FC東京が首位を走っている。

 J1第11節終了時点で8勝3分け負けなし。長谷川健太監督が率いて2年目、“戦闘能力”の高い集団になった。インテンシティー(プレー強度)が高く、ボールを奪えばスピーディーに攻め立てる。17歳の久保建英も随分とタフになった。この闘う集団のスターティングリストに名前が載っているのも納得がいく。

 

 守備の要である森重真人やキャプテンマークを巻く東慶悟、そして久保の存在感は光るものの、個人的には永井謙佑に自然と目が向いてしまう。攻守におけるあの爆発的なスピードは、指揮官が掲げる「ファストブレイク」に欠かせない最重要項目だと思えるからだ。

 

 相棒のディエゴ・オリヴェイラとともに、相手の守備網を破壊する役割を担う。4月28日のホーム、松本山雅戦がまさにそうだった。

 

 山雅からすると、永井のスピードは相当に脅威だったはずだ。山雅のディフェンスラインは攻撃から守備に切り替わる際、一気に下がって背後のスペースを消しに掛かるのだが、逆にそこで生まれた中盤との間のスペースを久保がうまく使っていた。

J1相手でもブロックをつくって組織的に守ってきたチームを、混乱に陥れる。まさに永井効果であった。

 

 永井のスピードの特長は、速いだけでなく、しつこい。

 このしつこさは、かなり効く。狙ってないフリをしながら急発進でボールを奪いに行き、相手の視界から消えているところから猛然とプレスをかける。まさに狩りをするチーターのようである。

 

 攻撃面でのしつこさは、“二度追い”ができることだ。

 川崎フロンターレとの開幕戦(2月23日、ホーム)。前線に送られた山なりのパスに対し、対峙する相手ディフェンダーがヘディングでGKに戻そうとしたタイミングでダッシュをもう1回、発動している。シュートには至らなかったものの、ミスがあったら見逃さないという永井のしつこさは、大きなプレッシャーだったはずである。

 

 3月2日のアウェー、湘南ベルマーレ戦もそうだった。1-1で迎えた前半40分。後方からのロングフィードに抜け出しかけたが、相手に先に触られたことで流れたボールを二度追いした。GKとの競り合いに勝ってボールを奪い、味方のゴールにつなげたのだった。

 

 一度スピードを緩めても、すぐさま「トップ」に戻すことができる。これにしつこさが伴うのが、永井である。

 

 永井はこれまでサイドで起用されることが多かった。

 しかし彼に一番合うポジションは、真ん中のトップだと筆者は思う。2012年のロンドン五輪を思い出していただきたい。初戦のスペイン戦、1トップで起用された永井は攻守において、スピードを武器にニラミを利かせていた。影響を及ぼす範囲が広く、非常に重要な役割を果たしていた。関塚隆監督の大きなヒットが、この「トップ永井」であった。惜しくもメダルを逃がして4位に終わってしまったが、永井はよく働いた。

 

 走れば走るほど、使えば使うほど調子が上がっていくタイプだ。

 ロンドン五輪の活躍を受けて2013年1月にベルギーのスタンダール・リエージュへ移籍。デビュー2試合目でアシストを記録しながらも、ゴールという結果に結びつけることはできなかった。計11試合に出場してノーゴール、90分間のフル出場は一度もなかった。迎えた2013‐2014シーズンでは開幕しても、出場のチャンスすら与えられない状況となっていた。十分なトレーニングも積めていなかった。

 

 名古屋グランパスに復帰後、こう語ったことがある。

「(名古屋に復帰して)とにかく試合中によく動くってところから始めたんです。運動量が増えてくれば、自分の場合、プレーにも余裕が生まれてくる。それが今やっと出てきたのかなって」

 14年シーズンはJリーグでキャリアハイの12ゴールを叩き出している。しつこく動くことが、好調のバロメーターになっていく。それは今も変わらない。

 

 スピードを駆使しながらとにかく動きまくる。

 サイドよりも中央のほうが、イキイキとしている。今の役割は、ドがつくほどの「ハマリ役」。FC東京が初優勝に向けて突っ走れるかどうかは、この男に懸かっている。


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