(写真:ソムヨット会長<左>と記念撮影に臨む西野氏)

 サッカーロシアW杯で日本代表監督を務めた西野朗氏が19日、都内で会見を開き、タイ代表監督およびU-23タイ代表監督に就任することを発表した。西野監督は「新しいタイのサッカーを築きたい」と抱負を述べた。

 

 西野監督は1996年、アトランタオリンピックでU-23日本代表を務め、ブラジル代表に勝利した“マイアミの奇跡”の立役者のひとりだ。その後、Jリーグの柏レイソルやガンバ大阪などで指揮を執った。特にG大阪では10年に渡り監督を務めた。遠藤保仁、明神智和、橋本英郎、二川孝広らで中盤を構成し、華麗なパスワークを披露。超攻撃的なサッカーでファンを魅了した。J1の監督として通算270勝をあげた。これは歴代1位である。

 

 ロシアW杯の開幕2カ月前、急遽日本代表の監督に就任したことは記憶に新しい。下馬評は低かったが2大会ぶりに日本代表をベスト16に導いた。そんな“名将”の西野がタイ代表監督と東京五輪世代の監督を兼任することになった。

 

 西野監督は「ここ1カ月くらいオファーを受けるか受けないか(検討中の段階)で報道が先行してしまった」と語り、こう続けた。

「光栄なオファーに対して、自ら向こう(タイ)に行ってサッカーを見た。タイサッカー協会の会長の熱意ある話を受けて、一度帰国し、持ち帰って引き受けた。他国の代表チームを率いるのは簡単なことじゃない。これから多くの作業が待っているが、覚悟を持ってタイのサッカーにかかわっていきたい」

 

 会見に同席したタイサッカー協会のソムヨット・プンパンムアン会長は新監督にこう期待を寄せる。

「西野監督に対し、重要な大会に向けて全力でサポートする。多くの経験をいかして、ロシアW杯では(決勝トーナメント進出させた)日本と同じようにタイを成長させてくれると確信しています」

 

 9月5日から2022年カタールW杯アジア2次予選が始まる。タイはUAE、ベトナム、マレーシア、インドネシアと同じG組。AからH組の各組1位は文句なしで最終予選に進出する。また、2位でも上位4カ国に入れば最終予選に駒を進めることができる。

 

 とはいえ新監督には時間に余裕がない。

「まずはタイのサッカーの現状を深く理解しないといけない。タイはシーズン真っ只中。チーム視察をさせてもらいます。代表チームは選手を拘束できる時間が限られている。通訳を介しての指導も経験がないので意思疎通がどこまではかれるかだと思う。まずはしっかりと見て、話をしたい」

 

 そして「時間がないことには(ロシアW杯の経験で)慣れていますが……」とつぶやき会場の笑いを誘った。

 

 昨夏以来の現場復帰となった。

「チームを率いられることほど、幸せなことはない。ライセンスを持っていても指導できる環境に身を置けるわけではない」

 

 日本をよく知る人物の国外代表監督就任は、アジアのレベルを上げる大きな要素になるだろう。近年、タイのサッカーレベルは著しく向上している。そこに西野監督のサッカーノウハウが加わればさらに成長は加速するに違いない。

 

「まずはタイを東南アジアのリーダーにして、日本としっかり戦えるレベルに成長させたい。覚悟を持ってやっていく」と新指揮官。日本のライバルになる日は、そう遠くはないかもしれない。

 

(文・写真/大木雄貴)