20日に開幕したラグビーW杯日本大会。初のベスト8進出に向け、ジャパンが好スタートを切った。立役者はウイングの松島幸太朗だ。初戦、彼のハットトリックの活躍もあり、ジャパンは30対10でロシアに逆転勝ちを収めた。またジャパンは松島のトライを含め4トライをマークし、ボーナスポイントを加えた勝ち点5を手にした。プレーヤー・オブ・ザ・マッチにも選ばれた26歳を初めてインタビューしたのは4年前。それを再掲載する。

 

<この原稿は『第三文明』2015年5月号に掲載されたものを一部再構成しています>

 

 南アでラグビーを始める

 

二宮清純: 松島さんのお父さんはジンバブエの方、お母さんは日本人です。生まれは?

松島幸太朗: 南アフリカ共和国(以降、南ア)のプレトリアです。三歳~四歳ころまでは、父の仕事の関係で日本と南アを行ったり来たりしていましたが、その後は小中高と主に日本で生活してきました。

 

二宮:ラグビーを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

松島: 小学校まではサッカーをやっていました。中学時代に一年間だけ南アに留学する機会があって、そのときに向こうの中学校の監督から、「ラグビーをやってみないか」と誘われたのがきっかけです。

 

二宮: 帰国後に進学した高校は、ラグビーの強豪校として知られる桐蔭学園。3年時には全国高校ラグビー大会(通称・花園)で優勝を果たしました。桐蔭学園にとっては初の快挙でしたね。

松島: 自分にとってはラストイヤーという思いで臨んだなかでの初優勝だったし、前年に決勝で負けた東福岡と引き分けての優勝(両校同時)だったので、とてもうれしかったですね。

 

二宮: 高校卒業後は、再び南アに渡りました。日本の大学からの誘いもあったのでは?

松島: 誘いはいくつかありましたが、上達するために海外へ行こうという気持ちは以前から固まっていたので、躊躇することはありませんでした。

 

二宮: お母さんは寂しかったでしょう。反対はされませんでしたか。

松島: 寂しさはあったかもしれませんが、自分の好きな道を進みなさいというタイプの人だったので、何も反対しませんでした。

 

二宮: ホームシックになることは?

松島: なかったですね。南アはお肉がおいしくて、食事も合っていたので(笑)。

 

 シャークス時代に学んだもの

 

二宮: 南アで所属したのがスーパーラグビー(ニュージーランド、オーストラリア、南アの3カ国、計15のクラブチームで行われる世界最高峰の国際リーグ戦※当時)のシャークスでしたね。

松島: 2年間はアカデミーに籍を置き、3年目からはジュニア契約を結びました。

 

二宮: シャークスはスーパーラグビーでは強豪ですよね。

松島: 最近の成績は芳しくありませんが、2012年のシーズンは、準優勝しています。

 

二宮: 南アはW杯でも優勝経験があります。ラグビー熱はものすごいでしょうね。

松島: スポーツのなかでは、ナンバーワンの人気ですね。ラグビーの次にサッカーとクリケットが続く感じです。

 

二宮: 対戦する選手たちは相当コンタクト(接触の度合い)が強かったでしょう? 

松島: 大柄な選手が多いですから、コンタクトはすごく強いなという印象を受けました。スピードでは勝負できましたが、当たり負けすることが多かったですね。

 

二宮: ケガはありませんでしたか。

松島: 入ってから半年で両足をケガしてしまい(肉離れ)、1シーズン目を棒に振ったんです。でも、その期間に、体を大きくするためのウエイトトレーニングに打ち込んで、肉体改造に成功しました。大きくなった体と、自信を持っていたスピードで、2年目は最優秀選手賞を獲得することができました。

 

二宮: それはすごい。高いレベルでもまれて、いちばん成長できた部分はどんなところですか。

松島: やはりフィジカル部分での学びが多かったです。体が大きい相手に対してはどう攻めればいいのかを学べました。

 

二宮: それは、ステップでのかわし方やタックルの仕方ということでしょうか。

松島: そうですね。相手に対してどのくらいの間合いがあれば避けることができるかを体で覚えることができました。たとえば、足の速い相手に対しては2メートル前から仕掛け、体のでかい相手には直前の1メートルくらいで(体を)ズラすのです。正面から行ってしまうと、体の大きさや足の速さで対抗されてしまうので、こちらが不利になります。こちらの有利なもので勝負をすることが重要です。

 

二宮: テクニックの高さやフィジカルの強さ以外で南アに学ぶべき点はありましたか。

松島: ラグビーが好きという気持ちと向上心が強いです。南アには、企業に勤務しながらラグビーをやる環境はなく、プロしかありません。ラグビーで稼ぐしかないので、どの選手も非常にハングリーです。

 

二宮: 活躍が認められ、南アではU-20代表の候補メンバーにも選出されました。

松島: はい。ただ、南ア代表として試合に出場してしまうと、その時点でほかの国の代表資格を失い、日本代表にはなれないので、悩みましたがお断りさせてもらいました。

 

二宮: 南ア代表よりも日本代表を選んだ理由は何だったのでしょう?

