(写真:チームの雰囲気の良さも魅力のひとつだ)

 第52回日本女子ソフトボールリーグ1部が開幕した。伊予銀行VERZは開幕節で昇格組のNECプラットフォームズRed Falconsと対戦。延長8回タイブレーカーの末、3対2でサヨナラ勝ちを収めた。白星スタートとなった劇的な開幕戦を振り返る。

 

 

 

 

 14日、愛知・パロマ瑞穂野球場で行われた開幕節の第3試合に登場した伊予銀行は、昨季5勝のうちすべてに貢献した庄司奈々が先発マウンドに上がった。2年ぶりの開幕投手。前日に知らされたという庄司は気負いを見せない。

「ピッチャー陣4人のひとりひとりが自分のできる役割を果たして抑えていく」

 

(写真:セカンドの正木。今季は1番で起用されている)

 今季の伊予銀行はキャプテンの對馬弥子をはじめ7人が抜け、3人の新人が加わった。更には3年前に引退した木村久美がコーチ兼任で復帰。秋元理紗監督はスタメンに日本体育大学卒のルーキー飯田瑞稀を7番サードで起用した。「ガムシャラだったり、勝利への執念がある。ウチは1球1球ひとつひとつに粘り強く戦っていく。そういう象徴のような選手」というキャッチャーの二宮はなには新キャプテンと4番を任せた。

 

 生まれ変わった伊予銀行に対するのは、昨季2部優勝で昇格を果たしたNECプラットフォームズだ。昨季2部MVPに輝いたアドバンスセクション3冠王の和田美樹を擁する。そこに今季はホープセクション3冠王の望月朱里が加入した。その攻撃力は侮れない。

 

 雨が降る中のゲームは、先攻のNECプラットフォームズ、後攻の伊予銀行がともにランナーを塁に出しながら、盗塁死で初回を終えた。2回もゼロがスコアボードに並んだ。

 

 試合が動いたのは3回表だった。2死二塁の場面で、庄司は1番・望月を迎えた。2ボールからの3球目、甘く入ったボールをレフトへ運ばれた。打球はフェンスを越え、2ランホームラン。伊予銀行は先制点を許してしまった。

 

(写真:失点後、バッテリーを諭す秋元監督<左>)

 この回の守備を終えると、秋元監督はベンチでバッテリーを呼び出して話し込んでいた。庄司自身も「安易な球だった」と悔やむ1球。指揮官は懇々と諭していた理由を明かした。

「ひとつベースが空いていて、打席には長打力のあるバッター。2ボールになった時点で、“フォアボールOK”くらいの気持ちで厳しいコースを突くべきだった」

 

 2点を追いかけるかたちとなった伊予銀行。3回裏に1死満塁の大チャンス。ここで3番・樋口菜美。長打を期待したい場面だったが、樋口はショートゴロに終わり、1点止まり。2死一、三塁で、続く二宮はセンターへの大きな当たりだったがグラブに収められた。

 

(写真:昨季チーム最多勝の庄司。打たせて取るが持ち味だ)

「最初は硬い印象がありましたが、昨年の入れ替え戦などで厳しい戦いを経験している分、安定感がありました。中盤から終盤にかけて素晴らしいピッチングだった」と秋元監督が語るように、庄司は中盤以降、リズムに乗った。庄司本人も「獲られた点は仕方がない。“この後は絶対失点しない”という強い気持ちで投げました」と振り返る。4、5、6回を三者凡退に抑えた。

 

 6回裏は1死満塁の大チャンスを迎えたが、飯田がゲッツー。7回裏は麻生佳奈代と吉田愛純が倒れて万事休すかに思われた。ここで粘りを見せる。正木朝貴がライトオーバーのスリーベースで出塁。「チーム全員の思いも乗せて、思い切り打ちました」という松成あゆみが右中間へのタイムリーツーベースで続いた。2死から同点に追いつき、試合は延長戦に突入した。

 

 延長8回は無死二塁から始まるタイブレーカー。先攻のNECプラットフォームズはバントで1死三塁とした。「自分はみんなを信じて投げ続ける」。ここでも庄司は力投を見せる。ピッチャーゴロ、ショートゴロに打ち取った。

 

 その裏は二宮が敬遠で一、二塁。浅石彩菜の送りバントをフィルダーズチョイスでフルベースとなった。続く照喜名真李がファウルフライに打ち取られる。1死満塁。フライやゴロでも打球次第では1点が入るサヨナラの大チャンスだ。

 

(写真:同点打の松成<左>とサヨナラの打者となった飯田)

 ここで飯田が打席に立つ。前の打席の凡退を挽回したいところ。秋元監督も「新人ではありますが、勝負強いバッター。大学生の時にインカレ決勝で最後決めていたので、そこを信じて任せてみようと思いました」と動かなかった。すると、2ボールからの3球目は飯田の背中付近を襲った。まさかの押し出しデッドボールで試合の幕を閉じた。秋元監督は現役時代から相性の良い開幕戦。監督就任以来負けなしが続いている。

 

 劇的な勝利にも満足した様子は見られない。「最後勝ち切れたのは良かったですが、とても課題の多く残る開幕戦でした」と秋元監督。完投勝利となった庄司は「今日のピッチングをしていては次の試合には繋がらない」と猛省した。

 

 3回裏の樋口、7回裏の松成などチャンスに打席に立った選手の笑顔が目立った。松成は「最初は緊張でガチガチだったんですが、ベンチを見たらみんなが笑顔で自分も楽に打てました」と語る。笑顔の理由はキャプテンの二宮によれば「監督さんが『笑う門には福来る』と苦しい時こそ笑った方がいい運を呼び込めるとおっしゃっているので、チーム内でも『みんなで笑っていこう』と声を出していました」というのだ。

 

(写真:現役時代も合わせれば約15年開幕から負けなしの秋元監督)

 第1節はトヨタ自動車レッドテリアーズ、ビックカメラ高崎BEE QUEENに惜しくも敗れた。「どんな時も前を向いて進んでいくだけ。若い選手も多いので試合を重ねながら成長していければいい」(二宮)。負けが先行してしまったが、27日からは群馬県・太田市での第2節(戸田中央総合病院メディックス、デンソーブライトペガサス)が控えている。5月11日からは地元松山での第3節(豊田自動織機シャイニングベガ、日立サンディーバ)。伊予銀行の巻き返しに期待したい。

 

 

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