第428回 40歳の英雄が再びビッグファイトのリングへ ~パッキャオvs.サーマン、3つの注目ポイント~
7月20日 ネバダ州ラスベガス MGMグランドガーデン・アリーナ
WBA世界ウェルター級タイトルマッチ
スーパー王者
キース・サーマン(アメリカ/30歳/29勝(22KO)1無効試合)
vs.
正規王者
マニー・パッキャオ(フィリピン/40歳/61勝(39KO)7敗2分)
楽しみな一戦が今週末に迫った。ウェルター級屈指の実力と目される無敗王者サーマンが、ボクシング史上最大級のレジェンド、パッキャオと対戦する。40歳になったパッキャオは、年齢的には今が全盛期のサーマンを倒して栄光のキャリアに新たな1ページを加えられるか。今回はこの“世代間の戦い”の見どころを3つにわたってピックアップしていきたい。
50/50のマッチアップ
今週末の一戦は“正真正銘のビッグファイト”であり、“勝敗の読めないカード”でもある。それと同時に“今後を考えても意味のあるマッチメイク”。この3つの要素が揃う試合は米リングでも頻繁にあるものではない。
本来であれば、一回り若く、すでにショーン・ポーター、ダニー・ガルシア(ともにアメリカ)を下したサーマンが絶対有利とみなされてしかるべきのはず。しかし、1月のエイドリアン・ブローナー(アメリカ)戦でのパッキャオの動きは“老雄健在”をアピールするのに十分だった。一方のサーマンはブランクがちで、約2年ぶりの復帰戦となった1月のホセシト・ロペス(アメリカ)戦ではさびつきが目立ったこともこの試合の予想を難しくしている。
ビッグファイトでも予想は一方的なことが多いのがボクシングだが、今戦は例外。関係者の見方はほぼ真っ二つで、オッズはわずかにパッキャオ優位と出ている。どちらが勝つにしても判定勝負が有力で、採点の難しい競った展開のままスリリングな終盤を迎える可能性も高そうだ。
ウェルター級の今後を占う
勝ち負けが読めないというだけではなく、群雄割拠のウェルター級の中でも重要な一戦という意味でもパッキャオ対サーマン戦は注目されている。
ミドル級、ヘビー級に続く3大ドル箱とされてきた階級で、ようやく本格的な潰し合いが始まりそうな気配がある。今後、9月28日にはIBF王者エロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)がWBC王者ショーン・ポーター(アメリカ)と統一戦を予定。その他、ダニー・ガルシア(アメリカ)対マイキー・ガルシア(アメリカ)の強豪対決、スペンスと評価を二分するテレンス・クロフォード(アメリカ)の指名戦など、2019年後半はウェルター級の有力選手たちがそれぞれ重要ファイトに臨みそうだ。
サーマン対パッキャオはいわば“準決勝第1試合”。勝者がスペンス対ポーターの勝者と3団体統一戦を行うのが最もわかりやすい流れではある。その先に、クロフォードとの4団体統一戦&最強決定戦も見えてくる。
ただ、パッキャオがサーマンを下した場合、話はややこしくなりかねない。PBCとの契約はもうあと1戦と伝えられる40歳の老雄は、本当にリスキーなスペンス戦を望むかどうか。PBCを選んだパッキャオの真の狙いはフロイド・メイウェザー(アメリカ)との再戦という見方は依然として根強いだけに、今後も予断を許さない。
サーマンが勝ち残った場合ですらも、気まぐれな王者がどんな近未来を思い描いているかは少々読みづらいところがある。現状ではっきりしているのは、今戦の勝者がウェルター級戦線の主役であり続けるということだけだ。
興行成績にも注目
米地上波FOXがPPV中継するパッキャオ対サーマン戦が、どういった興行成績をマークするかも興味深いところではある。同じFOX PPVで中継された3月のスペンス対マイキー・ガルシア戦は、約36万件という予想以上の購買数を記録。その際にはより人目に付きやすい地上波の効果が喧伝された。FOX は今戦のプロモーションにも力を入れており、パッキャオの知名度の高さもあいまって、50万件以上の売り上げも期待できそうだ。
PBCの陣頭指揮をとるアル・ヘイモンが、最近は付き合いの長いShowtimeよりもFOXを重視していることはそれぞれの興行を見れば明白。FOXが今回も成功を収めれば、PBCのFOX優遇に拍車がかかり、ShowtimeはHBO同様にジリ貧を辿る可能性も指摘され始めている。
また、今後のウェルター級のビッグファイト路線を睨んでも、パッキャオ対サーマン戦はいわば試金石という見方ができる。今戦が高数値を叩き出せば、中量級への興味が改めて証明され、各局からのさらなる投資も望める。その際には、複数のテレビ局、プロモーターの協力が必要な最終決戦、スペンス対クロフォードへと繋がる道も少しずつ見えてくるかもしれない。
逆にパッキャオ対サーマン戦、9月のスペンス対ポーター戦の数字がともに低調だった場合、マイナスの効果を及ぼしかねない。現在のウェルター級勢の興行的な限界がさらされ、さらなるビッグファイトは難しくなるのだろう。そういった意味で、今週末のビッグイベントには本当に様々なものが委ねられているとも言えそうだ。
杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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