夏の移籍市場で日本の若手Jリーガーが次々と欧州へ渡っている。

 

 東京五輪世代で括れば、久保建英(レアル・マドリード)を筆頭に安部裕葵(バルセロナ)、前田大然(マリティモ)、中村敬斗(トゥエンテ)、菅原由勢(AZ)、食野亮太郎(マンチェスター・シティ)ら予想以上の多さだ。横浜F・マリノスでプレーする三好康児のベルギー移籍も「秒読み」だと報じられている。A代表のみならず、五輪世代まで海外組主流の時代が到来したということだろうか。

 

 欧州からの熱視線が意味するものは何か。

「日本人選手はフィジカルコンタクトに弱い」とずっと言われてきた。日本代表を率いたヴァイッド・ハリルホジッチ監督も決闘を意味する「デュエル」というフレーズを多用し、選手たちにプレーの激しさを求めたことは記憶に新しい。確かに世界基準と比べれば体格は小さいし、パワーも劣る。コンタクトが多くなる球技となれば、それはマイナス要素として見られてきた。だがもはやウィークポイントではなくなってきている。

 

 各世代の代表の活躍や、欧州でプレーすることが「日常」となって、日本人選手への見方も随分と変わってきたという印象を受ける。東京五輪世代中心で臨んだコパ・アメリカを見ても、球際ではパワーで劣っている分を「あきらめず、しつこく」を繰り返して走力、タフネスで対抗しようとしていた。

 

 うまいだけが日本人選手のイメージではなくなっている。東京五輪世代の彼らはティーンエイジのころからスピード&パワーの世界の潮流にアジャストできるようフィジカルトレーニングにも目を向けてきた。必然の流れとも言えるのかもしれない。

 

 ウィークポイントをストロングポイントに変える。

 好例がラグビー日本代表だろう。2015年のワールドカップイングランド大会では優勝候補の南アフリカを撃破して世界に衝撃を走らせた。長年、日本の「ウィーク」であったはずのスクラムが「ストロング」になったと証明された瞬間でもあった。

 

 当時、日本のフィジカルを担当した新田博昭ストレングス&コンディショニングコーチ(現在はフィジー代表コーチ)に話を聞く機会があった。とても印象深い言葉があった。

 

「日本人は元々重心が低くて、組み合いに対しても強いはずなんです。強化していけば、スクラムはもっと強くなっていくと思います。走力だって、日本人の能力は高い。日本のラグビーは世界と比べると歴史がまだまだ浅い。日本人の特性を伸ばしていくことができればいずれフィジカルが弱いとは見られなくなるのではないでしょうか」

 

 弱いというのは固定観念に過ぎず、道筋をつけてあげればいい。日本人選手は真面目で熱心という特性もトレーニングではプラスに働く。

 

 ラグビー日本代表は大会前までハードトレーニングを継続し、オーバートレーニングにならないギリギリのアプローチが実を結んだ。

 

 日本サッカー界もフィジカル、体幹などトレーニングの流儀やバリエーションが増え、選手たちの知識も広がっている。

 

 自分に合う理論、パーソナルコーチを見つけ、フィジカル能力を高めていくこの流れはこれからの時代も加速していくに違いない。

 

 パワーとスピード、その両方にまだまだ伸びしろがあるように感じる。

 

 プロボクシングでは7月にミドル級の村田諒太が、王者ロブ・ブラントに2回TKO勝ちを収めてリベンジを果たしている。まさにフィジカルの部分でも村田がブラントを凌駕したと言える。

 

 彼のフィジカルトレーニングを担当する中村正彦ストレングス&コンディショニングコーチはこう語っていた。

「筋肉がつくと硬くなる、重くなる、スピードがなくなるというイメージを持っている方が少なくないと思います。たとえばボクシングの山中慎介さんは筋力を上げても、同じバンタム級でずっと戦いました。硬くも、重くもなっていないし、スピードもなくなっていません。村田選手もそうです。つまりはトレーニングのやり方次第と言えます」

 

 これはきっとサッカーにも置き換えられるはず。

 トレーニングにおける情報社会が、パフォーマンスを向上させる。

 

 日本人選手はコンタクトが弱い。

 近い将来、そんなことを言う人がいなくなるかもしれない。


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