5年後に日本で開催されるラグビーワールドカップ2019の組織委員会は5日、試合を実施する開催都市に14カ所から立候補があったことを発表した。立候補申請書の提出は10月末で締め切られており、今後は組織委とW杯を運営するRWCL(ラグビーワールドカップリミテッド)による現地視察や調整を行いながら、選定作業を進め、来年3月に10〜12の開催都市が決定する。組織委の嶋津昭事務総長は「北は北海道から南は九州まで非常にバランスのとれた開催都市申請をいただいた。2019年のラグビーW杯を日本全国で盛り上げて、日本国民全体で楽しめると信じている」と立候補地に感謝の意を表明した。
(写真:立候補地のボードとともに記念撮影する嶋津事務総長)
 組織委では昨年5月に開催都市の選定プロセスを発表。昨年10月から開催都市選定ガイドラインを配布し、興味を示した64の自治体に配布した。その後、立候補を希望する自治体と個別の交渉、対話を重ね、10月14日からの申請書提出期間で14カ所からの届け出があった。政令指定都市以外の自治体には、試合の運営基盤の観点から都道府県との連携を組織委が要請しており、釜石市、熊谷市、豊田市、東大阪市は、市と都道府県が連名で立候補を行った(熊本市は政令指定都市だが、県と共同で申請書提出)。

 14カ所のうち、13は既存のスタジアムを活用する方針。岩手県・釜石市のみ東日本大震災で津波被害を受けた鵜住居(うのすまい)地区に新設予定のスタジアム(15,000人収容予定)を会場として申請した。

 14という立候補数について、嶋津事務総長は「多からず少なからず」と率直な感想を述べた。組織委では財政基盤を確立すべく、開催都市には全体で約36億円を分担してもらう意向だ。分担金は開催する試合のカテゴリーや収容人員などに応じて割り当てる。地方財政も厳しい中、さらに負担増となるため、申請を見送った自治体もあったとみられる。立候補地は全国に分散しているとはいえ、巨大スタジアムのある新潟、横浜、広島などは手を挙げず、中四国や日本海側の地域に“空白地帯”も生じた。

 この点に関して、嶋津事務総長は「開催都市だけでなく、バックアップするキャンプ地は2倍、3倍の数になる。開催都市だけでなく、キャンプ地も含め、さらに広がりを持って地域住民とともに全国規模でW杯の成功を目指していきたい」とキャンプ地への立候補に期待を寄せた。キャンプ地は来年のイングランドW杯終了後、16年春以降に選定プロセスを発表。大会スケジュールが確定する17年に各出場チームが候補地を視察、検討して決める流れになっている。

 一方で、九州は福岡、長崎、熊本、大分と4カ所が立候補。地域性の観点から開催都市が絞られることも予想されるが、嶋津事務総長は「先入観は持たない。熱心に取り組んでいただいている証拠」とフラットな状態で選考に臨むことを強調した。

 ただし、東日本大震災の被災地でもある釜石、仙台に対して嶋津事務総長は「選定にあたって先入観を持たれたくない」と繰り返しつつも、「世界に日本の復興を示す絶好のチャンス」との個人的な心情を吐露した。釜石と東大阪の花園に関しては、ラグビーW杯2019日本大会成功議員連盟から日本ラグビーの拠点として試合開催へ整備を行うよう決議がなされている。嶋津事務総長は「そういう状況で立候補していただいたことは受け止めている」とも発言した。

 立候補地が出揃い、開催都市を決める上での課題は各会場の収容人員だ。組織委がガイドラインで開幕戦、準決勝、3位決定戦、決勝の実施目安として示した収容能力は60,000人以上。この要件を満たす会場は新国立競技場しかない。既に開幕戦と決勝は新国立競技場で行うことが決定しているが、嶋津事務総長は「準決勝以上は新国立競技場で開かれる可能性が高い」との見解を示した。もし、これらすべてを新国立競技場で実施すれば、最低5試合を行うことになり、他の開催都市数や各会場での試合数にも影響が出てきそうだ。

 また、日本戦やティア1と呼ばれる強豪チーム同士の対戦カードの目安である40,000人以上収容のスタジアムは札幌、静岡、豊田、大分の4つのみ。逆に決勝トーナメントの開催条件として挙げられた35,000人以上を満たさないスタジアム(釜石は予定人員)は9つを占める。仮設スタンドなどで収容人員を増やす対応策をとる会場も出てくるが、嶋津事務総長は「どのくらいの席数を確保するかは開催する試合の内容に応じて計画する」と今後のプロセスの中で調整していく考えだ。

 加えて、試合実施にあたってのフィールドの改修や他競技との調整も不可欠になる。既存の立候補会場で専用のラグビー場は2つ。Jリーグやプロ野球のホームスタジアムとなっている会場が9つもある。来年開かれるイングランドW杯では13スタジアム中7つがサッカースタジアムで、IRB(国際ラグビー評議会)はフィールドやインゴールの広さなど会場規格の条件を緩和した。改修には当然、費用もかかることから、今回もIRB、組織委、立候補都市との協議が必要になってくる。

 さらにW杯を開催する9〜10月はサッカー、野球ともシーズンが佳境に入る。陸上競技の大会やイベントも多い季節だけに、嶋津事務総長は「各競技団体との調整は課題。Jリーグ事務局や日本プロ野球機構で調整をお願いし、日程を詰めていく過程で相談していく」と語った。

「2020年のオリンピック・パラリンピックは東京中心、2019年のW杯は全国で盛り立てるのが基本的なポリシー」
 選定にあたっての基準を嶋津事務総長はこう掲げる。「ラグビーを日本全国に普及、発展させる」という理念と、チケット販売や運営コストなどを踏まえた収益面とを天秤にかけながら、来年3月まで開催都市選びが進んでいく。

 立候補地と会場候補は以下の通り(数字は現時点での収容人員)。

札幌市        札幌ドーム 41,484(固定席のみ)
岩手県・釜石市   釜石鵜住居復興スタジアム(仮) 15,000(予定)
仙台市        仙台スタジアム(ユアテックスタジアム仙台) 19,694
埼玉県・熊谷市   熊谷ラグビー場 24,000
東京都        新国立競技場 80,000(予定)
静岡県        小笠山総合運動公園エコパスタジアム 50,889
愛知県・豊田市   豊田スタジアム 40,000
京都市        西京極総合運動公園陸上競技場兼球技場 20,588
大阪府・東大阪市 花園ラグビー場 30,000
神戸市        御崎公園球技場(ノエビアスタジアム神戸) 30,132
福岡市        東平尾公園博多の森球技場(レベルファイブスタジアム) 22,563
長崎県        長崎県立総合運動公園陸上競技場 20,246
熊本県・熊本市   熊本県民総合運動公園陸上競技場(うまかな・よかなスタジアム) 32,000
大分県        大分スポーツ公園総合競技場(大分銀行ドーム) 40,000(可動席含む)