第682回 5死球「警告試合」名人たちの死球論
いくら何でも1試合に5死球は多過ぎる。ぶつけられた方は怒るに決まっている。
8月13日、メットライフドームでの埼玉西武対オリックス戦は大荒れとなった。
オリックスの選手が4回、西武の選手が1回、相手投手からぶつけられたのだ。
死球が原因で乱闘まで発生し、オリックスの佐竹学コーチが退場になった。警告試合下で死球を与えたことにより、オリックスの投手・田嶋大樹と西武の平良海馬にも退場処分が科された。
ちなみに1試合で3人が退場になったのは、プロ野球ワーストタイだった。
当事者の声を拾ってみた。「ド突いたのは申し訳ない。あれだけ当てられている。選手を守らないといけない」(佐竹コーチ)
「後味が悪い。(1試合で)4つも当ててプロとして恥ずかしいし、申し訳ない。気分が悪い。投手陣に強く言っておく」(西武・辻発彦監督)
「ずっとそうだけど、ちょっと当てられ過ぎ。4つはないでしょう」(オリックス・西村徳文監督)
5死球、乱闘、警告試合。大荒れの試合を確認するため、ビデオのスイッチを入れた。
すると、どうだ。5死球の中でも、ぶつけられたバッターが本当に痛そうな顔をしていたのはひとつだけで、あとはかすったり、コツンと当たったりというのがほとんどだった。
乱闘のきっかけをつくった森脇亮介が若月健矢に与えた死球は、満塁からの押し出しである。これで3点差になった。痛かったのはむしろ森脇の方だったのではないか。故意でないことは明白。足りないのは技術だった。
インコースは投手にとって生命線である。厳しいところを突かないと、打者はどんどん踏み込んでくる。踏み込まれるか、腰を引かせるか――。18.44メートルの攻防は、この1点によって雌雄が決せられる。
「投手は、もっとインコースを攻めるべきだよ」
こう語ったのは通算ホームラン868本の王貞治だ。
「言葉は悪いかもしれないけど“デッドボールも野球のうち”なんだ。だから、(バッターに)当てたからといって、ピッチャーを悪く言う必要はない。それにバッターも、インコースへの厳しい攻めを、もっと覚悟しなくちゃいけない。プロなんだからね」
鉄人・衣笠祥雄も、王と同意見だった。
「ピッチャーにも生活がある。どんどんインコースを攻めればいいんだよ」
そして、こう結んだ。
「ただし頭だけはダメだぜ!」
<この原稿は2019年9月13日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>