第430回 勝負の2年目を迎える渡邊雄太は活躍できるのか ~メンフィス・グリズリーズの戦力を分析~

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(写真:去年はグリズリーズで背番号12だったが、今季は新人モラントに12を譲り、18をつけることになった)

 八村塁がワシントン・ウィザーズから今年度のドラフト1巡目全体9位で指名されたことがきっかけになり、今季のNBAには日本から熱い視線が注がれそうだ。当然、八村の動向に大きな注目が集まっているが、メンフィス・グリズリーズの2ウェイプレイヤー(※注)として2年目を迎える渡邊雄太にとっても、2019-20シーズンが極めて重要なシーズンになることは間違いない。

 

※注・基本はGリーグの所属であり、1シーズンに45日間だけNBAでロースター登録が許されるという契約

 

 今夏の渡邊はソルトレイクシティ、ラスベガスで開催されたサマーリーグの4試合で、平均14.8得点、7.3リバウンド、1.5アシストという好成績をマーク。多くのチーム関係者が見守る前で、まずは好スタートを切ったと言って良い。

 

 この渡邊が所属するグリズリーズは、この半年の間に長年の看板選手だったマイク・コンリー・ジュニア、マルク・ガソルを揃って放出した。今オフにはフロント、ヘッドコーチも変わり、完全に新体制での再出発を目論む。

 

 今後、去年のドラフト1巡目全体4位指名選手のジャレン・ジャクソン、今年のドラフト1巡目全体2位選手のジャ・モラントという2人を軸に据えたチーム作りが始まる。周囲に同じく新人のブランドン・クラーク、フェニックス・サンズから2017年のドラフト全体4位で指名されたジョシュ・ジャクソン・ジュニア、ディロン・ブルックス、ブルーノ・カボクロ、タイアス・ジョーンズといった若手タレントが散りばめられることになりそうだ。正直、今季のプレーオフ進出はまずありえないが、長い目での楽しみがあるフレッシュなロースターと言える。

 

 日本のファンにとって気になるのは、このチームの中で渡邊がどんな役割を受け持つのかというところだろう。再建チームで実力を誇示し、2ウェイ契約の2年目にして念願の本契約獲得はなるのか。

 

 

グリズリーズの予想布陣(Depth Chart)

 

PG ジャ・モラント、タイアス・ジョーンズ、デアンソニー・メルトン

SG ディロン・ブルックス、グレイソン・アレン、ジョン・コンチャー(2ウェイ プレイヤー)、マルコ・グドゥリッチ

SF カイル・アンダーソン、ブルーノ・カボクロ、ジョシュ・ジャクソン、ソロモン・ヒル、アンドレ・イグダーラ

PF ジャレン・ジャクソン・ジュニア、ジェイ・クラウダー、ブランドン・クラーク、渡邊雄太(2ウェイ プレイヤー)

C ジョナス・バランチュナス、マイルス・プラムリー、イバン・ラブ、ドワイト・ハワード

 

 

 フィジカルとシュート力アップがカギ

 

(写真:しばらくはGリーグのハッスルでプレーする機会も多いはずだ)

 先に結論を述べると、10月から始まるトレーニングキャンプ、その後のプレシーズン戦(オープン戦)でどれだけ活躍しようと、10月23日の開幕戦までに渡邊が本契約を結ぶことはまず考え難い。

 

 上記の予想布陣を見ればわかる通り、現在のグリズリーズのロースターは飽和状態。ドワイト・ハワード、アンドレ・イグダーラといったベテランはトレードか契約バイアウトでチームを去る可能性が高いが、それでもまだ人数はオーバーしている。シーズン登録選手の上限である15人まで数を減らさなければいけない状況で、2ウェイ契約選手の渡邊のためにさらに余計に枠を空けることはないだろう。少なくとも今季前半戦では、昨季同様、渡邊はグリズリーズとGリーグのメンフィス・ハッスルを往復することになるはずだ。

 

 去年はチーム内で故障者続出したため、渡邊は開幕5戦目(2018年10月27日のサンズ戦)で早くもNBAデビューを果たした。今季はクラウダー、カボクロといった役割的にもかぶりがある選手が健康を保った場合、NBA登場が遅れる可能性も十分。しばらくはハッスルで力を蓄えておかなければならないかもしれない。

 

 しかし、長いシーズンではケガ人は必ず出るもの。特に今夏のサマーリーグでの渡邊のプレーは自信に満ち溢れたもので、多くのメディア、関係者を感心させていた。だとすれば、その力を誇示するべき機会はいずれ訪れるはずだ。

 

 晴れてチャンスを得られたその時、渡邊にとって何がポイントになるのか。まずこれまで課題として挙げられてきたフィジカルのパワーアップは必須。そして何より、3ポイントシュートの精度向上をアピールできれば大きい。

 

(写真:今では渡邊は日本の多くのバスケットボール選手から目標にされる存在になった)

 特に現時点でのグリズリーズのロースターを見渡すと、シューターは豊富とは言えない。ブルックス、クラウダー、ジャクソン、カボクロは実績があるが、ブルックス、クラウダーが先発した場合、控えのシュート力は厳しくなる。サマーリーグで活躍したクラークもロングジャンパーで知られた選手ではなく、好シューターと喧伝されるグドゥリッチもNBAへの適応は未知数だ。

 

 この状況は渡邊にとってもチャンスになる。プレー時間の限られた昨季はNBAではなかなか決められなかったが、渡邊はもともとシュートには自信を持っている。大学4年生時の3P成功率は36.4%。今夏のサマーリーグでも3P成功率は36.3%(4/11)とまずまずで、今後、その数字を上のレベルでも保てるかどうかが最大の焦点となるのだろう。

 

 カレッジ時代も1年ごとに成績を向上させた渡邊は、確実な成長を可能にする我慢強さと適応能力の持ち主。今季も辛抱して臨めば、NBAでもブレイクスルーのチャンスは確実に巡ってくる。それを活かせるだけのタフネス、そしてシュート力を身につけるべく、NBAキャリアを左右するほど重要なシーズンが間もなく始まろうとしている。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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