(写真:優勝トロフィーのウェブ・エリスカップ)

 9月20日、いよいよラグビーW杯日本大会が開幕する。アジア初開催となった今大会の主役候補にはニュージーランド代表、南アフリカ代表、オーストラリア代表、イングランド代表といった優勝経験国を挙げたい。ホスト国の日本代表は前回惜しくも届かなかった初のベスト8を目指す。

 

 優勝候補の筆頭はやはり3連覇がかかる王国ニュージーランドだ。約10年ぶりに世界ランキング1位から陥落したが、最多3度の優勝を誇り、過去8大会で5回も表彰台に上がった実績は文句なしである。イギリスの大手ブックメーカー「ウィリアムヒル」が付けた優勝オッズは1番人気の2.25倍だ。

 

 全員がバックスに見えたことで「オールバックス」の誤植から、愛称の「オールブラックス」が生まれたと言われるほど総合力の高いチームである。前回の優勝メンバーからキャプテンでFLリッチー・マコウ、SOダン・カーターというスター選手が抜けたが、今なおタレント軍団は健在だ。

 

 その代表格が司令塔のボーデン・バレット。ワールドラグビー(WR)の年間最優秀選手賞に2度輝いた男はキック、パス、ランを高水準で備える。まさにオールブラックスを象徴的する選手の1人だ。FBでの起用もあり、クルセイダーズのスーパーラグビー3連覇に貢献した司令塔リッチー・モウンガとの併用も可能だ。万能型SOは、今大会を彩るスター候補に挙げられている。

 

 バレットとハーフ団を構成するSHアーロン・スミスは、世界最高の9番と呼び声もある。キャップ数は87。正確で鋭いパス、キックを含めたゲームメイクは卓越している。またフォロースルーが美しく、パスの一連の動作が画になる選手だ。スーパーラグビーのハイランダーズではジャパンのSH田中史朗とチームメイトだったこともある。

 

 オールブラックスの多彩な攻撃は、この2人を中心に展開される。バレットとスミスが織り成すゲームメイクには一見の価値ありだ。フィニッシャー役はWTBリーコ・イオアネが務める。2016年リオデジャネイロオリンピックで7人制のニュージーランド代表に選ばれた。大会後、イオアネは15人制での代表デビューを果たすとトライを量産。26キャップで23トライを記録し、22歳の若きトライゲッターはオールブラックスの得点源となっている。

 

 初戦はいきなりライバル南アフリカと激突する。7月のザ・ラグビー・チャンピオンシップでは終了間際に追いつかれ16-16のドロー。同大会の4連覇を阻まれた。プールBの1位争いを占う一戦となりそうだ。

 

 ストップ・ザ・オールブラックスの1番手は、スプリングボクスこと南アフリカだろう。W杯の優勝回数はニュージーランドに次ぎ、オーストラリアと並ぶ2回。ザ・ラグビー・チャンピオンシップを10年ぶりに制し、日本に乗り込んできた。

 

 世界最高のHOマルコム・マークスらを擁する重戦車FWが武器だが、6日のジャパンとのテストマッチで見せたようにキックを多用する戦術など戦い方の幅は広がっている。

 

 キックでゲームメイクするファフ・デクラークと、突破力のあるハーシェル・ヤンチースというSHの使い分けにも注目。スプリングボクスの圧力に負け、相手にペナルティーがかさめばSOハンドレ・ポラードの出番だ。正確無比のプレースキッカーがいることも強みだ。オールブラックスと並ぶ3度目の戴冠に挑む。

 

 世界ランキング6位と優勝経験国・地域では最下位のワラビーズことオーストラリア。前回大会の準優勝国は近年勝ち星に恵まれず苦しんでいるが、W杯での実績十分なだけに侮れない。

 

 ワラビーズは日本で活躍したFL/No.8ジョージ・スミスに代表されるようにジャッカルの名手が揃う。FLマイケル・フーパー、FLデビッド・ポーコックという名うてのボールハンターを擁し、ブレイクダウン(ボール争奪戦)を制すれば3度目の優勝も見えてくるはずだ。

