鹿取義隆(元プロ野球選手)<前編>「怪物とのキャッチボール」
二宮清純: この人と飲みたい、今回のゲストは巨人と西武でタフなセットアッパーとして活躍された鹿取義隆さんです。
鹿取義隆: よろしくお願いします。
二宮: 鹿取さんは酒豪で知られる高知県の出身です。雲海酒造の『木挽BLUE』をいつもより多めに用意しておきましたよ。
鹿取: ありがとうございます。ただ、高知県人は「酒飲み」のイメージがありますが、私はそこまで酒豪ではありません(笑)。むしろビール一杯でいい気分になってしまう方です。
二宮: お酒はマイペースが一番です。では、鹿取さんには『木挽BLUE』の水割り、私はロックでいきます。
鹿取: 水割りでスーッと飲めますが、しっかりとした香りがさすがですね。
二宮: ロックはより香りが強く、でもスッキリしています。
鹿取: そう聞くとそっちも飲んでみたくなります。私もあとでロックをいただいてみます。
二宮: 宮崎は巨人のキャンプ地ですから、ご当地・雲海酒造の焼酎は昔から馴染みの味でしょう?
鹿取: そうですね。雲海と聞くだけで、昔の思い出が甦ってきますよ。
163キロの怪物
二宮: 鹿取さんは現在、野球日本代表・侍ジャパンのテクニカルディレクター(TD)を務めています。担当はトップチームだけですか?
鹿取: いえ、アンダーカテゴリーからすべてを担当しています。U-12、U-15、大学生、U-23、社会人、トップ、そして女子です。
二宮: TDは何人?
鹿取: 私ひとりです。
二宮: ええッ! それは大変ですね。全国各地の選手を視察して、それを監督や首脳陣に報告するという役目ですか?
鹿取: そうですね。国内の選手はもちろん、今秋開催のプレミア12なら韓国や台湾といったライバルチームの選手も見ます。
二宮: データ部隊は別にいるそうですが、鹿取さんの目で見た"ナマの情報"が編成にいかされる、と。
鹿取: そういうことになります。トップチームでいえば秋にプレミア12があって、20年は東京オリンピック、そして21年3月にWBC。アンダー世代の選手を見ているときは「彼は次のWBCで軸になるんじゃないか?」という将来性も加味しています。
二宮: それにしても、国際大会の連続で選手は休む間もないでしょうし、TDの鹿取さんも大変ですね。
鹿取: ひとりなのでいろいろな情報網を使い、効率よく動いています。
二宮: 3月に行われた侍ジャパンvsメキシコの強化試合では、東京ヤクルトの村上宗隆選手が初代表ながら2安打をマークしました。
鹿取: キャンプのときもずっと見ていましたが、彼は本当にいい選手です。村上選手は14年、私がU-15侍ジャパンの監督時代、九州地区のトライアウトに参加していたんですよ。
二宮: 中学生時代から大器の片鱗が?
鹿取: はい。体も大きくてスイングもしっかりしていました。ただ地区選出枠の関係もあって、あのときは選べなかったんですよね。九州地区からは増田珠選手(福岡ソフトバンク)などが選ばれました。
二宮: 清宮幸太郎選手(北海道日本ハム)も同世代ですね。
鹿取: はい。彼は他の試合の関係でU-15のトライアウトは受けなかったんですが、別の機会に見に行ったことがありますよ。
二宮: 私もリトルリーグ時代の清宮選手を見ましたが、体も大きいし、スイングも速い。子供の中にひとり大人が混じってるみたいでした。
鹿取: やはり非凡な選手というのは子供時代から目立つものがありますね。
二宮: 現役高校生では大船渡高の佐々木朗希投手はどうでしょう。163キロをマークして話題になりましたが……。
鹿取: いや、もう160キロを投げるというのは別格ですよ。体ができているし、あとは投げ方も良い。佐々木君のように足を高く上げても軸がぶれないのはバランスがいいからなんですが、よほど筋力が強くないとできないですよ。
江川卓の「回転軸」
二宮: しかも地元・岩手出身というところにもロマンがあります。
鹿取: そうですね。そういえば私の地元・高知にも逸材がいますよ。中学時代に軟式で150キロを投げた森木大智君。今年、高知高校に進学して硬式に転向しました。
二宮: 軟式で150キロ!? それは今後が楽しみですね。
鹿取: 映像でも見ましたけど、すごいですよ。高校野球ファンならずとも気にしておいて損はないと思います。
二宮: やはりいつの時代も怪腕という言葉は魅力的です。鹿取さんの世代だと、やはり江川卓さんが別格でしたね。
鹿取: まさに怪物でした。江川さんは私の1つ上の学年で、初めて生で見たのは私が高2のときでした。国体の開会式後の試合で「作新学院の江川が投げるぞ」というのでブルペンに見に行きましたよ。
二宮: どうでしたか?
