8月6日から始まる第101回全国高校野球選手権に向け、続々と代表校が名乗りをあげています。甲子園での熱戦に向け気分の盛り上がるこの時期ですが、合わせて話題になるのが「球数制限」についてです。特に今年は4月に「投手の障害予防に関する有識者会議」が発足したこともあり、例年以上に投手の球数が注目を集めそうです。


 有識者会議は、次のメンバーによって構成されています。宇津木妙子(日本ソフトボール協会副会長)、岡村英祐(弁護士)、川村 卓(筑波大野球部監督)、小宮山悟(早稲田大野球部監督)、田名部和裕(日本高野連理事)、土屋好史(日本中体連・軟式野球競技部専門委員長)、冨樫信治(新潟県高野連会長)、中島隆信(慶應義塾大教授)、正富 隆(整形外科医)、百﨑敏克(佐賀北高野球部元監督)、山﨑正明(高知県高野連理事長)、渡辺幹彦(整形外科医)、渡辺元智(横浜高野球部元監督)(50音順)。

 

 すでに4月と6月に会議が行われ、そこで「1試合の球数制限」の答申への盛り込みは見送られ、代わりに大会終盤など一定期間内で投げられる球数を制限する、いわゆる"総量制限"の採用が盛り込まれました。

 

 座長の中島隆信委員は「球数制限の効果について医師から明確なエビデンスが得られた。ただし1試合の球数制限は試合進行で様々な制約が出てくるとの意見があり、トーナメントは大会終盤の日程がタイトになる。大会終盤の一定期間での球数制限が有効として答申に盛り込むことを決めました」と説明しています。

 

 有識者会議はこの後、9月と11月に行われ、故障予防に関する高野連への答申内容を決定することになっています。

 

 この有識者会議については球界OBや現役選手も気になっているようで、取材の現場でも「球数」に話題が及びます。ここで、そのいくつかを紹介しましょう。まずは自ら浪商(現大体大浪商)のエースとして春2回、夏1回の甲子園に出場した牛島和彦さんです。牛島さんは高3春は決勝まで、夏は準決勝まで戦いました。そのときのことを踏まえてこう語ります。

 

「私自身はケガをしなかったけど、体のことを考えたら球数制限はあった方がいいと思います。ただ自分自身を振り返れば、疲れた中で投げて、そこで体に無理のないフォームや投げ方を覚えた部分もありました。夏は暑さでしんどかったんですが、春に決勝まで5試合に投げた経験があり、そこで"投げ方"を覚えたのかもしれません。夏はベスト4で敗れましたが、"もう1試合いけるな"という感覚は自分でありましたね。いずれにしても無理をさせるのは良くないし、きちんとした投げ方を教えることが必要でしょう」

 

 考慮したい現役球児の声

 続いて権藤博さんです。自ら現役時代の酷使の影響で肩やヒジを痛めた経験からコーチ、監督時代は一貫して「投手ファースト」の信念を貫いていました。権藤さん流の高校球児の故障予防対策は以下のようなものでした。

 

「今、球数制限の導入について話し合われているとニュースで見聞きしています。1試合100球とかトーナメント後半の総量規制とかいろいろ出ているようですが、僕から言わせたらどちらもあり得ない。高校野球で『おらが町、おらが村のエースが甲子園に出た、そら準決勝だ、決勝だ』ってなったとき、"100球だから交代"となったらドラマも何もあったもんじゃない。球数を規制することでリスクは減りますが、故障予防の根本としてはどうなんでしょう……。やるなら練習、練習試合などから球数を管理しないと。それよりも試合間隔を再考するのが得策だと思います。球数よりも連投の方が投手の体には悪いんですから、過密日程をなくして余裕あるトーナメントを組むことがベターだと思います」

 

 さて、最後は日大鶴が丘高からドラフト4位で横浜DeNAに入った勝又温史投手です。勝又投手は昨年7月30日、日大鶴が丘高のエースとして西東京大会決勝で日大三高と対戦しました。この日、東京は最高気温31.2℃で、試合も炎天下の中で行われました。そこで勝又投手は9回裏までひとりで投げきりました。最後、154球目をサヨナラ2ランにされ、3対5で敗戦。甲子園には届かず、また試合後は熱中症の症状を訴えて救急車で病院に運ばれました。そのときをこう振り返りました。

 

「とにかく最後まで投げて、それで甲子園に行こうと思っていました。最後はサヨナラホームランを打たれて、体もヘロヘロで、悔しさもありました。でも嬉しさもあり、充実感もありました。それは監督が最後まで僕に投げさせてくれたことです。同級生にもう1人、好投手がいて、西東京大会の途中で彼が先発した試合もあった。だから決勝も交代させられても不思議じゃなかった。でも、最後まで投げさせてもらえて良かった。甲子園に行けなかった悔しさはありましたが、でも投げきった、やりきったという達成感がありました。決勝の途中で交代していたら、3年間の締めくくりとして、気持ちとして中途半端なまま終わっていたでしょうね」

 

 上記のように有識者会議には各界からメンバーが集まっています。だが、現役の高校球児は会議には呼ばれていません。アンケートによる意見収集は実施していますが、やはりアンケートと会議での発言は別物です。現役球児の思いも汲んだ故障予防対策とするためにも"ナマの声"が必要です。

 

(文・まとめ/SC編集部・西崎)


◎バックナンバーはこちらから