1カ月に渡って続いてきた祭典が、いよいよフィナーレを迎える。14日(日本時間)の決勝で激突するのはドイツとアルゼンチン。両国がW杯決勝で顔を今回で3度目である。1986年メキシコW杯ではアルゼンチンが当時の西ドイツを下して2度目の優勝。続く90年イタリアW杯は西ドイツが雪辱を果たし、3度目の栄光を手にした。3度目の大一番で勝利するのは、果たしてどちらか。

【充実布陣のドイツ】

 4度目のW杯トロフィーを狙うドイツは、決勝に万全の状態で臨めそうだ。7−1で大勝した準決勝のブラジル戦では、大量リードの中で選手交代など、余裕を持って試合を終えた。ケガや累積警告で試合に出られない選手もいない。攻守の歯車が噛み合えば、アルゼンチン相手にも圧勝を収められる可能性は十分にある。

 攻撃陣は今大会5得点をマークしているFWトーマス・ミュラー、W杯通算得点記録を更新したFWミロスラフ・クローゼなど、決定力の高いフィニッシャーが揃っている。特にミュラーは得点ランキングトップのハメス・ロドリゲス(6点、コロンビア)まであと1点と迫っており、史上初の2大会連続W杯得点王に向けてモチベーションは高いだろう。チャンスを創出するのはMFトニ・クロース。アシスト数は3だが、精度の高いキックで何度も好機を演出してきた。ここにボランチのMFサミ・ケディラなどが攻撃参加することで、ドイツの分厚い攻めが実現している。決勝も、ドイツの力強い攻撃がアルゼンチン守備陣に脅威を与え続けるだろう。

 守備面も安定感を誇る。高さと強さを兼ね備えたDFラインが相手の攻撃を防ぎ、ゴールには絶対的守護神のGKマヌエル・ノイアーが鍵をかける。今大会はメキシコのギジェルモ・オチョア、コスタリカのケイラー・ナバスなど、GKの活躍が目立っている。その中でも、ノイアーの働きは別格だ。驚異的な反応速度は難しいシュートも簡単に止めているように見えてしまう。さらに的確な判断でPA外へ飛び出し、DFラインの裏へ出されたロングボールをことごとくクリア。ロングフィードの精度も高い。走攻守に優れたノイアーの牙城が簡単に崩れることはあるまい。

 これまで南米大陸で開催されたW杯は、すべて南米勢が優勝を果たしている。ドイツは、そのジンクスを打ち破れるか。 

【メッシの輝きに左右されるアルゼンチン】

 アルゼンチンの決勝進出は90年イタリアW杯以来、24年ぶり。その時はドイツに敗れており、今回はリベンジを果たす絶好の機会だ。また、当時の同国には世界的な背番号10のディエゴ・マラドーナがいた。現在のアルゼンチンには、英雄の再来と言われるFWリオネル・メッシがいることも、多くのアルゼンチンファンが優勝を期待する所以となっている。メッシはクラブでリーガ・エスパニョーラ、欧州チャンピオンズリーグ、クラブW杯など、代表でもU−20ワールドユース選手権、08年北京五輪を制している。W杯は彼が手にしていない数少ないタイトルなのだ。

 守りに重きを置いたサッカーは、決勝トーナメントに入ってからより堅守ぶりを発揮している。ベスト16から準決勝までを無失点。しかも、ベスト16のスイス戦と準決勝のオランダ戦は、延長戦も含めてゴールを許さなかった。守備の要はボランチのMFハビエル・マスチェラーノ。豊富な運動量で危険なスペースに顔を出してピンチの芽を摘み、ボール奪取力にも優れている。準決勝のオランダ戦では、後半終了間際にPA内でボールを持ったFWアリエン・ロッベンに対応し、シュートをスライディングブロックする冷静な守りを披露。高い攻撃力を誇る同国を無失点に抑え込むことに大きく貢献した。準決勝のPK戦で2本ストップしたGKセルヒオ・ロメロともに、マスチェラーノが統率する守備陣がドイツの強力攻撃陣をどれだけ抑えられるか。

 一方で攻撃は出場が微妙なMFアンヘル・ディ・マリア、負傷明けで万全ではないFWセルヒオ・アグエロと他のアタッカー陣は万全ではない。それだけに、アルゼンチンのゴールはメッシの出来にかかっていると言っても過言ではない。オランダ戦も試合全体での運動量は少なかったが、ゴールに近い位置でボールを受けると積極的に仕掛けていた。決勝も体力を温存しながら相手のスキを虎視眈々と狙う。アルゼンチンとしては、メッシがチャンスと見極めた時に、どれだけチームメートが呼応できるか。セカンドボールやこぼれ球を拾い、波状攻撃を仕掛けたい。

 アルゼンチンは28年ぶりに世界一の座に就くことはできるのか。背番号10がトロフィーを掲げる瞬間を、アルゼンチン国民は熱望しているに違いない。

(鈴木友多)