8月も終わりを迎えたものの、まだまだ残暑は続きそうです。9月に入るとJリーグは優勝争いに残留争いと、より熱を帯びてきます。また、日本代表のカレンダーに目をうつすとカタールW杯のアジア二次予選が始まりますね。まずはJリーグのトピックスから話していきましょう。

 

 23日、サガン鳥栖対ヴィッセル神戸の一戦で鳥栖所属のFWフェルナンド・トーレスが現役を退きました。鳥栖のホームスタジアムには2万3055人が詰めかけました。約1年半と在籍期間は短いながら、この大観衆は彼がチームやサポーターを大切にしていたからこその数でしょうね。

 

 結果は1-6と鳥栖は大敗を喫しました。チームメイトからすると勝利で送り出せずに悔しかったことでしょう。トーレス自身も2度の決定機を生かすことはできませんでした。しかし、動き、判断を見ていると“点の取れるFWの動きだな”と感じました。ボールを受け、シンプルに周囲の選手に預け、自分はランニングでボックス内に侵入する。判断を早くし、次への動作も早める。これは日本人FWもぜひ、真似してもらいたいものだなと感じました。非常にシンプルですが、効率の良い動きです。

 

 トーレスはアドバイザーとして鳥栖に残ります。引退発表時に当コラムで触れましたが、良い効果が出ると思います。トーレスはクラブにもサポーターにもリスペクトの気持ちを持って接しています。“サポーターに対して自分は何ができるのだろう、チームに対しては何ができるのだろう”と考えながら行動してくれるはず。鳥栖というクラブをぜひ、今後も盛り上げて欲しいものです。

 

 大分は中位で踏みとどまる

 

 J1は残り10節となりました。上位陣、下位陣ともに少し動きがありますね。川崎フロンターレはこれまで夏場以降に力を発揮し、Jリーグを連覇しましたが、直近のリーグ5戦で3分け2敗と勝ちきれず順位を4位(勝ち点41)に落としています。ここ数年、川崎Fは攻撃的でパス主体のスタイルを貫いています。それに他クラブがしっかりと対策を講じていると感じます。

 

 川崎Fが攻撃に転じる瞬間、出鼻を挫くようにプレスをかけています。川崎FのDF陣の枚数が揃わないうちに、またはきちんとしたポジショニングを取る前に対戦相手は攻め切ってしまおうと迫力を持って向かってきます。秋以降、ここをどう修正するか見物ですね。

 

 開幕当初は旋風を巻き起こしていた大分トリニータは現在、8位。夏を過ぎ、涼しくなる時期にもう一度、クラブ全体で細かい点を修正できれば「目標の残留」どころか中位でリーグをフィニッシュできると予想します。

 

 厳しいのはジュビロ磐田でしょうか……。名波浩氏が監督を辞任し、ヘッドコーチの鈴木秀人氏が監督に昇格しましたが、約1カ月半で契約解除。そして現在、スペイン人のフェルナンド・フベロ監督が指揮を執っています。これだけ短い期間に監督がころころと代わっては選手も困惑するでしょうが、奮起に期待したいです。

 

 活発だった夏の移籍市場

 

 この夏は移籍市場も活発でした。クラブの強化や競争意識を持たせるためにも素晴らしいことだと思います。鹿島アントラーズは名古屋グランパスからFW相馬勇紀をレンタルで、J2柏レイソルからMF小泉慶を完全移籍で、そして来年、法政大学から加入予定だったFW上田綺世を1年前倒しで入団させました。上田、相馬はデビュー後、それぞれ決勝点を挙げました。小泉も右サイドバックとして、果敢にオーバーラップし、相馬の得点に貢献しています。鹿島はACLを制覇し、海外からの注目度は高くなっています。“ここで活躍すれば、オレたちも海外に行ける”。または“代表に入れる”と3人は高い意識を持って加入してきました。これは非常に良いスパイラルに入りましたね。クラブOBとして嬉しい限りです。

 

 その他、ガンバ大阪のMF今野泰幸が磐田に完全移籍を果たしました。彼はジュビロ立て直しのキーマンでしょう。クラブから求められるものが多そうです。加入直後には早速、セットプレーから得点を挙げました。経験を生かし、磐田復活に貢献してもらいたいです。

 

 また、大分で8得点をマークしていたFW藤本憲明がヴィッセル神戸に移りました。活躍、努力が評価され、報酬もそれに見合うのであればプロとして当然の判断だと思います。それにFWからするとMFアンドレス・イニエスタの存在は魅力的なんでしょう。更なる彼の活躍にも注目です。

 

 さて、9月はカタールW杯アジア二次予選がスタートします。日本代表は9月5日にカシマスタジアムでパラグアイ代表と親善試合を行い、10日に初戦のミャンマー代表戦を迎えます。海外組には新たにクラブを移った選手もいます。さらに海外リーグは開幕したばかり。所属クラブでレギュラー獲得に専念することも選択肢のひとつのように思います。

 

 僕はこのタイミングで招集された国内組に期待したい。パラグアイの身体能力やスピードを体感し、さらなる成長につなげてもらいたい。そして、代表選でインパクトを残せれば、今後のレギュラー争いにもくらいついていけます。9月の代表ウィークは国内組の活躍に注目です。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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