タイ代表の新監督に日本代表前監督の西野朗氏が就任した。昨年のロシアワールドカップでベスト16に導いた手腕が高く評価され、言わば三顧の礼をもって迎えられたかたちだ。U-23監督も兼任する。

 

 西野監督の新しいチャレンジを歓迎したい。

 

 海外に移籍する選手が増加する一方で、指導者の「海外挑戦」は比例していない。シンガポール代表の吉田達磨監督、ベトナム1部ホーチミン・シティの三浦俊也監督らJリーグでお馴染みの指揮官が海外に飛び出してはいるものの、その絶対数は少ない。

 

 アジアのサッカー界を見渡せば、指導者をサッカー先進国の欧州や南米に頼らず、アジアに目を向けるところが出てきている。

 

 たとえば昨年、横浜F・マリノスはオーストラリア代表を指揮したオーストラリア国籍のアンジェ・ポステコグルー監督を招聘した。攻撃サッカーを定着させ、今季は優勝争いに加わっている。ポステコグルー監督はギリシャのクラブチームでも指導実績があるとはいえ、「アジアTOアジア」の動きと捉えていいだろう。また、サガン鳥栖、セレッソ大阪で指揮を執った韓国国籍のユン・ジョンファン監督は韓国1部の蔚山現代、タイ1部のムアントン・ユナイテッドとアジアを渡り歩いている。日本サッカーの発展、実績を考えればもっと「日本人指導者」がアジアで広がりを見せてもおかしくはない。

 

 海外のクラブチームの監督に挑戦したのが日本代表を2度率いた岡田武史氏である。2012、13年の2年間、中国スーパーリーグの杭州緑城(現・浙江緑城)を指揮した。若手を鍛えてチームの土台を確かなものにしたことで評価を受けた。

 

 就任当初、選手一人ひとりと面談してプロサッカー選手の心得を説いていた姿は新鮮に映った。これだけキャリアのある監督が、根気強く「プロとは何か」を伝えているのだ。

 

「プロ選手として自立させるには“これ、やれよ”と押さえつけるほうが手っ取り早い。でもそれだと上のレベルには絶対にいけない。時間はかかるけど、ちょっとずつ変えていくしかない。たとえミニゲームだろうが勝負にこだわってベストを尽くしたのか、絶えず彼らに問いかけていかないといけない。ただね、日本だって(選手の自立に)すごい時間がかかったんですよ。Jリーグができてジーコがスイッチをポンと入れたわけだけど、そこまでに土台をつくってくれた人たちがいっぱいいたんだから」

 

 日本サッカーは、長年アジアの中で勝ち切れない時代が続いた。Jリーグが誕生して初めてワールドカップ出場を勝ち取り、現在まで6大会連続で出場権を勝ち取っている。そのうち3大会でグループリーグを突破しており、日本サッカーをお手本にしたいと思っている国、クラブはきっと少なくない。とはいえ岡田監督以降、日本人指導者に関心が高まっているとは思えない。

 

 やはり結果が一番だろう。

 

 西野監督率いるタイ代表が結果を出していけば、日本人指導者に対する関心も高まる。また、ACL(アジアチャンピオンズリーグ)で鹿島アントラーズが2大会連続で、もしくは浦和レッズが2大会ぶりに優勝すれば、AFC(アジアサッカー連盟)に属するチームから大岩剛監督や大槻毅監督にオファーが届くこともあるかもしれない。資金力のある中国や中東のリーグから、声が掛かるような時代になっていかなければならない。

 

 いずれはアジアから欧州へ。

 

 元日本代表の藤田俊哉のように欧州のクラブでコーチを務めながら実績を重ねていくやり方もある。日本のS級ライセンスが欧州のトップライセンスと同等に扱われるような働きかけも必要になってくるだろう。それにはやはり、日本のみならずアジアでの実績を上げていかなければならない。

 

 監督も海を渡れ――。

 

 岡田監督、西野監督が土台をつくり、その後に続こうとする日本人指導者が増えることを期待したい。


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