日本の夏の風物詩、全国高校野球選手権大会が9日に開幕する。今年も激戦を勝ち抜いてきた49の代表校が一堂に集結し、聖地・阪神甲子園球場で激突する。最多出場は春夏連覇を狙う33度目の龍谷大平安(京都)。一方、聖光学院(福島)は8年連続での出場となる。初出場は9校で、武修館(北北海道)、角館(秋田)、小松(愛媛)、大分、鹿屋中央(鹿児島)。いずれも春夏通じて初めてとなる。今年90周年を迎えた甲子園。そのメモリアルイヤーに、全国の頂点に立つのは――。
 史上8校目となる春夏連覇を狙うのは、春夏合わせて71度目、大会最多出場の古豪、龍谷大平安だ。京都大会の序盤はなかなかチームが勢いに乗れずに苦しんだものの、決勝では12安打10得点と自慢の打線が猛打をふるい、春優勝校の実力を見せつけた。指揮官として自身甲子園出場12度目と、大舞台を知り尽くしている原田英彦監督の采配に注目だ。

 この龍谷大平安に並んで優勝候補に挙げられるのが、全国の最激戦区神奈川大会を制した東海大相模だ。決勝で話題を呼んだのは、大会タイ記録の20奪三振をマークした吉田凌。140キロ台中盤の直球と、その直球と同じ腕の振りから投げてくる縦に大きく変化するスライダーが武器の2年生右腕だ。決勝での20個の三振のうち、実に14個をフォークのように鋭く落ちるスライダーで奪っており、吉田の生命線となっている。

 だが、東海大相模には吉田以外にも一線級の投手がズラリとそろっている。エースナンバーの青島凌也は最速145キロの直球を武器とし、制球力抜群。カーブ、カットボール、チェンジアップと変化球にもキレがあり、安定感はチーム随一の右腕だ。佐藤雄偉知は191センチの長身から最速148キロの直球とフォークを投げ下ろす本格派右腕。さらに唯一のサウスポー小笠原慎之介は、強気に内角を攻めるピッチングが身上だ。4人全員が先発、継投をこなすことができ、門馬敬治監督も「その日、調子のいい投手を使う」と語るほど、実力は遜色ない。酷暑との戦いでもある夏の甲子園では、こうした選手層の厚さは非常に重要なポイントとなりそうだ。

 同校は打線も強力だ。神奈川大会ではチーム打率4割2分1厘、73得点をマークしている。圧巻だったのは本塁打数で、29年ぶりに大会記録に並ぶ11本塁打を放った。特に好調なのは、2年生の2番・杉崎成輝と3番・豊田寛。打率5割7分7厘を誇る杉崎は、バットコントロールが抜群の巧打者。冬場のトレーニングでパワーもつき、決勝では先制アーチを放った。一方、豊田は2回戦で満塁アーチ、準々決勝では2打席連続弾をマーク。通算成績は打率4割8分1厘、3本塁打、14打点と豪快なバッティングを披露した。投打ともに圧倒的な力で全国最多190校の頂点に立った東海大相模。甲子園ではどんな野球を見せてくれるのか。

 さて、安楽智大(愛媛・済美)、高橋光成(群馬・前橋育英)、小島和哉(埼玉・浦和学院)と今秋のドラフトで上位指名が予想される3投手が不在となった今大会だが、彼らに劣らない逸材はもちろんいる。筆頭すべきは、松本裕樹(岩手・盛岡大付)だ。183センチの長身から投げ下ろす伸びのある直球は最速150キロを誇る。さらにカーブ、スライダー、ツーシーム、チェンジアップ、フォークボールと変化球も多彩だ。低めへの制球力もあり、バランスの取れた右腕だ。“大谷2世”と呼ばれている松本は、打者としても注目されている。高校通算本塁打は54本。4番を務め、まさにチームの大黒柱だ。「高校時代の大谷よりもレベルは高い」と評価するスカウトも。同校初の夏初勝利は、松本次第と言っても過言ではない。

 野手では、今春のセンバツで1試合2本塁打を放って鮮烈な甲子園デビューを果たした岡本和真(奈良・智弁学園)も忘れてはならない。高校通算73本塁打と、今大会屈指のスラッガーで、プロも注目する逸材だ。奈良大会でも3本塁打をマークしており、全5試合で打率5割5分6厘、14打点と好調をキープしている。また、最速144キロと投手としての能力も高く、これまでリリーフとしてチームの勝利に貢献してきた。甲子園では先発登板の可能性も示唆されており、公式戦初の先発マウンドに上がる姿が見られるかもしれない。

 清水優心(福岡・九州国際大付)は、強肩とリストの柔らかさを兼ね備えた捕手として今秋ドラフト候補にあがっている注目選手のひとりだ。打っては1年時から4番が定位置の強打者で、通算本塁打は35本。主将でもあり、まさにチームの要。今大会で勇退する名将・若生正広監督と1日でも長くいたいと、清水を中心にチームの結束力はかたい。若生監督にとって、初の全国制覇となるかが注目される。