(写真:4万人近くの観衆が集まった豊田スタジアム。ほぼ赤白に染まった Photo by Francois Nel-World Rugby via Getty Images)

 5日、ラグビーW杯日本大会が愛知・豊田スタジアムで行われ、プールAの日本代表(ジャパン)がサモア代表を38-19で下した。4トライ以上を挙げ、勝ち点5を積み上げたジャパンはプールAのトップに返り咲いた。序盤はPGで点を取り合う展開。前半27分にCTBラファエレ・ティモシーのトライでジャパンが突き放した。ジャパンは終了間際にこの試合4トライ目を挙げ、ボーナスポイントを獲得。決勝トーナメント進出に大きく前進した。

 

 勇敢な桜の戦士たちが、史上初の決勝トーナメント進出へ、また一歩近付いた。

 

 2連勝中のジャパンは1勝1敗のサモアと対戦した。どちらにとっても決勝トーナメント進出には落とせない試合だ。3日前にはアイルランド代表がロシア代表を破り、勝ち点11でプールA暫定1位に立っていた。2位は1試合消化の少ない勝ち点9のジャパン。以下、同5のスコットランド代表とサモア、同0のロシアと続く。

 

 前半2分、7分と田村がPGを決め、6点をリードした。着実に得点を重ね、試合を優位に運ぼうとする狙いが見て取れた。対するサモアも9分、15分とPGで追い付く。6-6となると、23分に田村がPGで再び突き放した。

 

 さらに1分後にはサモアFLのTJ・イオアネがレイトタックルでシンビン(10分間の一時退場)を科される。ジャパンが数的優位の状況で、初トライは生まれた。自陣でFLリーチ・マイケルがターンオーバー。WTB松島幸太郎が大きくゲインし、ゴールに迫った。最後は田村、CTB中村亮土とテンポよく繋ぎ、ラファエレにボールが渡った。

 

 今大会好パスを何度も見せているラファエレは一度パスフェイクで意識を外に向けさせると、そのスキを突き、自らがインゴールへ潜り込んだ。近くにNo.8姫野和樹、大外にはWTBレメキ・ロマノ・ラヴァがいたが、「狙っていた」とラファエレ。的確な状況判断で祖国サモアからトライを挙げた。

 

 ジャパンは田村がコンバージョンキックを成功し、16-6と10点差を付けた。前半33分、後半4分にサモアにPGを決められ、1トライ1ゴール差に迫られる。この日のジャパンはペナルティーを獲得すると積極的にショット(PGを狙う)を選択。試合後、それについてゲームキャプテンを務めたFLピーター・ラブスカフニは「勝たなければいけない。そこに集中していた」と説明した。

 

 7分のPGはゴール右に外れたが、10分に得たPGは成功した。田村は正確なキックをインプレー中でも見せた。13分、左サイドでボールを持つと、グラバーキック(グラウンダーのキックパス)を送る。ディフェンスの裏を狙ったボールは不規則に跳ね、処理したサモア選手がタッチラインを割った。

 

 敵陣深くでラインアウトを獲得。途中出場のHO堀江翔太の正確なスローイングからモールを組み、押し込んだ。FWだけでなく田村、レメキが参加し、インゴールへ迫る。最後は姫野が飛び込んだ。愛知県出身、トヨタ自動車ヴェルブリッツ所属の姫野のトライに会場は大きく沸いた。田村のコンバージョンも決まり、リードは14点に開いた。

 

 その後もアタックを仕掛けてくるサモアに対し、粘り強く守った。18分にスクラムで押し返し、19分には姫野のプレッシャーで相手のペナルティーを誘った。残り10分を切ったところでサモアに1トライ1ゴールを返されたものの、35分には3本目のトライが生まれた。

 

(写真:桜の戦士たちはリザーブ、ベンチ外を含めチーム一丸となって戦った Photo by Francois Nel-World Rugby via Getty Images)

 田村、途中出場のCTB松田力也、ラファエレ、レメキと右サイドに素早く展開。レメキが相手を引き付け、大外で待つ途中出場の福岡堅樹へパスを送った。フリーでボールを受けた俊足の福岡は、カミソリのような鋭くインゴールに侵入。さらに内側へと切り込み、トライを奪った。勝利を手繰り寄せるダメ押し点だった。

 

 残り約5分。ジャパンが目指したのは、この試合4トライ目。つまりボーナスポイントだ。4年前は“奇蹟”を起こし、過去最多の3勝を挙げながら勝ち点差で決勝トーナメントに進めなかった。その差はボーナスポイントだった。1次リーグ4戦全勝なら文句なしでの突破だが、「あった方がないよりいい。最後に違いは出てくる」(ジェイミー・ジョセフHC)ものだ。

 

 38分には敵陣左で獲得したラインアウトからほぼ全員でモールを組み、インゴールまで迫った。しかし寸前のところでペナルティーを犯し、相手ボールのスクラムとなってしまう。この時点で残り時間はあとわずか。サモアは7点差以内の敗戦でのボーナスポイント獲得を目指した。これがジャパンには幸いした。

 

 今やスクラムはジャパンの強固な武器となっている。メンバーが代わっても力を発揮できる安定感もある。42分には相手のペナルティーを誘い、マイボールスクラムにした。さらにはスクラムで押し込む。最後は途中出場の田中史朗が松島にパス。松島は鋭いステップで相手をかわし、インゴールに飛び込んだ。田村のコンバージョンキックが決まり、38-19で試合を締めた。

 

 勝ち点5を獲得し、理想的な勝利を挙げたジャパン。プールA2位のアイルランドに3差を付けた。これで3位以内が確定。2023年フランス大会の出場権も獲得した。セットプレーは非常に安定し、4本のマイボールスクラム、14本のマイボールラインアウトはすべて成功させた。

 

 ジョセフHCに鍛え抜かれた戦士たちは、豊富な運動量を誇る。サモアのNo.8ジャック・ラムが「時には15人以上と対戦している気持ちになった」と語るほど、相手を圧倒した。ジョセフHCは「1人の選手がやったことではなくチーム全体でフォーカスした結果」とチーム一丸となっての快勝を喜んだ。

 

 史上初のベスト8進出へ。「来週がどれだけ難しいかは理解している」と指揮官。中7日でスコットランドと対戦する。前回のイングランド大会では唯一敗れた相手だ。SHグレイグ・レイドロー、SOフィン・ラッセル、FBスチュワート・ホッグと優れたバックス陣を擁す強豪。彼らをこの日も高い成功率をマークしたタックルで食い止めたい。

 

(文/杉浦泰介)