第236回 ヒョードル、日本ラストファイトに想う
「私が初めて日本で試合をしたのは、もう19年も前のことになります。それ以降、日本が大好きになり、また多くのファンに支えられ闘い続けてきました。
次の試合が私にとっての日本でのラストファイトになるでしょう。あと2カ月余りの間、トレーニングに励み、できる限り良いコンディションをつくり上げるつもりです。そして私の格闘技人生の中で『最も美しい試合』を日本のファンにお見せしたい」(エミリヤーエンコ・ヒョードル)
10月9日夕刻、ホテル雅叙園東京で開かれた緊急記者会見で、12月29日(さいたまスーパーアリーナ)に、ヒョードルの日本ラストファイトが行われることが発表された。対戦相手はクイントン・“ランペイジ”・ジャクソン。これは、『RIZIN』の興行ではなく、『ベラトール』の日本初進出イベントのメインカードとなる。
「氷の皇帝」「ロシアン・ラストエンペラー」、あるいは「60億分の1の男」と称されてきたヒョードルは、2000年代半ば、PRIDEのリングで最強を誇った。アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ、ミルコ・クロコップ、セーム・シュルトらを相次いで撃破、『PRIDEヘビー級王座』のベルトを腰に巻き観る者を魅了した。
しかし、2007年に『PRIDE』は消滅。以降、ヒョードルは戦場を米国に移し活動を続けるも、2010年6月に衝撃的な敗北を喫する。カリフォルニア州サンノゼ、HPパビリオンで開かれた『ストライクフォース』でブラジル人柔術家ファブリシオ・ヴェウドゥムに、試合開始から僅か69秒で腕ひしぎ三角固めを決められてしまったのだ。
その後、アントニオ・シウバ、ダン・ヘンダーソンにも敗れて3連敗。それでも闘い続け、昨年から今年1月にかけて開かれた『ベラトール世界ヘビー級トーナメント』に参戦、決勝に駒を進めるも、ここでライアン・ベーダーに35秒KO負けを喫した。
花を持たせる気はない
「私のコンディションは決して悪くない。しかし、43歳になった。現役を終える日が近付いていることを意識している」
そう話すヒョードルは、ベラトールと新たに3試合の契約を結んだ。
ベラトール代表のスコット・コーカーは言う。
「私はエメリヤーエンコ・ヒョードルという格闘家を心から尊敬している。だからこそ、彼には最後に素晴らしい闘いの舞台を用意したいと思った。それがラスト3ファイトだ。1戦目は彼が大好きな日本で。2戦目はヨーロッパ、そして最後は故郷ロシアと舞台を準備している」
ヒョードル、引退への花道。
だがそれは、笑顔で終われるほどイージーなものではなさそうだ。
「尊敬するヒョードルと日本で闘えることは、この上なく嬉しい」
記者会見では温和な表情で、そう話していたジャクソンだが、当然の如く激しい闘志を燃やしている。
今年41歳を迎え全盛期は過ぎたとはいえ、彼は、まだまだ闘うつもりでいる。そのために、ここでヒョードルを倒し、自らのステータスを上げていきたいとの野心を抱いている。
ヒョードルに花を持たせよう。
そんなことは、微塵にも思っていない。
凄絶な打撃戦は必至だ。
両雄が、激しいパンチを出し、過激に削り合う。
もしかすると、残り2戦を待たずして、このジャクソン戦がヒョードルにとってのラストファイトになるかもしれない。
近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。
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