(写真:華やかなホームラン攻勢はブロンクスの名物 Photo By Gemini Keez)

 6月15日、ア・リーグ東地区首位争いを続けるヤンキースが新たな戦力補強を成し遂げた。プロスペクト、金銭などと引き換えに、このトレード時点でリーグ最多の21本塁打を放っていた36歳のエドウィン・エンカーナシオンをマリナーズから獲得。新たな大砲を加えた重量打線は、後半戦、プレーオフで猛威を振るうのか(記録はすべて6月19日のゲーム終了時点)。

 

「トレードされることは分かっていたが、どのチームになるか分からなかった。ヤンキースにトレードされるとは思わなかった。ヤンキースだと知って驚いた」

 ヤンキースタジアムでの入団会見で他ならぬエンカーナシオン本人がそう述べていた通り、この時点で強打者を獲得するトレードは少々意外なものだった。

 

 ルイス・セベリーノ投手の復帰が遅れていることもあり、現在のヤンキースに補強が必要なのは先発投手陣というのが一般的な見方。5月下旬には左腕ダラス・カイケル獲得の有力候補とみなされていた。

 

 ところが――。

 ここでまず遂行されたのは、足りない部分を埋めるのではなく、自らの強みにさらに磨きをかける補強策。すでに二桁本塁打の選手を5人も抱える打線に、昨季まで7シーズン連続30本塁打以上、キャリア通算でも401本塁打を放ってきたスラッガーが加わればよりパワフルになる。

 

 時を同じくして、今週、2017年に合わせて111本塁打を放ったジャンカルロ・スタントン、アーロン・ジャッジが相次いで復帰を果たす。結果として、野手陣は以下のような豪華メンバーになった。

 

(写真:ジャッジが戻ってきて、ヤンキース打線は間違いなくより迫力を増す Photo By Gemini Keez)

2 ゲイリー・サンチェス(今季すでに21本塁打)

3 ルーク・ボイト(同17本塁打)

4 グレイバー・トーレス(同16本塁打) 

5 DJ・ラメイヒュー(チーム1位の打率.315)

6 ディディ・グレゴリアス(昨季27本塁打)

7 ジャンカルロ・スタントン(本塁打王2度)

8 アーロン・ヒックス(昨季27本塁打)

9 アーロン・ジャッジ(一昨年52本塁打で本塁打王)

DH エドウィン・エンカーナシオン

 

 控えに今季、中型ブレイクを果たしていたジオ・ウルシェラ、信頼度の高いブレット・ガードナーが居座る層の厚さは他チームには脅威に違いない。

 

 ホームラン依存に拍車か

 

 昨季のヤンキース打線はメジャーダントツの267本塁打を放ったが、今季は同6位タイの117本にとどまっている。ただ、19日のレイズ戦までチーム史上2位の22戦連続本塁打記録を継続しており、1試合で2本以上が出た場合の勝利は27勝3敗。メジャー全体のトレンドではあるが、ヤンキースはホームランへの依存傾向は特に強いチームであることは間違いない。そして、わずか1週間の間にエンカーナシオン、スタントン、ジャッジが打線に加わり、この流れにさらに拍車がかかるのだろう。

 

(写真:エンカーナシオン<右。ブルージェイズ時代>はニューヨークでも一発を量産できるか Photo By Gemini Keez)

 もっとも、この方向に傾倒しすぎることで懸念材料も生まれてくる。ホームラン打者は得てして脆いもので、昨季、エンカーナシオンは132三振、ジャッジは152三振、スタントンは211三振を喫した。ケガ人が多く、多くの代役を登用してきた今季のチーム三振数はメジャー19位だが、本塁打数同様、今後は三振数も急増が予想される。

 

 二線級とも数多く対戦するレギュラーシーズン中はそれでも良いだろう。力の落ちる投手は打ちのめし、大勝するゲームも多いはずだ。しかし、投手のレベルが上がるポストシーズンではどうか。このホームラン打線で例えばジャスティン・バーランダー、ゲリット・コール(ともにアストロズ)、ブレイク・スネル、チャーリー・モートン(ともにレイズ)といったライバルチームのエースたちを崩せるだろうか?

 

「すごい選手、すごい打者が数多くいるに越したことはない。ポストシーズンになると突然プレーが変わり、走者を進め、バットにボールを当てなければいけなくなるというのは間違いだ。10月中にだってホームランは重要なんだ」

 アーロン・ブーン監督はそう語り、このホームラン打線で戦い抜くことに自信を示していた。しかし、ブーンの言葉にあるように、ロースコアでの接戦が増えるプレーオフではコンタクト(バットにボールを当てる技術)のスキルがより重要視されるというのは定説になりつつある。

 

(写真:数少ないアベレージタイプ、ラメイヒューは今後も重宝されそうだPhoto By Gemini Keez)

 振り返れば昨秋、地区シリーズ第3、4戦でのヤンキースは自慢のパワー打線が沈黙し、この2戦ではホームランが1本も出ないままレッドソックスに敗れ去ったのは記憶に新しい。ほとんど輪をかけたような超重量打線で臨む今季は、いったいどんな結果が待っているのか。

 

 もちろんシーズンはまだ半ばを迎えたところで、プレーオフにまで思いを巡らせるのは少々早すぎる。これから先にいろいろなことが起こり、故障者も出るだろう。先行きを予測するのは難しいが、はっきりしているのは、ヤンキースの今後がより興味深くなったということだ。

 

 ケガ人を無名選手の台頭で補った序盤戦も見応えがあったが、やはりこのチームはスターの敷き詰められた“悪役”がよく似合う。その方がメジャーリーグも盛り上がる。今後もホームランを量産し、他チームを警戒させ、スリリングな話題を振りまいて欲しいところだ。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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