松島: やはり家族は基本、日本にいましたし、僕自身もずっと日本で育ってきたわけですから、そちらを望みました。

 

 日本ラグビーの良さ

 

二宮: シャークスでステップアップを続けるなか、2013年に日本に戻り、サントリーに入ります。本場の南アではなく、日本に活躍の場を求めた理由は?

松島: シャークスでの3年目が終わり契約更改を迎える時期に、エディー・ジョーンズさん(当時・日本代表ヘッドコーチ)から「日本代表としてやってみないか」と誘いを受けたことがきっかけです。

 

二宮: 松島さんに対するエディーさんの期待の大きさがわかります。

松島: 代表で戦うのに、南アと日本を行き来するのは負担が大きいと感じました。日本のトップリーグでプレーしながら、日本代表としても活動することを考えたとき、環境面で優れていたのがサントリーでした。

 

二宮: 当然、南アと日本ではラグビーのスタイルが異なります。日本のやり方にはすぐに慣れましたか。

松島: 南アはキックで陣地を取っていくスタイルが多いのですが、日本は速い動きでどこからでも展開できるという印象がありました。スピードには自信があったので、すぐに馴染めましたね。

 

二宮: トップリーグでプレーする前に日本代表に選ばれてデビューを果たしました。エディーさんからはどんなことを要求されましたか。

松島: 僕はアタックを得意としているので、「ステップやスピードを生かして、どんどん相手を抜いてくれ」と言われました。

 

二宮: 一時は世界ランキングのベストテン入りするなど(最高位は9位。取材時は11位)、エディーさんの手腕もあって日本代表も強くなってきました。日本のラグビーのよさをどう考えていますか。

松島: 精度の良さです。一人一人のプレーの精度も大切ですが、チームが精度の高い連携でいかにトライを獲れるか。ここを強く意識して練習しています。

 

二宮: 松島さんといえば、独特で巧みなステップワークが持ち味です。誰かをモデルにしたのでしょうか。

松島: 南アにはステップを切る選手がたくさんいたので、それを取り入れてオリジナルな形にした結果です。これから、もっと経験を積んで、吸収できるものは全部吸収して、バージョンアップしていきたいと思っています。

 

 世界の強豪と接戦を演じる

 

二宮: 昨年11月には、マオリ・オールブラックス(ニュージーランドの先住民族マオリ族の血を引く選手たちの代表チーム)とも対戦しましたね。国の代表ではないものの、世界ランキングの6、7位に匹敵するとも言われる強豪です。2試合とも敗れはしたものの、第2戦では18―20と大接戦でした。手ごたえはありましたか。

松島: 言い訳はしたくありませんが、第1戦(21-61)のときはみんな疲れがひどくて、コンディションはよくありませんでした。2戦目はいい感じで試合に入れて、試合終了3分前に逆転トライを許してしまいましたが、いい経験ができました。

 

二宮: 残り3分の段階では3点リードしていました。逆転された瞬間の気持ちは?

松島: 日本は選手たちが片面に寄っていて、相手の選手は揃った状態だったので、これは「やられるかも」と思いました。そのスキを逃さず、相手がクイックスローでボールを入れてきて、意表をつかれてしまい、もう「やばい」って感じでした(苦笑)。

 

二宮: 日本代表ではセンターで起用されています。抜擢されたのは昨年五月のサモア代表戦。松島さん自身もトライを決め、快勝しました(33-14)。エディーさんによると「直感」での起用だったとか。ビックリしたのでは?

松島: センターとしての練習は1日~2日しかしていなかったので、もちろん不安はありました。でも、センターになることでボールタッチも増えるので、楽しみのほうが多かったです。

 

二宮: センターの難しさはどういうところでしょう?

松島: ディフェンスですね。それまで試合に出ることが多かったウイングは守備機会が少ないのに対して、センターはいちばん難しいディフェンスも求められるポジションなので、いろいろと考えさせられました。また、体力の消耗という点でもウイングとは全然違います。

 

二宮: 松島さんはフルバックも経験されています。今いちばん得意なポジションは?

