夏休み期間中、全国各地の球場は家族連れなど多くの観客でにぎわいを見せました。NPB発表のセ・パ公式戦入場者数データによれば、8月25日までの708試合で入場者数は2179万2101人。1試合平均3万780人が球場に足を運んでいます。このままのペースで行けば、前年の2555万719人を上回ることは確実です。

 

 さて、球場には老若男女、様々な年齢層の観客が訪れます。スポーツ観戦には観戦者にさまざまな刺激を与えると考えられていますが、その健康効果についてこれまで確かな実験結果はありませんでした。2016年から早稲田大学・スポーツ科学学術院(樋口満名誉教授)が埼玉西武の協力の下、次のような実験を行いました。題して「スタジアムにおけるプロ野球観戦が高齢者のアクティブ・エイジングにどう貢献するか?」。実験は2016年3月に始まり、19年7月29日に西武と早大から研究結果が発表されました。結論から先に言えば、プロ野球観戦は高齢者の健康に良い効果があると科学的に証明できた、としています。実験は「1回のプロ野球観戦の効果」と「定期的なプロ野球観戦の効果」の2種類が行われました。詳細は以下の通りです。

 

 1回のプロ野球観戦実験は、年齢65歳以上の16人(男性8人、女性8人)を研究対象とし、メットライフドームで行われた16年オープン戦を1戦観戦。なお研究対象者は「過去3年以内に3回以上競技会場でのスポーツ観戦経験のない人」が選ばれています。

 

 結果は、プロ野球観戦直前は平常時よりも安静状態を示す感情(ゆったりした平穏な感情)が高まり、観戦直後には、主観的幸福感が平常時よりも高まりました。研究チームでは「特定のチームを応援する目的がなくても、高齢者が野球場でプロ野球を観戦する場合、観戦前は平常時よりもリラックス感が高まり、観戦後には主観的幸福感が高まることが確認され、高齢者によい感情の変化がみられることが明らかになった」としています。

 

 定期的な観戦の効果実験は、65歳以上の58人(男性32人、女性26人)を研究対象とし、こちらは「観戦群29人」と「対照群29人」の2グループにランダムに分け、約2カ月間の実験を行いました。観戦群は期間中に自由に球場で観戦し、対照群は期間中、プロ野球観戦を禁じられました。結果は以下のようなものでした。

 

 プロ野球を観戦しなかった対照群と比較すると、プロ野球を観戦した観戦群の人たちは2カ月間のプロ野球観戦後に認知機能や抑うつ症状が改善することが確認されました。研究チームでは、「特定のチームを応援する目的がなくても、高齢者が定期的に球場でプロ野球を観戦することによって、認知機能や抑うつ症状が改善することが確認された」としています。

 

(写真:実証実験を行った早稲田大学・樋口満名誉教授。©埼玉西武ライオンズ)

 この実験結果を受けて、早大スポーツ科学学術院・樋口満名誉教授はこう述べています。
「高齢になると、知らず知らずのうちに体力が衰え、外出しようという意欲が低くなり、出不精になってしまい、心身ともに不健康になりがちです。プロ野球などスポーツはテレビで見るものと思っていた方々でも、せっかく、プロ野球のゲームが行われているのですから、ぜひ生のスポーツを直に観戦してほしいと思います。スポーツはテレビで見るのと、生で直に見るのとでは大違いで、生のスポーツ観戦は、楽しくて、からだも心もリフレッシュできるはずです。今回、高齢者の方々にとって、スポーツ観戦の健康効果を初めて実証したという点で画期的だと思います。今回の研究成果を踏まえ、今後、このような取り組みが積極的に推進されることを、切に願っています」

 

 さて今年9月16日の敬老の日には、以下のプロ野球6カードが開催されます。親孝行、祖父母孝行のために三世代観戦も一興です。

 

◎19年9月16日(祝)のプロ野球
埼玉西武vs千葉ロッテ(13:00 メットライフ)
オリックスvs東北楽天(13:00 京セラD大阪)
北海道日本ハムvs福岡ソフトバンク(14:00 旭川)
巨人vs阪神(14:00 東京ドーム)
中日vs横浜DeNA(14:00 ナゴヤドーム)
広島vs東京ヤクルト(14:00 マツダ)

 

(文・まとめ/SC編集部西崎)


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