四国アイランドリーグplusでは徳島が2年連続優勝を収め、NPBでもシーズンは最終盤に突入している。
 独立リーグ史上最高位となるドラフト2位で中日に入団した又吉克樹(元香川)はリーグ2位の65試合に登板して9勝(1敗2セーブ)をあげ、今や欠かせないリリーフの柱に成長した。千葉ロッテの角中勝也(元高知)もチームの主力として、試合に出続けている。彼らに続こうと2軍で奮闘中のアイランドリーグ出身選手の今を追った。
(写真:課題だった右打者対策も、巨人時代に習得したチェンジアップに「味が出てきた」と自信を深める)
 曲がり角の先に――岸敬祐

 人生にたらればは禁句である。ただ、あのケガがなければ、3連覇を果たした歓喜の輪の中にも入っていたかもしれない。
 昨年まで巨人で、あの長嶋茂雄が監督時代に背負った「90」をつけていた岸は、今、育成選手として千葉ロッテにいる。アイランドリーグ愛媛から巨人に2010年の育成ドラフトで2位指名を受け、2年目の7月に支配下登録を勝ちとった。翌12年の春季キャンプでは1軍メンバーに抜擢。貴重なサウスポーとして球団の期待は大きかった。

 ところが……オープン戦に入り、岸は左ヒジに違和感を覚える。
「最初は張りがあるなという感じでした。でも、開幕前に出遅れるわけにはいかない。これくらいは大丈夫だろうと我慢していたんです」
 だが、状態は悪化する一方だった。ついには投げることもできなくなった。診断結果は左ヒジの疲労骨折。靱帯も損傷していた。

「今まで大きなケガをしたことがなかったので、ものすごく焦りましたね。リハビリも初めてで急ぎ過ぎてしまって、かえって回復が遅れてしまったんです」
 1軍登板はおろか2軍の公式戦でも投げることなく、1年を棒に振った。オフに待っていたのは非情の“クビ”宣告だった。

 このままで終わるわけにはいかない。12球団合同トライアウトでは雨天のため、室内の即席マウンドで投げる悪条件ながら、打者4人に対して2三振を奪った。
「自分のボールを投げられましたし、まだやれるという手応えがありました。誰かが見てくれていることを信じていました」
 ロッテから秋季キャンプ中のテストに呼ばれ、紅白戦で2回無失点。育成契約ながら入団が決まった。

「ラストチャンスをいただいた。またケガをして終わるわけにはいかない」
 新たな背番号121を背負い、岸は強い決意でシーズンを迎えた。だが、その思いが裏目に出る。
「春先からヒジに負担がかからないようにフォームを意識したり、手探り状態がずっと続いていました。ちょっと良くてもヒジの張りが出てくると、またフォームをいじってみたり、なかなか自分のピッチングに集中できませんでしたね」

 2軍で好成績を収めたい。一方で故障は繰り返したくない。アクセルとブレーキのバランスをとりながら、スピードをあげて支配下登録という関門を通過しようとする作業は困難を極めた。
「練習では、もうちょっと投げるべきか、ストップすべきか悩みました」
 不安を抱えたまま、マウンドに上がっても結果は望めない。同じくテスト入団した金森敬之が6月に支配下登録された中、岸は背番号をシーズン途中で2ケタにすることはできなかった。今季は20試合に投げて、防御率5.31。39イニングを投げて46被安打と打ち込まれるケースが目立った。

「6月の時点で、2軍の青山(道雄)監督から“左は手薄だから、頑張ればチャンスがある”と言われていました。でも7月31日(シーズン中の登録期限)が近づいてくると、どうしても気持ちが落ち着かなくなる。ただ、巨人時代にも経験していた分、期限を過ぎてからの切り替えは、きちんとできました」
 8月に入ってからはイースタンリーグ優勝へひた走るチームで先発を任された。9月9日には古巣の巨人を相手に5回3安打無失点と好投。勝ち投手になった。

「先発はやりがいがありますね。周りからも先発向きだと言われますし、自分の持ち味が出しやすいと思っています」
 巨人時代の2012年にはファームながら先発で防御率2.36と安定した成績を残し、タイトルも獲得した。その頃の感覚が、ここにきて徐々に蘇りつつある。
「今は不安は全くありません。投げるのが楽しくなってきました」

 岸の場合、このオフに球団から支配下登録の話がなければ、規定により自由契約となる。
「先のことはどうなるかわかりませんし、考えても仕方がない。とにかく今は、今を大切にしたい。自分ができることを、しっかりやっていきたいと思っています」

 この9月に終了したNHKの朝ドラ「花子とアン」では、小説『赤毛のアン』の次の一節が繰り返し引用されていた。
<曲がり角の先に何があるかわからない。でも、きっと一番良いものに違いない>
 関西独立リーグ、アイランドリーグと2つの独立リーグを経て、NPBでも支配下登録、戦力外、テスト入団と、左腕の野球人生にはいくつもの曲がり角があった。果たして、この先、訪れる曲がり角では“一番良いもの”が待っているのか。

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 岸投手の直筆サインボールを抽選で2名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の冒頭に「岸敬祐選手のサインボール希望」と明記の上、住所、氏名、連絡先(電話番号)、記事への感想をお書き添えの上、送信してください。当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締め切りは10月13日までです。たくさんのご応募お待ちしております。

(石田洋之)