鹿取: 真横から見ていましたが、本当にボールが伸びているように見えました。他校の選手も一緒に見ていましたが、「すげぇーな」って感心するばかりでしたよ。
二宮: 江川さんの球はプロ入り後、スピードガン表示では148キロくらいでしたが、対戦したバッターは「バットに当たらない」と口を揃えていました。同じ速度でも何が違うのでしょう?
鹿取: 江川さんの球は回転軸がまっすぐなんですよ。だから手元に来ても落ちない。
二宮: 軸ですか?
鹿取: ここにボールがあって真横から割り箸が刺さっていると考えてください。その割り箸が軸で、それがまったく傾いてない状態です。
二宮: リリースのときの指の使い方や手首の角度なども理想的なんでしょうね。
鹿取: そう思います。だからボールの軸がブレずにきれいな回転がかかる。ところで江川さんは野球浪人をしているので、巨人入団は私と同期なんです。キャンプでキャッチボールの相手をしましたが、まあすごかったですよ。
二宮: 1年のブランクは関係なかった?
鹿取: まったく関係ありませんでした。高校時代、そして大学の日米野球で見たときと同じように、スーッときれいに伸びる球でした。今はボールの回転数や回転軸を測るシステムがありますけど、江川さんの全盛期のボールを測定してみたかったですね。
二宮: 鹿取さんが巨人に入った79年当時、投手陣は堀内恒夫さん、新浦壽夫さん、加藤初さんらビッグネームが揃っていました。先輩たちのボールの印象はどうでした。
鹿取: 衝撃的でしたね。速いだけじゃなくて安定感があった。変な所にボールが行かないんですよ。堀内さんも新浦さんも、だいたいキャッチャーの構えた場所にスパーンっと投げ込んでいました。
二宮: スピードだけではなくコントロールもすごかった、と。
鹿取: はい。あと角(盈男)はキャッチボールをしても普通に球がスライドするから怖かった。球は速くないけど、真ん中から軌道がズレる、いわゆる「真っスラ」というヤツでした。
二宮: 西本聖さんのシュートはどうでした?
鹿取: 西本のシュートはハンパじゃなかった。あれは他のピッチャーが真似できるものじゃない。シュートの逆のスライダーが曲がらなくても曲がったように見える、それくらいシュートがすごかったですね。
キレよりコントロール
二宮: 鹿取さんもシュートとスライダーで打者を翻弄していました。
鹿取: 私の場合にはキレというよりも低めへのコントロールで勝負をしていました。球速も142キロとか143キロでしたから。
二宮: 右サイドスローで140キロ超えてたらバッターは打ちにくいですよ。
鹿取: ただ私の場合は高めに外れた球が135キロとか遅くなる。自分としては「なんだよ、なんだよ」って(笑)。
二宮: 高めの外す球はズバーンッというイメージですよね。
鹿取: そう。追い込んでいるのに外したボールが「はぁ、遅い」みたいな。だから、後楽園のスピードガンはなるべく見ないようにしていました(笑)。
二宮: それにしても、酒豪ではないと言いながらグラスを傾け続ける。そのあたりは、さすが高知の人間ですね。
鹿取: いやいや、つまみを食べながら、チビチビといただいています。
二宮: ピッチングでいえば技巧派タイプですね。
鹿取: ロックをぐいぐいあおる二宮さんは剛球派ですか(笑)。
二宮: アハハハ、暴投に注意しないと(笑)。ところで、鹿取さんは巨人と西武で何度、リーグ優勝を経験しましたか?
