まだ親善試合の段階とはいえ、レアル・マドリードに移籍した久保建英が順調なスタートを切った。45分間出場したバイエルン戦の出来は、ひいき目ではなく、十分に合格点をつけられるものだった。

 

 マドリードのメディアは驚いただろう。少なからず色眼鏡でみていたに違いない日本の若い才能が、明らかに「特別」であることの片鱗をうかがわせたのだから。

 

 実をいえば、わたしも驚いた。レアルでの久保は、FC東京の久保と何ら変わるところがなかったから、である。

 

 過去、多くの日本人選手が欧州に渡ってきたが、そのほとんどが、日本と同じようにプレーすることはできずに終わってきた。多くの選手が体格の壁、言語の壁に跳ね返され、そこを乗り越え、アジャストできた数少ない者だけが、生き残ってきた。

 

 久保は違う。言語の壁がないのはもちろんのこと、現役の日本代表選手ですら悩まされている体格の壁さえも、デビュー戦の段階から乗り越えた。彼は、日本でと同じようにプレーし、日本でと同じようにスペイン人の称賛を勝ち取った。

 

 言語も、体格も、サッカーにおいては絶対的要素、というわけではない。ただ、できた方が、恵まれていた方が有利であることも間違いない。

 

 バルサから日本に戻ってきた時点でスペイン語の問題はクリアしていた久保は、当時の彼になかったもの、体格のハンデを補うための努力を怠らなかった。いまの高校3年生に久保の才能を凌駕する者はなかなかいないだろうが、久保の強さを凌駕する者はもっと少ない。才能だけでなく、自分の身体を強くする、大きくするという意識においても、久保は突出していた。

 

 では、身体を大きく、強くするために必要なものはなにか。トレーニング? もちろん! だが、このコラムでも何回か書いてきたように、日本のサッカー界は1つ重要な要素を見落としてきた。

 

 食の重要性である。

 

 学食や弁当で昼食をとり、練習に出る。終わった時には腹ぺこで、でも、夕食は家に帰ってから。空腹になった身体は体内のエネルギーを燃焼させて急場をしのぐ。つまり日本のサッカー少年たちは、知らず知らずのうちにダイエットをしてしまっているのだ。これでは、身体が大きくなるはずもない。

 

 だが、ここにきてそんな状況を打破しようとする動きも出てきた。セレッソ大阪が、コンサドーレやヴィッセルで“カリスマ寮母”と慕われてきたスポーツ料理研究家の村野明子さんとタッグを組み、“100人ごはんプロジェクト”を始めたのである。

 

「小学生から高校生まで、セレッソの練習にきてくれている子供たちが、練習後にすぐにご飯を食べられるようにしたかったんです。そのために、毎日100人分のご飯を作ろうと」

 

 選手育成には定評のあるセレッソだが、欧州では体格の壁に苦しむ選手が多かった。大谷翔平に自炊指南をしたことでも知られる村野さんのご飯を毎日食べるセレッソの俊英たちが、将来、どんな体格になっているのか。非常に楽しみなプロジェクトの発足である。

 

<この原稿は19年7月25日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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