「最低でも50歳までは現役」

 こう言い続けてきたイチローだが、45歳5カ月で現役生活にピリオドを打った。

 

 

 日米通算4367安打。単純比較はできないが、これはピート・ローズのメジャーリーグ記録4256安打を上回る。

 

 不世出の「安打製造機」として、ベースボールという競技がこの世に存在し続ける限り、イチローの名前が輝きを失うことはあるまい。

 

 イチローの何が凄いのか。誰もが驚くのが試合への備え方、いわゆる「準備力」である。

 

 WBCの初代日本代表監督で、チームを「世界一」に導いた王貞治から、こんな話を聞いたことがある。

 

「驚いたのは朝の練習です。10時から練習開始ということで、こちらは9時過ぎにはホテルを出発して、9時半ごろ練習場に着く。そこから準備体操という段取りです。

 

 ところが僕たちが練習場に到着すると、もうカーン、カーンという打球音が響き渡っている。イチローが打っているんです。おそらく随分前から球場に着いていて準備体操やランニングを終えてからバッティング練習をしていたんでしょうね」

 

 そして、こう続けた。

「日本とアメリカで、あれだけの実績を残した選手が、これだけの準備をしていることに、他の選手たちは驚いたと思います。プロ野球選手とはどうあるべきか、野球人とはどういう存在なのか。これを身をもって体験できたことは、他の選手たちにとって、その後のプロ野球人生を考える上で大きな財産になったでしょう」

 

 球場には誰よりも早く来る。練習は誰よりも熱心にやる。目に悪いからという理由で、活字やテレビを見るのも必要最小限にしている、という話も耳にした。

 

 これを貫き通したからこその45歳5カ月であり、4367安打なのだろう。

 

 以前、イチローはこうも言っていた。

「僕は野球の研究者でいたい」

 

 含蓄のあるセリフである。

 

<この原稿は2019年4月15日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

 


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