 

 前回大会はジャパンの指揮を執ったエディー・ジョーンズHCはラグビーの母国を率い、日本のファンにその雄姿を見せる。SOオーウェン・ファレル、LOマロ・イトジェといったタレントも多い。4年前は“ブライトンの奇蹟”を演出した策士が、勝手知ったる日本でのW杯でどんな作戦を講じるかにも注目が集まる。チームとしては自国開催ながら1次リーグ敗退となった前回大会の雪辱に燃える。

 

(写真:ジョセフHC<中央>も警戒するロシア戦が重要な一戦となる)

「歴代最強」とキャプテンのFLリーチ・マイケルが豪語するジャパンは、初のベスト8進出を目指す。そのためにはロシア、アイルランド、サモア、スコットランドと同居したプールAで2位以内に入らなければいけない。

 

 決勝トーナメント進出へ、最大のカギは初戦にあると見る。ロシアは世界ランキングで言えばジャパンの格下、ボーナスポイントを含めた勝ち点5を手にしたい。逆に白星を奪えないようならベスト8など絵空事である。

 

 ロシアは重量級FWを擁し、パワーで押してくることが予想される。昨年11月のテストマッチではその圧力に屈し、前半リードを許した。後半にひっくり返し、逆転勝ちを収めたものの、ジェイミー・ジョセフHCも警戒を緩めない。

 

 指揮官がスタメンSHに流大を指名したのはテンポの速いパス出しでロシアを消耗させたい狙いがあるのだろう。後半途中からはゲームを読む力に長けるベテランの田中を送り出し、一気に畳み掛けたい。

 

 パワー勝負でもロシアに対抗する。特にジャパンがこだわってきたスクラムでは優位に立ちたい。体格では劣るが、長谷川慎コーチと取り組んできた8人の力を結束させるスクラムで、大男たちとの押し合いに挑む。この試合で“ジャパンのスクラムは強い”と印象付けることが大事である。

 

 中7日で迎えるアイルランドとは厳しい戦いになりそうだ。世界ランキング1位で迎えるアイルランドを優勝候補に推す声も少なくない。アイルランド撃破のポイントは昨年のWR年間最優秀選手賞のSOジョナサン・セクストンをいかに封じるかだ。

 

(写真:スクラムの中心となるPR稲垣。チームのキーマンとなる)

 まずは司令塔にプレッシャーを掛け続け、仕事をさせないこと。攻撃のリズムを止めたい。加えてマイボールのスクラムとラインアウトを確実に成功させる必要がある。アイルランドはHOローリー・ベストを中心としたセットプレーに強く、そこから攻め込まれると劣勢は免れない。

 

 アイルランド対策というタスクを遂行しつつ、ミスなく80分を終えられるか。ハンドリングエラー、不用意なペナルティーも要注意だ。100%あるいは120%の力を発揮すれば、勝利は見えてくる。

 

 第3戦のサモア、第4戦のスコットランドはいずれも前回W杯で対戦している。4年前に勝利したサモアは個人技に長け、爆発力にあるアタックが脅威。だがサモアは組織力や規律に難があると言われる。普段は海外でプレーし、集まることが少ないからだ。序盤から畳み掛け、集中力を切らしたい。

 

 一方、イングランドで唯一敗れたスコットランドとは戦わずして決勝トーナメント進出を決めておきたいが、この一戦が大一番になる可能性は高い。SHグレイグ・レイドロー、SOフィン・ラッセル、FBスチュアート・ホッグが繰り出すアタックは破壊力十分。まずはこのセンターラインを分断したい。あとはアイルランド戦同様にミスなく80分プレーすることがカギを握る。

 

 頂点に立ったチームだけが掲げることのできるウェブ・エリスカップ。果たして、その栄冠を手にすることができるのは? そしてホスト国ジャパンは初の決勝トーナメント進出を果たすのか。11月2日までの約1カ月半、ラグビーの熱狂が日本列島を包む。

 

(文・写真/杉浦泰介)