だが、まだ現役で発展途上の選手なので、もし賞をいただけるのなら現役を引退した時にいただきたい」というものだった。

 

 2度目の打診は84年ぶりにMLBの年間最多安打記録を塗り替えた04年。「今の段階で国家から表彰を受けると、モチベーションが低下する」。当時は小泉政権だが2度も袖にされた。

 

 3度目の正直、となるのか……。政府はイチローに国民栄誉賞を授与する方向で調整に入っているという。この件について菅義偉官房長官は「現時点では何も決まっていない」としつつも、「数多くの輝かしい記録を樹立し、日米の野球ファンを魅了した」とコメントした。

 

 そこで政府筋にあたってみた。複数の関係者が「新元号化の国民栄誉賞第一号になるのでは……」との見立てを示した。

 

 要約すれば、こうなる。辞退理由は2回とも「現役だから」というもので、賞そのものにアレルギーがあるわけではない。最大のネックは引退で取り除かれた。

 

 だがイチローは人一倍、自尊心が高い。過去にプロ野球からは第一号の王貞治を皮切りに4人が受賞している。後輩にあたる松井秀喜も13年に栄誉にあずかっている。

 

 イチローの自尊心を充たし、かつ国民栄誉賞の価値を向上させるための最良にして最適な策は何か。その解が「新元号下第一号」だというのである。

 

 もちろん、いくら知恵者が下絵を書いたところで肝心のイチローが首をタテに振らなければ単なる絵に描いたモチだ。余りある栄誉に浴したイチローの側に立てば、今さら頭を下げてまでもらいたい賞ではなかろう。

 

 賞と政権浮揚の関係についても、いまいち定かではない。授与後の内閣支持率も、これまでは横ばいか微減がほとんどだった。一部に「国民栄誉賞を内閣の人気取りに利用するな」との声もあるが、良くも悪くもこの賞に支持率を左右するほどの力はない。いや、それでいいのではないか。イチローにとって東京ドームのカーテンコールこそは「国民」からの最大のギフトだったはずだ。賞はその延長線上にある。

 

<この原稿は19年3月27日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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