第78回 SCスタッフの白球コラム「高校野球、東北地区北国旋風の理由」
”令和の怪物”こと佐々木朗希投手(大船渡高・岩手)が話題を集めています。4月には日本代表U-18候補者合宿で高校生最速の163キロをマーク。また5月の練習試合では快速球を封印しながら7回14奪三振の快投を見せました。今夏の甲子園、そして秋のドラフトの目玉であることは間違いありません。
「あれだけ足をあげてバランスが崩れないのは筋力がすごい証拠。しっかりと食事をして、小さいときから体をつくっていたんでしょう」
こう語るのは侍ジャパン・テクニカルディレクターの鹿取義隆さんです。鹿取さんはトップチームからアンダーまですべての世代の選手を代表候補として観察。データでは判断できない部分を”ナマの情報”として代表首脳陣に伝えるのが役目です。U-15世代の代表監督の経験もある鹿取さん。最近は地方の逸材の多さに舌を巻いていました。
「東京ヤクルトで活躍する村上宗隆選手は九州で中学時代から強打で鳴らした選手でした。スイングが中学生とは思えないくらいのスピードでしたね。それにしても九州の村上選手もそうだし、佐々木選手は岩手。最近は全国どこにでもいい選手がいますね。特に佐々木選手の地元の岩手は菊池雄星投手、大谷翔平投手とプロでも成功した選手が多い。野球どころという言葉とは無縁だった東北が近年、めきめき力をつけているのは野球人として嬉しい限りです」
東北出身選手の活躍について八重樫幸雄さんに聞きました。八重樫さんは仙台商(宮城)時代、4番キャッチャーとしてチームを甲子園ベスト8に導きました。70年にドラフト1位でヤクルト入り。ヤクルトでは正捕手、そして勝負強い代打として23年間、活躍しました。引退後はそのまま球団に残り、東北地区担当スカウトとして各地の高校に足を運びました。東北地区のアマチュア選手の成長をその目で見てきたと言ってもいいでしょう。
「確かに東北地方のレベルが上がっているのはスカウト時代から感じていました。僕らが高校生のころ、関東に練習試合で遠征をしても全国レベルの学校はなかなか相手にしてくれませんでした。そんな中で県ベスト16とかの学校と戦うんですが、それでも自分たちより数段上のレベル。それまで宮城で”自分たちは強い”と井の中の蛙だったのがよくわかりました」
八重樫さんは東北のレベルアップの要因をこう見ています。
「宮城、青森、岩手などの私立高校が一時期、野球留学生を多くスカウトしていました。そうした関西など県外から来た選手たちが入ることで野球のレベルが上がると同時に、地元出身者が”負けてられない”と奮起した。さらに大学野球も、これまでは東京六大学や関西の大学リーグが花形でしたが、東北福祉大など地方大学とその所属リーグのレベルもアップ。結果、そこから多くのプロ野球選手が生まれた。そうすると進路のひとつとして認知され、高校、大学とまた逸材が多く東北に入ってくるようになった。そうすることでいい指導者も生まれるし、さらに高校だけでなく小中学生の野球レベルも上がりました。そうした好循環が佐々木選手のような逸材が生まれたことにつながっているんでしょうね」
さらに八重樫さんは自身のことも踏まえて「あと、東北人は粘り強くて我慢強い。コツコツ練習するのは得意なんです。そういう東北人だけでなく雪国特有の資質も名選手、逸材を生む土壌になっています」と締めくくりました。
雪国出身の名投手といえば阪急・オリックスで通算130勝、完全試合も達成した名投手・今井雄太郎さんの顔が浮かびます。今井さんを見出した名スカウト・丸尾千年次さん(故人)は以前、スポーツコミュニケーションズ編集長・二宮清純にこう語っていました。
「新潟鉄道管理局(現JR東日本新潟支社)時代、今井は貨車の連結作業の担当でした。大雪の降る中でも黙々と仕事をこなして、弱音は一切吐かない。鋼のような腕をしておったし、これは鍛えればモノになると感じましたよ」
昨夏、第100回全国高校野球選手権大会は秋田の金足農業が準優勝を果たし、金農フィーバーを巻き起こしました。金農も地元秋田の選手たちで構成されたチームでした。さて、今年も甲子園は”北国の夏”になるのでしょうか。北の球児の奮闘に注目です。
(文/SC編集部・西崎)