松島: センターをやるようになってからボールをもらう機会が増えたので、センターは結構好きですね。

 

 ラグビーの魅力

 

二宮: オフはどのようにすごしているのでしょうか。

松島: 基本的にはラグビーから離れます(笑)。映画を見るなど、リラックスしてすごすようにしています。

 

二宮: 聞いたところによると、南アではオフに体脂肪率が1パーセント増えると1万円の罰金だったそうですね。

松島: そうなんです(苦笑)。そういう部分でもプロですね。体調管理ができないとダメ。オフは体を動かさなくなるので、食事制限などをして体重増加しないように気をつけていました。

 

二宮: 松島さんと同世代のアスリートといえば、プロ野球では北海道日本ハム(当時)の大谷翔平選手あたりが思い浮かびます。彼はすでに年俸1億円です。ラグビーでいちばんもらっている選手は、いくらくらいでしょうか。

松島: スーパーラグビーを含めると9000万円くらいだと思います。ニュージーランドのダニエル・カーターという選手は1億数千万円もらっているそうです。

 

二宮: ラグビーでも1億円プレーヤーがいるんですね。松島さんもいずれは狙いたいでしょう(笑)。今年のW杯 (9月にイングランドで開幕)で活躍したら、また次のオファーがあるかもしれませんね。

松島: そのくらいもらえるように頑張りたいです(笑)。プロ選手としては、そういう目標もしっかりと持っていたいなと思います。

 

二宮: 松島さんが考えるラグビーのいちばんの魅力は?

松島: やはりボールを持ってラインブレイクすれば会場も盛り上がりますよね。それがトライにつながればもっと盛り上がります。

 

二宮: 最終的にパスを受けてフィニッシャーとしてトライを取るよりも、自らラインブレイクしてトライするほうがおもしろいと?

松島: 僕自身はラインブレイクをどんどんして、チームに貢献したいという思いが常にあります。

 

二宮: サントリーにおいては、同じく日本代表のツイ・ヘンドリック選手と松島さんのコンビは見ていてワクワクするものがあります。2人の間でイマジネーションが共有できているようで、連係がファンタスティックです。

松島: ありがとうございます。ツイ選手もラインブレイクする選手ですからね。そういうイメージが定着すると、相手も恐れるポイントになる。これからもどんどんやっていきたいですね。

 

 W杯で日本の中心に

 

二宮: この3月からはスーパーラグビーのワラタスに期限付き移籍でプレーすることが決まりました。オーストラリアの強豪チームですね。

松島: はい。シドニーに拠点を置く人気チームで、昨シーズンは優勝を果たしました。レギュラーには各国の代表選手がズラリと揃っています。新天地でまた新たな経験ができると思うので、どんどん吸収して今後のラグビー生活に生かしたいです。

 

二宮: そんな中でレギュラー争いを勝ち抜かなければいけませんね。

松島: まずは試合に出場することを目標に頑張りたいです。代表選手が多いということは、吸収するものもたくさんあるはずですから。今の自分にとっては、いかに成長できるかが重要ですし、経験を積んで世界に通用する力をつけたいです。

 

二宮: これからもっとスピードも出るでしょうし、体も大きくなるでしょう。

松島: そうですね。ただ、体重はあまり増やさずにやっていきたいです。

 

二宮: 松島さんのような独特のステップが切れる選手は、日本にはそうはいません。

松島: でも海外にはステップのうまい選手も多い。自分のプレースタイルに合った選手の技をどんどん取り入れたいですね。

 

二宮: スーパーラグビーが終わると、いよいよW杯です。代表に選ばれれば、松島さんにとっては初出場となりますが、自分自身のなかで、どんな目標設定をしていますか。

松島: もちろんW杯は特別な大会ですが、僕は意気込んでしまうと空回りすることがあるので(苦笑)、平常心で、いつも通りにやりたいです。そのなかで、自分が得意としているアタックをいかに通用させるかがポイントでしょう。

 

二宮: 日本は初戦、南アと当るんですよね。

松島: エディーさんも南アで指導したことがあるので相手のことはよくわかっているし、僕自身も経験してきたので、それはきっと役に立つと考えています。

 

二宮: W杯が近づくこれから、さらに日本のラグビー熱は盛り上がってくると思いますが、松島さんとしては、ファンに自分のどんなプレーを見てほしいですか。

松島: ステップとランスキル、そしてラインブレイク。そういうところを見てほしいです。

 

二宮: そして2019年は、いよいよアジア初となる日本でのW杯開催です。

松島: 日本大会は年齢的に僕らの世代が中心にならなければいけないので、それまでにいかに経験を積むかが重要になってくると思います。僕らの世代がリーダーシップを持つ覚悟を持ってやらなければならないですね。