第427回 MVPはアンディ・ルイスJr、最高KOは井上尚弥  ~2019年上半期の世界ボクシング個人賞~

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(写真:親しみやすい風貌のアンディ・ルイス<前列右から2番目>はジョシュア攻略で一躍人気者になった Photo By Ed Mulholland/Matchroom Boxing USA)

 2019年も6カ月が過ぎ、ボクシング界でも下半期のスケジュールがすでに始まっている。今年もここまで多くのビッグファイトが行われてきたが、前半戦で最も輝いたのは誰だったのか。今回は独自に“上半期MVP”、“上半期最高KO”“上半期最高試合”“上半期でブレイクした選手”を選出し、今年ここまでを振り返るとともに、後半戦の行方も占っていきたい。

 

 

【上半期MVP

アンディ・ルイス・ジュニア(アメリカ/WBA、IBF、WBO世界ヘビー級王者)

 

 2019年前半に最大のインパクトを生み出したボクサーが、6月1日にニューヨークで無敗の統一ヘビー級王者アンソニー・ジョシュア(イギリス)を7回TKOで下したルイスであることに誰も異論はあるまい。

 

 腹部のだぶついたユーモラスな風貌の無名ファイターが、筋骨隆々の無敗王者を攻略。まるで漫画やハリウッド映画のようなストーリーがゆえに、番狂わせを成し遂げて以降のルイスはボクシング界の範疇を超えた注目度を得るに至った。

 

 近年はやや人気が停滞していたヘビー級も、この一戦で大きく活気付いた感がある。また、米国内では知っている者が少なかったDAZN USAも、今戦を生配信したがために知名度は急上昇した(実はルイス、DAZN/マッチルームスポーツのライバルであるPBC所属なのだが)。あの1戦が業界にもたらしたすべての影響を推し量ることは、まだしばらくできそうにない。

 

 ルイスとジョシュアの再戦は11~12月に第1戦と同じニューヨークのマディソン・スクウェア・ガーデン(MSG)か、8万人を収容するウェールズのプリンシパリティスタジアムのいずれかで挙行という。このリマッチでもルイスは1000万ドル以上の報酬を受け取ることは確実。これから先に何が起ころうと、メキシカン、メキシコ系アメリカ人を歓喜させたルイスの人生はもう完全に変わったのである。

 

 

【上半期最高KO

井上尚弥(大橋)vs.エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ)(5月18日、グラスゴー)

 

(写真:井上<左>はWBSS終了後のトップランクとの契約も噂される Photo By Top Rank)

 この賞の候補となるような派手なKO劇は今年も枚挙にいとまがない。ノニト・ドネア(フィリピン)、デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)、ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)といったパンチャーたちは、今年最初のリング登場でそれぞれ豪快な倒しっぷりをみせてくれた。最近ではホルヘ・コタ(メキシコ)を鮮烈に沈めたジャーメル・チャーロ(アメリカ)の破壊的なKOも忘れるべきではない。ただ……それらのビッグネームを差し置いて、ここでは強豪ロドリゲスを2回で沈めて各国のファンを震撼させた井上のパフォーマンスを上半期最高KOに選びたい。

 

 決着シーンだけを見ればこの試合には他の候補ほどの劇的さはなかったかもしれないが、レベルの高さと軽量級の枠を超えた迫力は出色。アメリカの関係者も仰天させたKO後、「ナオヤ・イノウエを見たか?」という言葉がニューヨークの試合会場でも頻繁に囁かれたほどだった。 

 

 今秋に予定されるワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ決勝戦でも、井上はドネアを相手にまたとてつもないKOで魅せてくれるだろう。もはや立派な世界的センセーション。井上が“パウンド・フォー・パウンドでも最強”と多くの関係者から認められるまでには、もうそれほど多くの時間は必要ないかもしれない。

 

 

 【上半期最高試合】

ジャレット・ハード(アメリカ)vs.ジュリアン・ウィリアムス(アメリカ) (5月11日、バージニア)

 

(写真:世界タイトル初挑戦では敗れたウィリアムス<右>だが、ハード戦では決意が感じられた Photo By Leo Wilson / Premier Boxing Champions)

 2019年は好ファイトが頻発している年という印象はない。注目度の高かったサウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)対ダニエル・ジェイコブス(アメリカ)、エロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)対マイキー・ガルシア(アメリカ)、テレンス・クロフォード(アメリカ)対アミア・カーン(アメリカ)といったビッグファイトも結局はもう一つの内容に終わった。

 

 そんな中で、際立ったのは3月16日の田中恒成(畑中)対田口良一(ワタナベ)、3月24日のセルゲイ・リピネッツ(ロシア)対レイモント・ピーターソン(アメリカ)、4月26日のダニエル・ローマン(アメリカ)対TJ・ドヘニー(オーストラリア)、5月11日のハード対ウィリアムスの4戦。そして、ここでは評価の高かったハードをウィリアムスが攻略した一戦をトップに据えたい。2回に先制のダウンを奪ったウィリアムスが、敵地での打ち合いを制した王座交代劇はドラマチックだった。

 

 これは余談だが、間違いなくドーピングが蔓延している米ボクシング界において、ウィリアムスは徹底したクリーン化を標榜する数少ない1人。今後、防衛戦の相手には厳格な薬物検査を義務付けるという。ウィリアムスが勝ち続ければ様々な真実(誰が検査を敬遠するかなど)が浮き彫りになる可能性もあるだけに、その活躍に期待を寄せたいところだ。

 

 

【上半期でブレイクした選手】

デビン・ヘイニー(アメリカ)

 

(写真:ヘイニーのシャープなボクシングは専門家筋にもウケがいい Photo By Ed Mulholland/Matchroom Boxing USA)

 世界各国に魅力的なプロスペクトは数多いが、ここでは米国内に拠点を置く選手の中から選んだことは断っておきたい。期待のテオフィモ・ロペス(アメリカ)は今年も2戦2勝2KOと依然好調。強打者バージル・オルティス(アメリカ)も5月4日にしぶといマウリシオ・エレーラ(メキシコ)を破壊したKO勝利が光る。しかし、ライト級の新星ヘイニー(20歳/22戦全勝(14KO))は、今年最初のリング登場でその2人をも上回るほどのビューティフルな勝ち方を見せてくれた。

 

 DAZNとの契約初戦となった5月25日のアントニオ・モラン(メキシコ)戦で、相手を完全支配した上で7回TKO勝利。これまではスピード、スキル、若さに似合わぬ完成度がゆえに“ネクスト・メイウェザー”などと称されてきたが、この試合ではハイライトシーンを生み出すだけのパワーも秘めていると示してくれた。

 

 今が伸び盛りのヘイニーは、9月13日にはWBC世界ライト級挑戦者決定戦でザウル・アブドラエフ(ロシア)と対戦予定。この試合もクリアすれば、その後には同級の頂点に立つワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)との絡みも話題になってきそう。実際にはヘイニーがライト級にとどまる時間はもう長くはないかもしれないが、どの階級で戦うことになろうと、名前を覚えておく価値のある優れたタレントであることに変わりはない。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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