遠藤保仁は今年1月で39歳になった。

 今シーズンも彼は、ガンバ大阪の「頭脳」として変わらずピッチに立ち続けている。トップ下を担った3月30日のホーム、ヴィッセル神戸戦。壮絶な打ち合いの末に黒星を喫したものの、倉田秋へのアシストは実に見事だった。

 

 後半27分、ガンバの3点目。ファン・ウィジョのシュートが相手GKに弾かれ、こぼれてきたボールをワンタッチで倉田に送った。アンドレス・イニエスタに負けない正確かつスピードに乗せたパス。シビれるアシストだった。

 

 遠藤には今シーズン、大きな記録が懸かっている。

 この神戸戦でJ1通算607試合目の出場となった。横浜フリューゲルス時代の先輩、楢﨑正剛が持つJ1歴代最多631試合の記録を、今シーズン中に上回る可能性がある。それだけではない。日本代表歴代トップの152試合やJリーグの他の公式戦、J2時代を合わせれば、公式戦1000試合出場まであと16試合に迫っているのだ。

 

 ケガが元になってベテランのパフォーマンスが落ちてくるというのは、よく聞く話だ。だが遠藤はケガに滅法強い。いや、ケガ予防に長けていると言うべきか。

 

 今シーズン、キャンプが始まる前に彼はこう語っていた。

「小さなケガは誰にでもあるし“ケガは友達”ってよく言っています。試合をやりながら治していく感じなんですかね。だけど(ケガで)今8割しか出せないのに、無理して10割を出そうとしたらひどくなる。その8割が今の10割だと僕は考えます。“ここまでしかやれません”と監督に理解してもらったうえで、(起用するかどうかは)監督が決めてくださいというスタンス。ありがたいことに大きなケガで休んだことってほとんどない。それさえなければ、まだまだやれる自信はありますから」

 ケガなく、コンディションを整えていけば、良いパフォーマンスを発揮できる。

 

 テーマは毎年同じく「健康第一」だ。

 風邪を引かない、フィジカルコンディションを落とさない、やり過ぎない、ストレスを抱えない。食べたいものは食べる。

 どこかで無理をしてしまうと、心身の健康第一バランスが崩れかねない。最低限のことを継続的に。だからこそ遠藤は常に自分のバロメーターにアンテナを張る。

 

 今年1月、キャンプ前の全体トレーニング。

 若手のコンディションと比べれば、遠藤はまだまだだと映った。若手と合わせるような無理はしない。それでも若手との対人プレーでは、パワー半分ほどであしらっているのがとても印象的だった。

 

「若手は仕上がりが早いです。体、キレてるなあって思いますもん(笑)。若手はそれでいい。だってアピールしなきゃなりませんからね。僕はキャンプ前で6割程度。若手はガツガツ来ますけど、そこに合わせてやっちゃダメですね。ガツガツ来るところをうまくよけながらやっています」

 ロングキックもいきなりは蹴らないという。徐々に、慎重に距離を伸ばしていくのも遠藤流だ。これもケガ予防の一つと言える。

 

 新しく就任したスペイン人のフィジカルコーチ、トニ・ヒル・プエルト氏の指導を、積極的に取り入れている。

「サッカーに関わる動きのなかで体幹をいじめるとか腹筋を鍛えるとか、重りを持たないでサッカーをやりながらという感じです。気持ち的にいい刺激になっているし、コーチのトニとは話をしながら進めています」

 無理は禁物ながら、一方でギリギリのところまではやる。その正確な見極めが、鉄人の秘訣なのかもしれない。

 

 2019年シーズン、記録が懸かっていても遠藤は自然体を崩さない。さりげなく、当たり前のように達成しそうな気配である。


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