日本知的障がいサッカー連盟(JFFID)は<サッカーを通して知的障がい児・者が社会との関係を構築する>ことをミッションに掲げ、その環境整備や競技普及に力を入れている。JFFIDの斎藤紘一理事は日本障がい者サッカー連盟(JIFF)の理事も兼ねている。斎藤理事に障がい者サッカーの未来と展望を訊いた。

 

伊藤数子: 2016年、斎藤さんはJFFIDとJIFFの理事に就任しました。そもそもパラスポーツと関わるようになったきっかけを教えていただけますか?

斎藤紘一: 2009年、私がフリーのカメラマンだった頃、全国知的障がい者サッカー交流大会の取材をする機会がありました。私の家族には知的障がいのある姉がいます。ある日、姉がスポーツチャンバラの大会で初めてトロフィーを持って帰ってきたことがありました。その時の姉や家族の喜びようがすごく記憶に残っていたんです。私自身、小中高とサッカーをやっていたこともあり、最初はボランティアというかたちで知的障がい者サッカーに関わらせていただくようになりました。

 

二宮清純: 次第に深く関わるようになっていったわけですね。

斎藤: はい。2010年に国際知的障害者スポーツ連盟(INAS)主催のINASサッカー世界選手権南アフリカ大会の資金集めなどに関わり、大会には日本代表チームの広報担当として帯同しました。以来、今のように連盟にも関わるようになりました。

 

二宮: 世界選手権は4年に1度開催され、「もうひとつのワールドカップ」と呼ばれています。

斎藤: 1994年にオランダで第1回大会がスタートしました。2002年からは国際サッカー連盟(FIFA)主催のFIFAワールドカップと同じ開催国で行われるようになりました。この年は日本大会ということもあり、初めて日本代表が結成されました。その後、現在まで5大会連続出場(2002年、2006年、2010年、2014年、2018年)中で最高成績は2014年ブラジル大会4位です。昨年はロシアの都合でスウェーデン開催となりましたが、日本代表は6位でした。

 

伊藤: 競技人口は70以上あるパラスポーツ団体の中で際立って多いですね。

斎藤: 競技人口は約7000人です。潜在的には約1万人とも言われています。さらに昨年からは女子選手普及・育成のプロジェクトを始めました。現在、女子選手はチームで男子に混じってプレーしています。今後は女子選手が将来的にプレーする女子チームであったり、子どもの頃からサッカーを学べる環境を提供したいと思っています。それに、いずれは47都道府県それぞれに連盟組織を立ち上げたいと考えています。

 

 独自ライセンス制度

 

二宮: サッカーには日本サッカー協会(JFA)発行の指導者ライセンス制度があります。JFFIDは?

斎藤: 昨年から独自の指導者ライセンス発行事業を始めました。JFAのライセンスを持っている者が中心となり、カリキュラムをつくりました。独自の指導者ライセンスとは言っても、知的障がいサッカーはサッカーと競技ルールは同じです。JFAライセンスと全く別物と捉えるのではなく、うまく連携や連動できるよう模索したいと考えています。

 

二宮: 特別支援学校で教えている先生方も何かライセンスをお持ちなんですか?

斎藤: 持っている方とそうでない方がいますね。持っているのはサッカーのライセンスか、日本障がい者スポーツ協会が認定する障がい者スポーツの指導員ですね。

 

二宮: 障がい者スポーツの指導員は、障がいも競技も全般的に見なければいけませんね。

斎藤: はい。そういう意味でも独自のライセンスをつくる意味はあると思っています。例えば選手に対する伝え方ひとつとっても、障がいや競技によって違ってくるはずです。何より指導者には知的障がいがどういうものかをきちんと理解し、指導に落とし込む必要があります。

 

二宮: 選手のセカンドキャリアとして指導者の道に進むという選択肢もあるのでしょうか?

斎藤: ようやく今、そのステージに入ってきた段階です。2002年に日本代表でプレーした選手が東京や静岡などで指導者となっています。

 

伊藤: 世界のライセンス制度はどうなのでしょうか?

斎藤: 知的障がい者サッカーだけのライセンスはあまり聞いたことがないですね。イングランドはパラスポーツへの理解が進んでいるので、多くのサッカークラブの中に知的障がいのカテゴリーもあるそうです。スペインにはラ・リーガジェニュインという知的障がい者サッカーのリーグがあります。

 

二宮: ラ・リーガはスペインのプロサッカーリーグですね。

斎藤: ラ・リーガジェニュイン自体はプロリーグではないのですが、一昨年、現地に行った時、いくつかのクラブが知的障がい者を含む指導メソッドをしっかり持っていました。スペインの知的障がいサッカー関係者の方に「知的障がい者サッカーのトップ選手に対して協会やリーグはどう指導しているんですか?」と聞くと、キョトンとされました。

 

伊藤: それはなぜでしょう?

斎藤: 彼らは健常者と普通にプレーしているから、それに対して協会やリーグが何かをする必要がないという認識なんです。これはヨーロッパにおけるスポーツの在り方にも関係していると思います。昨年の世界選手権が開催されたスウェーデンでも感じました。スポーツクラブや施設が街中にあり、学校が終わると子どもたちが集まってくる。その中に障がいのある子も混ざっています。スポーツをする場所が基本的に確保されているんです。私たちは日本でもそういった環境づくりをしていきたいと考えています。

 

(後編につづく) 

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斎藤紘一(さいとう・こういち)プロフィール>

NPO法人日本知的障がい者サッカー連盟(JFFID)理事。1977年神奈川県出身。明治学院大学国際学部卒業。2002年に写真エージェンシーである株式会社アフロに入社後、フリーランスのフォトグラファーに転身。2011年の東日本大震災を海外通信社のフォトエディターとして経験した後、株式会社アフロに復職し、報道写真配信のマネージャーなどを歴任。現在も同社でフォトエディター、スーパーバイザーとして幅広く活動中。障がい者サッカーとは、2009年全国知的障がい者サッカー交流大会の取材をきっかけに関わる。2010年INASサッカー世界選手権南アフリカ大会で広報担当としてチームに帯同。2016年より、一般社団法人日本障がい者サッカー連盟(JIFF)とJFFIDの理事に就任した。2018年の世界選手権では、代表チームマネージャー兼広報、通訳を担当。また、JIFFでは、7つの障がい者サッカーと連携し、共生社会実現へ向けた活動を行っている。

 

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