鹿取: え、何回だろう。8回、いや10回ですね。皆に助けられて、ね。それで日本一が5回です。
二宮: ではビールかけも慣れたものですね。
鹿取: そうですね。結構、皆にかけましたよ。ご存知でしょうけど、ビールかけは飲まなくても酔うんですよ。中尾孝義は下戸でしたが、巨人でも西武でも一緒で、いつもビールかけで真っ赤になっていました。
二宮: 匂いで酔っ払うと言いますね。それにしても鹿取さんは大学は明治、そして巨人、西武。強いチームばかりだったから勝利の美酒を浴びるほど飲んだでしょう。
鹿取: まあ、巡り合わせというか、ありがたいことです。
二宮: さて、リーグ最多登板を果たしたセットアッパー時代の秘話などは後編でお願いします。
鹿取: お酒もまだまだあるようなので、イニングまたぎは大歓迎です。
二宮: さすがタフネス右腕、心強い。
(つづく)
鹿取義隆(かとり・よしたか)プロフィール
1957年3月10日、高知県出身。高知商、明治大を経て、78年にドラフト外で巨人に入団。サイドスローからの多彩な変化球を武器に、中継ぎ、抑えとして活躍した。87年には公式戦130試合中63試合に登板し、7勝4敗18セーブ、防御率1.90の成績を残す。89年オフにトレードで西武に移籍。90年、24セーブをあげ最優秀救援投手のタイトルを獲得。リーグ優勝と日本一に貢献した。97年、現役引退後は巨人の投手コーチなどを歴任。2006年にはWBC日本代表の投手コーチに就任。世界一に貢献した。14年、U-15代表監督、野球日本代表のテクニカルディレクターに就任。15年、プレミア12の日本代表の投手コーチを務める。17年4月に巨人GM特別補佐、6月にGM兼編成本部長に昇格した。18年10月、同職を退任。現在は野球日本代表のテクニカルディレクターを務める。プロ通算成績は91勝46敗131セーブ。
(文・写真・まとめ/SC編集部・西崎)
今回、鹿取義隆さんと楽しんだお酒は芋焼酎「木挽BLUE(ブルー)」。宮崎の海 日向灘から採取した、雲海酒造独自の酵母【日向灘黒潮酵母】を使用し、宮崎・綾の日本有数の照葉樹林が生み出す清らかな水と南九州産の厳選された芋(黄金千貫)を原料に、綾蔵の熟練の蔵人達が丹精込めて造り上げました。芋焼酎なのにすっきりとしていて、ロックでも飲みやすい、爽やかな口当たりの本格芋焼酎です。
<対談協力>
折おり
東京都港区赤坂2-14-5 Daiwa赤坂ビル1F
TEL. 03-6459-1888
営業時間:16時30分~翌5時
定休日: 日曜、祝日
☆プレゼント☆
鹿取義隆さんの直筆サインボールを「木挽BLUE」(900ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はこちらのメールフォームより、件名と本文の最初に「鹿取義隆さんのサイン希望」と明記の上、下記クイズの答え、郵便番号、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)を明記し、このコーナーの感想や取り上げて欲しいゲストをお書き添えの上、お送りください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締切は19年6月13日(木)。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
今回、鹿取義隆さんと楽しんだお酒の名前は?
お酒は20歳になってから。
お酒は楽しく適量を。
飲酒運転は絶対にやめましょう。
妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。