今シーズン、リーグ4連覇を目指す広島にも泣き所はある。日本人の先発サウスポーが育ってこないのだ。昨シーズンも先発で勝ち星をあげた日本人左腕は、高橋昂也ひとりだけだった。それも、わずか1勝である。ここ数年は、外国人のクリス・ジョンソンに頼りっぱなしというのが実情だ。

 

 

 だが、広島にとって“左腕日照り”は今に始まったことではない。先発で二ケタ勝った日本人左腕は2001年の高橋建が最後なのだ。サウスポーが育たないのか、育てられないのか。

 

 そんな広島に孝行息子が出現しそうな気配が漂っている。3年目の床田寛樹の仕上がりがいいのだ。

 

 5日、本拠地での巨人とのオープン戦では立ち上がりから4連続奪三振の快投を演じた。結局6つの三振を奪い、4回を無失点に抑えた。試合後、「この後も結果も内容も出して、開幕を1軍で迎えられるようにしたい」と殊勝に語った。これには、滅多に選手を褒めない緒方孝市監督も「貴重なサウスポー。先発として期待している」と頬を緩めっぱなしだった。

 

 床田は岐阜の中部学院大から17年、ドラフト3位で広島に入団した。当初は5位の予定だったが、「そこまでは残ってない。3位でいこう」という松田元オーナーのツルの一声で指名順位が繰り上がったという。

 

 オーナーの狙いは的中した。床田はルーキーながら開幕ローテーションを勝ち取り、デビュー2戦目の巨人戦でプロ初勝利をマークした。

 

 ところが好事魔多し--。デビュー3戦目で左肘を故障し、同年7月に側副靭帯再建手術(トミー・ジョン手術)を余儀なくされた。これにより、約1年をリハビリに費やさざる得なくなった。近年、成功率は飛躍的に上がっているとはいえ、全員が全員成功するわけではない。中には選手生命を棒に振る者もいる。

 

 不安に襲われながらも、床田は周囲に「外に出られずヒマです」と漏らすなど、平静を装った。不安を打ち消すには、トレーニングに明け暮れるしかない。走り込みに始まり、下半身や体幹を中心にそれこそ全身を鍛えあげた。

 

 その成果はすぐに表れた。体重は手術前よりも15キロ増えた。キャンプ地で久々に見た床田は、ルーキーイヤーよりも一回り大きくなった印象を受けた。

 

 床田を発掘した松本有史スカウトは言う。

「手術をすると聞いたときはやはり心配でした。でも、休んでいる間に筋トレを積めたのは、ケガの功名かもしれない。大学時代、腕の柔らかな振りは一級品だったが、体はガリガリ。『なんぼトレーニングしても大きくならんな』というのが私や大学の監督の悩みでしたから」

 

 広島ファンが床田に期待を寄せる理由のひとつが、この松本の存在である。中部地区を担当する松本は日本を代表するセカンドに成長した菊池涼介、俊足巧守の外野手・野間峻祥らを指名してきた。

 

 今季、床田がローテーションに加われば、松本の評価はさらに高まるだろう。いずれにしても、24歳のサウスポーが4連覇のカギを握っていることは間違いない。

 

<この原稿は2019年3月31日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

 


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