80年を超えるプロ野球の歴史で、完全試合は15回しか記録されていない。最後の達成者は元巨人の槙原寛己。1994年5月18日、福岡ドームでの広島戦だ。21世紀に入ってからは1回もない。

 

 統計的に言えば、完全試合は5年から6年に1度の割合で達成される。もうそろそろという気もするが、投手分業制が確立された今、大記録の難易度は以前よりも、さらに高まっているように思われる。

 

 完全試合の歴史を調べていて、不思議な偶然に気がついた。15回のうち2回が8月21日に達成されているのである。

 

 最初は1957年、62年前の今日、中日球場で中日相手に国鉄の金田正一が達成した。ちなみに15人の達成者のうち、左腕は金田ただひとり。通算400勝の179勝目だった。

 

 次は1971年、48年前の今日、東映の高橋善正が西鉄相手に達成している。舞台は後楽園球場。奪三振1、内野ゴロ15という数字がシュートを武器に「打たせて取る」ピッチングを身上としていた高橋らしい。

 

「欲なんて何もない。2年前に腰を痛め、プロ野球をやめてプロゴルファーになろうと思っていたんだから……」。そう前置きして、高橋は淡々と振り返った。数年前のことである。「あの時の東映はセカンドが大下剛史でショートが大橋穣。彼らは東都リーグ時代から一緒にやっていた仲間だから、1回から“善正、完全試合だぞ!”なんて無責任なことを言う。もちろん僕も含めて、誰もそんなことは真剣に考えていなかったよ」

 

 大記録を意識し始めたのは8回に入ってからだ。

 

「急にまわりが、ザワザワしだしたんだ。“善正、完全試合だぞ!”と冗談半分で言っていた連中も、急に何も言わなくなった。“なんだ、オマエらの方が緊張しているんじゃないか”ってさ」

 

 27人目のバッターは和田博実。キャッチャー種茂雅之のサインはスライダー。首を振って得意のシンカーで勝負したのは「悔いを残したくなかったから」。打球はレフトへ。86球目をグラブにおさめた張本勲が「あっぱれ!」と言ったかどうか定かではないが、その場で胴上げが始まったという。

 

 追記。偶然は重なるもので中山律子が女子プロボウラー初のパーフェクトゲームを達成したのも49年前の今日なのである。球技にとって8月21日は縁起のいい日なのかもしれない。いや、やられた方にとっては「仏滅」か…。

 

<この原稿は19年8月21日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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