「Sportful Talks」は、ブルータグ株式会社と株式会社スポーツコミュニケーションズとの共同企画です。多方面からゲストを招き、ブルータグの今矢賢一代表取締役社長との語らいを通して、スポーツの新しい可能性、未来を展望します。

 

 今回のゲストはラグビー・トップリーグのヤマハ発動機ジュビロ前監督で、女性と子どもに特化した総合型スポーツクラブ「一般財団法人アザレア・スポーツクラブ」を設立した代表理事の清宮克幸氏です。今年はラグビーW杯イヤー。清宮氏が日本に遺したいレガシーとは――。

 

 静岡を盛り上げたい

 

二宮清純: 2018年限りでヤマハの監督を退任されて、ラグビーW杯の会場である静岡県小笠山総合運動公園(エコパスタジアム)に拠点を置く総合型スポーツクラブ「アザレア・スポーツクラブ」を設立されました。女性と子どもに特化するのはなぜですか?

清宮克幸:  “2019年W杯日本大会の何かレガシーを残そう”というのが最初のスタートです。そこから独自色を出そうと考えた中で、ラグビーの女子チームをつくることを思いついたんです。

 

今矢賢一: 最初は女子ラグビーに特化したクラブだったんですよね。

清宮: ええ。まず静岡の人たちとスポーツを盛り上げたいと思ったんです。みんなでお金を出して、雇用に結び付くような組織をつくりたかった。でも「それだけでは弱いね。協力できない会社もたくさん出てくるよ」とアドバイスをいただいたんです。だからラグビー以外のスポーツもできるようにしよう。地域の子どもやママさんたちを対象にいろいろなスポーツができるものであれば、みなさんが応援してくれるようになるんじゃないかと。それで総合型スポーツクラブにしたんです。静岡という県は地形的にも横に長い。これまで横軸で何かをつくることがなかった。立ち上げに際しては、静岡県の川勝平太知事にクラブ設立の話を持っていくと、その横軸を通すことができるのではないかと感じました。幸い私はヤマハにいたこともあり、ヤマハの会長が協力してくれることになり、さらには鈴与の社長も力を貸していただけると。加えて静岡銀行、静岡新聞が私たちの取り組みを「応援するよ」と言ってくださった。サッカーのジュビロとエスパルスのトップが一緒になり、金融とメディアも一緒になったことで、うまく軌道に乗りましたね

 

二宮: 先日は女子7人制ラグビーチーム「アザレア・セブン」のトライアウトも行われました。まずは女子ラグビーから進めていこうと?

清宮: はい。初年度はそれに加えてスポーツクライミングのボルダリングのチーム設立を準備しています。いずれは女子野球への進出も考えています。

 

今矢: スポーツクライミングは2020年東京オリンピックで実施される競技ですね。

清宮: それこそ私たちが拠点としているエコパに、ボルダリング競技用のセットを立てられれば、話題にもなると思うんです。

 

 レガシーにparkrun

 

今矢: さきほどのレガシーの話ですが、私はイギリス発祥のparkrun(パークラン)というイベントをオススメしたいと思っています。これは毎週土曜日の決められた時間に、開催会場となる公園で5キロ走ったり、歩いたり、犬を連れて散歩してもいいというイベントなんです。地域のコミュニティづくりや健康増進にも繋がる。parkrunは2004年にイギリスでスタートしてから、今や世界20カ国で展開されて、1700カ所の公園で実施されているんです。

清宮: 日本ではまだ開催していないんですか?

 

今矢: 日本ではまだです。ちょうど今年の4月からスタートし、今後全国に展開していく予定です。実は立ち上げの準備をこの1年ぐらい手伝わせていただきました。

清宮: parkrunは年に何回くらい行われるのですか?

