さる9月6日、千葉ロッテ相手に本拠地で「令和初」のノーヒッターを達成した福岡ソフトバンクの千賀滉大は周知のように育成ドラフトの出身である。

 

 

 さらに言えばキャッチャーの甲斐拓哉も育成ドラフトの出身。「育成出身バッテリー」による快挙は、プロ野球の非エリート層に希望を与えたはずである。

 

 千賀は愛知県立蒲郡高校という、本人によれば、「普通の公立高校」の出身である。もちろん、甲子園出場は一度もない。

 

 3年の夏は県大会3回戦で敗れている。「僕はレフトを守っていたのですが、あっというまに7点を取られていた」と千賀。記録を調べると、岡崎商高に1対7で敗れていた。

 

 一応、本職はピッチャーだったが、高校時代はケガに泣かされ続けた。肩の関節がはずれやすい、俗にいう“ルーズショルダー”(動揺肩)だったのだ。

 

 どういう傷病なのか。

<これは肩関節が多方向の不安定性を生じて、異常に緩くなってしまう状態のことを言います。この障害では投球動作中にバランスを崩して肩関節の部品を傷めるなど、大きな外力がかかっていない場合でも微小な外傷によって、疼きや痛み、不快感、脱力感を訴えるようになります>(医療法人・飛翔会HP)

 

 ピッチャーにとって命ともいえる肩にトラブルを抱える選手を、いくら育成ドラフトとはいえ、ソフトバンクはよく指名したものだ。

 

 担当した当時のスカウト小川一夫は、こう答えた。

 

「故障のリスクはあるものの、ルーズショルダーの選手は素晴らしいボールを投げる。なぜなら肩回りの関節が柔らかいからです。逆に言えば肩の可動域が広いということ。それが原因でボールに強いスピンをかけることができるんです」

 

 6日のロッテ戦、千賀は毎回の12奪三振を記録した。生まれつきのルーズショルダーがスピンのきいたストレートと“お化けフォーク”をもたらしたのである。欠陥と長所は背中合わせ。スカウトの眼力が問われる秋である。

 

<この原稿は2019年10月17日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

 


◎バックナンバーはこちらから