育成球団と呼ばれる広島だが、高校生投手のドラフト1位は、2009年の今村猛(清峰)が最後である。

 

 

 それ以降は10年=福井優也(早大・現東北楽天)、11年=野村祐輔(明大)、13年=大瀬良大地(九州共立大)、15年=岡田明丈(大阪商大)、16年=加藤(現・矢崎)拓也(慶大)と、すべて大学生が占めている。

 

 さる10月17日に行われたドラフト会議でも、広島は高校球界の2トップである佐々木朗希(大船渡)、奥川恭伸(星稜)との競合を避け、大学球界ナンバーワン右腕・森下暢仁(明大)の一本釣りに成功した。

 

 一本釣りの背景には、新監督への配慮もあったと言われている。

 

 当初、広島は佐々木を指名すると見られていた。それが森下に変わったのは「現場が即戦力を希望」(地元テレビ局記者)したため。現場とは言うまでもなく、佐々岡真司新監督を指す。

 

 シーズン終了後、5年間に渡ってチームを指揮し、リーグ3連覇(2016~18)を達成した緒方孝市が退任し、1軍投手コーチの佐々岡が昇格した。広島において、投手出身の監督は長谷川良平以来、53年ぶりである。

 

 佐々岡の通算成績は138勝153敗106セーブ。入団2年目の91年には17勝9敗、防御率2.44の好成績でMVP、沢村賞、最多勝、防御率1位に輝いている。先発とリリーフで18年間にわたってチームを支えた。

 

 昇格の決め手となったのが防御率だ。2018年に4.12だったチーム防御率は佐々岡が1軍投手コーチになって3.68に改善されたのだ。

 

 佐々岡への期待を、松田元オーナーは、こう語っている。

「(監督は)5年スパンで考えている。来季に向けては優勝争いをして、最低でもAクラスを確保してほしい。岡田(明丈)、薮田(和樹)を復活させないと安定した戦いはできない」(日刊スポーツ10月5日付)

 

 2017年のシーズン、岡田は12勝、薮田は15勝もあげている。それが今シーズンは2人揃って0勝に終わった。ほとんど戦力にならなかった。

 

 2人ともコントロールに難がある。前監督はこれを嫌った。総じて野手出身の監督は制球難の投手を遠ざける傾向にある。守っていてイライラした経験があるからだろう。

 

 翻って投手出身の監督は、当事者の気持ちがわかるのか、こと投手に関しては辛抱強く育てようとする。監督交代の狙いも、そこにあるようだ。

 

「松田オーナーも言っていましたよ。“これからの監督には癒し系の要素も必要だ”と。佐々岡監督は2軍と1軍で投手コーチを経験していますが、あまり選手を怒ったりしませんね。細かいことも言いません。“ピッチャーは下半身が大事だぞ。しっかり走っておけ”と基本の大切さを教えるくらい。こうした指導法は、今の若い選手に合っているんじゃないでしょうか」(前出・地元テレビ局記者)

 

 伝統的にスパルタ色の強いチームにあっては、異色の指揮官と言えよう。

 

<この原稿は2019年11月10日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

 


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