 

今矢: 基本的には毎週土曜日に決められたコースを5キロ走るんです。行って帰ってというコースもあれば、周回コースもある。それは地域や公園によって様々。参加は無料で、運営も地域コミュニティのボランティアの方々で運用するのが原則ですね。

二宮: なるほど。世界20カ国、1700カ所であればスタンプラリーのように、いろいろな公園を回る楽しみもありますね。

 

今矢: おっしゃる通りです。

二宮: エコパでの開催も実現可能では?

清宮: 確かにエコパ内は広いので、歩いていればすぐ5キロになりますね。

 

今矢: ラグビーW杯が開催される全国12会場で「ラグビーW杯のレガシープログラムとして、parkrunを採用しませんか?」というお声掛けをさせていただいています。

二宮: ラガーシャツを着て走ると特典が付くとかあっても面白いですね。

 

今矢: そうなんですよ。W杯期間中であれば、海外から来たお客さんと交流する機会にもなります。それこそ試合開催前後の土曜日には、海外でparkrunに参加されているファンの方は、日本で参加できることを喜ばれると思います。

清宮: 静岡だとパブリックビューイングを公園で開催するところもあります。その公園でparkrunが開催されていると面白い。

 

 食育の可能性

 

二宮: アザレア・スポーツクラブにはいろいろな可能性を感じますね。

清宮: 私は食育についても力を入れていきたいと考えています。とにかく子どもたちの食事の環境が悪い。静岡のママさんたちにアスリートフードマイスターを広めて行くのがアザレアのひとつの魅力と考えています。

 

今矢: 食育を通じて、スポーツに関わる人々に有意義な環境をつくっていくことで、ビジネス的にもいろいろなチャンスが広がっていく可能性を感じますね。さきほどのパークランでも終わった後にカフェなどに寄って、地域やコミュニティとの繋がりを深める場を設けることができる。静岡でもそういう場ができれば、アザレア・スポーツクラブの活動の幅が、さらに広がるでしょう。

清宮: 今、アザレア・キッチンというものをつくろうと考えています。食育を教えるセミナーなどを行えるような建物に、カフェも併設するようなかたちです。

 

今矢: 今後は活動拠点になる場所を新たにつくられるのでしょうか?

清宮: 今はエコパスタジアム内の施設を借りて、事務所を持っています。エコパであれば、施設内でスポーツもできるし、講習会や英語のセミナーを実施できますから。しばらくはここでやっていこうと。

 

今矢: 英会話スクールなども?

清宮: アザレア・スポーツクラブのラグビーアカデミーでは、ラグビーの練習だけでなく英語も学べる講座を設ける予定です。スポンサーであるヤマハ、音楽と英語の教室を持っています。そのノウハウをラグビーにも活用できればと考えています。

 

二宮: 今後がますます楽しみですね。

清宮: ありがとうございます。アザレアは静岡県の県花で、きれいな花なんです。私たちも地域に根付き、花を咲かせたい。そして愛される総合型スポーツクラブへと成長していきたいと考えています。

 

清宮克幸(きよみや・かつゆき)プロフィール>

1967年7月17日、大阪府生まれ。高校からラグビーを始める。3年時には花園に出場し、高校日本代表主将も務めた。早大進学後、2年時に東芝府中を下して日本一となり、4年時には主将として大学日本一を経験した。卒業後、サントリーに入社。フランカーとして活躍。95年度日本選手権優勝。01年に引退し、早大ラグビー部監督に就任した。就任5年間で関東大学対抗戦は5年連続全勝優勝、日本選手権でも優勝3回、準優勝2回と母校を低迷期から脱出させた。06年からはサントリーの監督として、07年度のマイクロソフトカップ優勝に導いた。11年からヤマハ発動機の監督に就任。前年トップリーグ11位だったチームを再建し、2014年度の日本選手権優勝を果たした。18年度限りで監督を勇退。19年から一般財団法人アザレア・スポーツクラブを立ち上げ、代表理事を務める。

 

(構成・鼎談写真/杉浦泰介)


◎バックナンバーはこちらから